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≒40km/h

 いきなり生命の危機に襲われたせいでとっさに逃げ出したわけだが、森の中というのは走りやすいとは言えない環境だった。地面こそ平坦だが障害物の木が邪魔になることも多い。とはいえそれは後ろから追いかけてきている熊っぽいのも同じことだろう。


 流石に木をなぎ倒して追ってくるということもなく、ちょこちょこと避けているおかげで思ったより速度が出ていないようだ。思ったより自身の身体能力が高いのも逃げるのに大きく役立っている。とはいえこのまま逃げ続けて逃げ切れるかどうかは怪しい。


 だからといって逃げ無いという選択肢もないので逃げ続ける。どうせ移動するのならもっと安全にゆったりと移動したかったものだが、目覚めた瞬間に目の前に居なかっただけマシというものであろう。今の鬼ごっこが良いものかといえばそんなことはないが。


 ふと鞘が木にぶつかった拍子に腰の剣の事を思い出す。ひっかかっていたら追いつかれていたかもしれないが、引っかかるような部分は柄の辺りだけなほどに飾りがないので余程のことがなければ大丈夫だろう。けれどもこの剣一本身一つで熊っぽいのに立ち向かえるかと言われれば……


「GRAAAAAA!!!」


 他にどうしようもない状況になるまではその選択肢はとっておくことにしたい。高さこそ自身の倍も無いほどだが質量が違いすぎるだろう。大体、体が覚えている程度で何処まで戦えるというのか。頭に上手く突き刺せば殺せるとして、出来るという保証もない。


 そもそもとして自分が出来る事すら把握していない状況だということを再認識する。このままでは何も知らないまま、何もわからないまま熊っぽいのの餌になる。それはさすがに勘弁してほしい。そう思っていたところで何かに足を引っ掛けて転びそうになる。


 なんとか転がるようにして地面との(推定)ファーストキスを避けるが、後ろから来ている存在がそんな些細な事を考える余裕を失わせる。と、突然頭上を物凄い勢いで何かが通過する。ドシュッという音が後ろから聞こえ、逃げることも忘れて振り向いてみればそこには上手いこと頭に杭を生やした熊っぽいのの姿。


 よくよく足元を見れば綱のようなものが見え、なるほどどうやらトラップのようだとわかる。転がっていなければ今頃自身の頭か胴体は悲惨な目にあっていただろう。ズシンと音を立てて倒れ伏す熊っぽいのを見て、二重に安堵する。


 罠があるということはそれを仕掛けた文明的な存在が近くに居るはずと内心喜んでいると、熊っぽいのが煙のように消失する。残されたのは先程まで確かにぶっ刺さていた杭と、どこかで見たことのある綺麗な石だった。


 忘れっぽいわけでもなし、更に言えば記憶の量も非常に少ないのだ。大きさこそ平均より若干大きいものの、袋にじゃらじゃらと入っていた石と同じものだと結論付ける。結構量があったように思うのだが、あの熊っぽいのから小石1個として集めるのは大変そうだ。


 まあ何にせよ助かった事は確かであるし、展望も見えてきたことだ。自然と顔に笑みが浮かぶのは、まあ仕方ないことだろう。きっとしばらくすれば罠を仕掛けた存在とコンタクトがとれるはずだ。

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