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ある日、森の中

 目が覚めると、そこは森の中だった。背の高い木が多いせいか歩くのに支障はないが、遠くを見渡そうとすれば木が邪魔になる。果たして自分はなぜこのような所に居るのだろうか。そもそも自分は誰なのか、それすらわからくなっている。


 手がかりを探すために辺りを見回すが、これといった特徴のある物は見当たらない。所持品は背負い袋が一つと着ている服や靴、グローブのような動きを阻害しない装具や肘、膝などには軽いプロテクターのようなものが付いている。ベルトには軽いものが幾つか収納できそうになっていて、左側には剣が吊り下げられている。


 特に装飾や紋章もなく(とはいえ家紋などを見たところで何処の者かなどわかる知識があるわけでもないが)、無骨な作りというべき剣を抜いてみると、どうも剣の使い方は体が覚えているというやつかしっくり来る。突くことも出来そうだがどちらかと言えば切るための剣だということがなんとなく理解できるのは、自分が剣士だったということだろうか。


 軽く振ってみたところで記憶が出てくるわけでもないので、一旦鞘に戻し今度は袋の中を調べる事にする。水袋、乾燥した肉のようなものなどが入っていることに少なくとも即座に餓死する心配はなくなる。ついでに一気に見るために地面にぶちまけていたら食料に土がついていただろう。その辺りは丁寧なのか慎重なのか、おそらく自分の性質としてはそちらよりなのだろう。


 他になにか入っていないか探すが、じゃらじゃらと大きさの違う綺麗な石がある程度入っているくらいで特に入っていなかった。こういう時は手記だの日記だのといった本が入っているものではないのだろうか、といったところでふと気がつく。


 こういう時、つまり今のような状況にありがちな事に対する知識や肉を見て食べ物だと分かる程度には記憶、と言っていいのかは分からないが、とにかく情報を持っているらしい。というのも無差別に思い出そうとしても浮かぶものはなく、物を見たり状況に対してぽろりと出てくるもののようだからだ。


 ということは、色々なものを見ていろいろな状況に遭遇すれば、いつかは記憶も戻るのだろうか。別に焦りのようなものも無いのでとりあえずはそういうものだとだけ覚えておく。とりあえずは記憶より先に生きるための基盤が必要だろう。


 ずっとここに居たところで誰かが来るというような目印、足跡なども見つからないので、恐らくはこのままここに居たところで水や食料が尽きるだけだろう。かといって適当にぶらぶらしたところで、気がついたら元の場所に戻ってましたなど今は笑えないだろう。


 太陽なり星なりが見えればある程度の指標に出来そうだが、森だからという以上に薄暗い空を見たところそれは期待出来そうにない。というか今が昼か夜かすらわからないが、明かりも持たない自分がある程度は周りを見渡せる事を考えるに昼だろうか。よほど夜目が効くという可能性も否めないが。


 闇雲に動いたところでいいことがあるわけでもないが、とはいえいつまでもじっとしている訳にもいかないのである程度の当たりをつけて適当な方向に出来るだけ真っ直ぐ歩いていくかと考えた矢先、ぱきり、という音が耳に入った。


 地面に落ちた樹の枝が折れる音、ということは折れる原因が存在しているはずで。音のした方向を見てみると、予想していたものより厳しい現実が待っていた。


 4足歩行で歩く姿をシルエットだけ見れば可愛いと表現する人も居るかもしれない。


 見方によってはつぶらな瞳と表現できるかもしれない。


 目と目があった瞬間、これは死んだかもしれないななんて冷静に考えれたのは、ある種パニック状態の一つだったのだろう。


「……GYAOOOOOOO!!!」


 咆哮と同時に、その3メートルの大きさに迫る熊のような怪物から逃げるため、逆方向へと全力で駈け出した。

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