血が滾るというもの
「俺の獲物はこいつだが、お前さんはその剣でいいのか?」
ぶんぶんと柄の長い戦槌が振るわれる光景はなかなかどうして熟練の技を感じさせるというか、棍というよりいっそ破城槌とでもいえそうなハンマーを振り回すのは人間業なのだろうか? あ、でも自分でも出来そうな感じがするからセーフで。
まあその辺の槍なんかじゃ打ち合うも何もあったものじゃない物を見せられて、ほかの武器の用意も無い以上はこの剣を使わせてもらうしかない。というか下手するとこの剣の方がハンマーみたいなものなのではないだろうか?
「よし、じゃあまずはお手並み拝見といこうかね……かぁ!」
気勢を上げるとともに突っ込んでくるシバさん。その初手は様子見というにはあからさまに殺しに来ているように思える真っ直ぐな全力の振り下ろしである。とはいえこの剣と自分の技量ならハンマーの部分を切り飛ばすことも容易そうではあるか……
とりあえず、いきなり壊すのもあれなので剣の腹の部分で打ち合うことにする。先ほどの槍との打ち合いとは比べ物にならない衝撃を、しかし受け流すことなく片手で受け止めきる。……まさか出来るとは。案外様子見というだけあって手を抜いていたのかもしれない。
「んな!? それならこいつはぁどうだぁ!!!」
受け止められた反動を物ともせずに、今度は横からのフルスイング。こちらは今度は衝撃が全て相手の手に集中するよう調節して再び打ち合う。先ほどの打ち合いが響くような音なら今度は鈍い音。それに続いてシバさんが弾かれたように手を放す。戦槌が音を立てて地面に落ちる。
「がぁっ!」
「旦那! 大丈夫か?」
どうやら衝撃を流せずに全部手に食らったらしい。相当痛いというか、下手すれば骨が折れたり弾けたりするレベルの衝撃だったかもしれない。そんな威力でこっちに攻撃してきた訳でもあるが、もう少し加減するべきだっただろうか。
「うぉぉぉ……いや、まじか。こりゃいっそ冗談みてぇな馬鹿力だな」
しびれるのかさすりながらそんなことを宣うシバさん。ヘリオさんたち……にしては視線が多いので周りを見回すと、結構な人数がこっちを見て固まっていた。ミグさんとミナサさんはやけにキラキラした目で見ている。
「おい、お前さんの様子じゃ、ミグとミナサ相手なら二人掛でもあしらえそうだな。よし、いけ!」
「「よっしゃぁ!」」
ノータイムでかかってくる二つの影。確実に致命傷になりそうな突きが二つほぼ同時に迫ってくる。が、同時でない以上は個別に対処しても余裕で間に合う。片方は上へ、もう片方は下へと弾いてやる。ついでにいきなり来たお返しに軽く剣の腹を当ててやる。
「……今の見えたかよ?」
「いえ……道理でヘリオがあれだけ言う訳です」
ぽかんとする二人から少し離れかかってこいと指で示していると、脇でヘリオさんとロニーさんがそんなことを言っていたが聞き流す。剣を当てた所を軽くさすった二人が猛然と突っ込んでくるのを、相手の疲労が大きくなるようにいなしては剣で軽く押してやる。
しばらく二人で……もとい二人と遊んでいると、どうやら疲労が溜まってきたようなのでさくっと気絶させる。おおよその力のコントロールは完璧になったのでこんな芸当も出来るようになったのは、成長というよりは馴染むというやつなのだろう。
「殺っ……むぅ、気絶させただけか」
物騒なことを言わないでいただきたい。しかしまぁお手並み拝見とやらも二人との立ち合いも終わったことだし、今度はこちらの世間話にでも付き合ってもら……あれ? 周囲の目線がさっきよりも……
「次は俺と戦ってくれ!!!」
「俺も! 俺とも頼む!!!」
「私もお願いしたいですね」
「俺ももう一回やらせてもらおうかぁ!!!」
…………やったらぁ!!!
……どうしてこうなった。
目の前に折り重なる死屍累々の山(死人は居ない)を見て、そうつぶやかざるを得ない。結局途中から血気盛んな連中が集団でかかってきたりして乱戦めいた事になった。というか何人か明らかに殺しに来てたよね? おかしくない?
「予想通りっつーか、予想以上っつーか、しっかし現実的な光景じゃねぇなぁ……」
あきれたようにつぶやくヘリオさん、上手い事巻き添えを食わないようにしたみたいだが考えてみれば食堂での彼の一言がそもそもの発端な気もするし彼も仲間入りさせるべきではないだろうか? あーいやさっき同じような目どころかもそっとひどい目に合わせたんだったっけ。




