第78話 灯火
ルシアは、来なかった。
次の日も。その次の日も。
当たり前だ。
俺が言ったんだから。
店は開ける。
開け続ける。
それだけはやめない。
でも——カウンターの定位置が、ずっと空いている。
気にしないようにして、それでも目が向いた。
店の音はいつも通りのはずなのに、少し遠くから聞こえる気がした。
フレンドリストは開かない。
開いたら——消せなくなるのがわかってるから。
誰かの笑い声が、いつも通り店の奥で弾けていた。
—そんなある日。
常連の一人が、ぽつりと言った。
「あの……俺さん」
「うん?」
「実は私も……自分の店、したいと思ってるんです」
「……そうなんだ」
「俺さんの店、来るたびに思ってたんです。
こういう場所が、もっとあればいいなって」
胸の奥が、じわっとした。
何かが——認められた気がした。
うまく言葉にできない。
でも確かに、そう感じた。
その常連は、しばらくして来なくなった。
自分の店を立ち上げたらしかった。
それから、また一人。
また一人。
「私も店やってみます」
「俺さんの店がきっかけで、フレンド出来ました」
「こういう店、もっと増えてほしいです」
気づけば——似たような店が、いくつも生まれていた。
ある夜、閉店後に一人でカウンターに座る。
静かな店内。
フレンド0から始めた。
返したくて、店を開いた。
来てくれた人がいた。
笑った人がいた。
また来てくれた人がいた。
そして——その人たちが、自分の店を作り始めた。
もう。
——十分かもしれない。
俺がいつまでも店をしている必要は——ない。
今はもう、俺の店がなくても、この世界には似たような場所がある。
俺じゃなくても、誰かがやってくれる。
「……もう、いいか」
誰に言うでもなく、呟いた。
店をたたもう。
そう決めた夜は——不思議なくらい、穏やかだった。




