第84話 新しい店
できた。
ぽつりと、呟いた。
何日かかっただろう。ログインするたびに置いて、崩して、また置いた。
動画は見なかった。
参考にしたのは——自分の記憶だけだ。
今まで行ってきた店。
あの最初に入ったBAR。
BARの空気。
次に入ったカフェ。
カフェの温かさ。
全部が、ここに入ってる気がした。
店内を見回す。
暗めの空間。
でも重くない。
高級すぎない。
煌びやかでもない。
ただ——落ち着く。
喫茶店のような静けさと、BARのような深さが混ざった場所。
ルシアの店に対抗したわけじゃない。
あんな煌びやかな内装は、俺じゃない。
俺の本質はきっと——誰もが落ち着ける場所だ。
カウンターを見る。
前の2倍の椅子がある。
雑談店はカウンターが全てだ。
ここで話してこその店だから。
雑談なら——誰にも負ける気がしない。
それだけは、ずっと変わらない。
最初にフレンド0でこのゲームを始めた頃から。
A姉さんに出会った頃から。
ギルマスに怒られた頃から。
エリーさんに店のことを教えてもらった頃から。
アリスと一緒に歩いた頃から。
全部が繋がって、ここになった。
俺は一人、カウンターに座る。
誰もいない店内。
静かだ。
「皆、来てくれるだろうか……」
声が、少し小さかった。
わからない。
前の常連が戻ってくるかもしれない。
誰も来ないかもしれない。
でも——開けるしかない。
それだけは、最初から変わらない。
俺は一人、カウンターから店内を眺めた。
空っぽの席が、並んでいる。
明日——ここに、誰かが座る。
そう信じて。




