第83話 いちから
自分の店に戻った。
ルシアの店を出て、そのままここに来た。
どこかに寄る気にもなれなかった。
じっと、店内を見る。
繁盛した。常連もできた。
一時休業になったけど——それだけのことは、あった店だ。
思い出がある。
ハウジングを覚えた夜のこと。
動画を何時間も見て、真似して、崩して、また作り直した夜のこと。
最初に客が来た時のこと。
カウンターが足りなくて追加した時のこと。
全部、ここにある。
でも——
「あんなのを見せられたら……」
呟いて、笑った。
「俺は、やっぱり店が好きなんだな」
迷いが、消えた。
俺はおもむろに動き出す。
一つ、家具を外す。
また一つ。
また一つ。
丁寧に置いたものを、丁寧に外していく。
崩すのは辛い。
でも——手が止まらない。
この店は完成じゃなかった。
動画を参考にして、オリジナルを足して、それなりに形にした。
でも——ルシアの店を見た瞬間にわかった。
あれが「自分にしか作れない店」の形だ。
俺のこの店は——まだ、途中だった。
全部外し終わった部屋に、一人で立つ。
最初にハウスを手に入れた日みたいだ。
椅子一つない、空っぽの部屋。
でも今は——怖くない。
「いちから作り直す」
誰に言うでもなく、声に出す。
「動画サイトはもう見ない。いつ出来るかわからない。でも——自分の店を作るんだ」
俺にしか作れない店。
俺が思う、本当の完成形。
それがどんな形かは——まだわからない。
でも今は、この空っぽの部屋が、不思議と清々しかった。




