第85話 再開(最終回)
オープン1時間前。
まだ誰も来るはずのない時間に、扉が開いた。
「久しぶりね」
心臓が、一瞬止まった。
「ああ、久しぶりだね……来てくれたんだ、ありがとう」
頭を下げる。
「来るわ。当然でしょ?」
「ああ……そうだな……」
「私はあなたと違うから、コソコソ帰ったりしないわ」
「……気が付いてたのか……」
「私が見逃すとでも本気で思ってたの?」
「いや、そういうわけじゃないが……」
ルシアは店内を見回す。
「素敵なお店ね」
「……ありがとう」
少し、間があった。
「色々考えることがあって……本当に色々考えたんだ」
ルシアが、少し目を細める。
「変わってないのね」
安心したような、ほっとしたような顔で、笑った。
俺も——少しだけ、笑った気がした。
「ああ……実は君に一つ、相談というか……頼みがあってね」
「聞くわ」
「まだ説明してないだろう……内容を聞いてから——」
「聞くわ」
……そうか。そういう人だったな、この人は。
「今まで色んな店に行ってきた。そこでいつも、見ないようにしていたことがあってね」
ルシアは何も言わずに、じっと俺を見ている。
「店を1人でしてる人なんて、殆どいなかった。みんな、誰かと一緒にやっていた」
「……」
「だから、この店は……出来たら手伝ってもらう人を探そうかと思って。でもルシアも知ってるだろう?俺は交友関係が少ない。常連さんはいる……でも」
言葉を、選ぶ。
「味方だと思える人が、カウンターの内側にいてくれたら……どんなに気持ちが楽なのかと思うようになったんだ」
「だから、いつでもいい。君の交友関係で、店に興味があるって人……いないかな?」
ルシアは、じっと俺を見たまま言った。
「それは——私じゃダメなの?」
(いくのか?)
危険度レベルマックスさんの声を――俺は初めて、無視した。
足音。
ルシアがカウンターの内側に入ってくる。
止めなかった。
カウンターの内側に、人が二人いる。
それだけなのに、
少しだけ息がしやすかった。
——それが正しいのかは、まだ分からない。
完
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。
新作『上とんかつ定食から始まる一般人』も始めました。
十年前の軽口を、AIだけが約束として覚えていた話です。
売れない作家と金髪美少女AIの、少し変な同居生活です。
よければ作者ページ、または活動報告から覗いてもらえると嬉しいです。




