住所不定無職をかっこ良く言うと
「見えてきたわよ」
森を抜けるまでしばらく歩き、更にそこそこの距離を歩いた先に見えたのは、おおむね外周を柵で囲っている感じの集落だった。見上げるほど大きな建物は見た感じでは無いし、高くて3、4階建ての石造りや木製の家屋が乱雑するさまは別に都市計画とかそういった高尚なものの無いことを伺わせる。
「さて、あなたの事だけどどうしたものかしら。記憶がないって言っても家に住ませるわけにもいかないしなぁ……宿に泊まるとして、持ち合わせはあるのかしら?」
持ち合わせ、というとお金だろうか? 生憎と価値の有りそうなものは……(出処不明の)魔石が少々(多すぎるくらいには)あるけども、それでいいのだろうか。
「旅人が宿に泊まる対価なら普通は魔石でしょうに……はぁ、ちょっとどころじゃなく心配だけれど、私だってあなたにかかりっきりになれるほど暇じゃないのよ。ま、一応持ち合わせがあるっていうんだから宿だけ紹介するわ」
連れて来られたのはそこそこ大きな建物。まあ宿だというし多くの人が入るのであれば箱も大きくなるわけだ。下手すればこの村で一番大きいんじゃないかとも思うがどうなんだろうか。
「そういえば名前を言ってなかったわね。私はカラ、村じゃ中央のあたりに家があるから何かあったら訪ねてらっしゃいな。あなたは……そうよね、名前もわからいのよね」
ふむ、名無しと言うのは確かに不便である。かといってなにか適当に名前を付けるにしてもなぁ……とりあえずは旅人と名乗っておこうかなぁ。
「あなたねぇ……まあいいわ、それじゃあね」
ありがとうと笑顔で手を振ると、軽く手を振り返して去っていった。結局顔も見れないままだったがいい人だったんだろうな、心配してくれてたみたいだし。さて、ここまで来て野宿なんてありえないしとりあえずは宿に入ろう。
「ん? 客かい?」
入ってすぐのロビーだろうか、右側にあるカウンターから声が掛かる。おばあちゃんというのだろうか、老齢の女性が気だるそうにこちらに視線を向けていた。はいそうです客です。
「ふん、部屋は空いてるよ。でもまずはお代を払いな」
先払い式、まあ普通か。万一のことを考えると手を付けていいものか不安にもなるが他にあるわけでもないので、とりあえず一握りカウンターに置く。そういえば相場だのといった常識もないんだったと困ったときは適当に出して相手の出方を見よう。名案だね。
「……どれだけ滞在する気だい?」
逆にここの宿はこれでどれだけ滞在できますか? と笑顔で聞いてみる。わからない事があれば素直に聞くのも名案のはず!
「はぁ、ウチだってぼったくりゃしないよ。これなら3食豪勢にしても2月はゆうに泊まれるね。そら、腰のは預けるかい?」
腰の、というと剣だろうか? どうやら鞘ごと外せるみたいだし、せっかくの好意に甘えるというのも円滑なコミュニケーションの一助、といやつでは無いだろうか。持った感じそんなに重くもないがおばあちゃんが持てるかわからないのでほいと渡すことはせず鞘の中程を手のひらに乗せて持ちあげれるようにする。
「それじゃ……!? なんだいあんたこれ、なんて重さだよまったく。見た目通りの剣じゃないのかね?」
え、そんなに重いですかね? まあおばあちゃんには辛いかもしれないし、やっぱり自分で持っておきますよ、ははは。
「それなら1階の部屋におし。下手に上の階で床を抜かれたらたまったもんじゃないよ」
……そこまで重いのだろうか、これ。そんなことないとおもうんだけどなー。




