第77話 話が、長いよ
気づけば、ルシアは毎日いた。
開店前から。
閉店後も。
営業中もカウンターから離れない。
他の客と話していても、視線がこちらに向いている。
最初は気にしなかった。
でも一日が終わるたびに、少しずつ削られていく感覚があった。
会話は続いているのに、返事の間だけが長くなる。
何を聞かれていたのか、たまに分からなくなる瞬間があった。
嫌じゃないのに、逃げ場がない気がした。
悪い人じゃない。
それはわかってる。
話も面白い。
でも——終わらない。
どこまでも続く。
俺がログアウトするまで、終わらない。
「アルト、今日のダンジョンでな——」
「アルト、リナが——」
「アルト、聞いてるか?」
聞いてる。ずっと聞いてる。
でも今日は——少し、限界だった。
気づいたら、口から出ていた。
「話が……長いよ……」
言ったあと、自分の声だけが少し遅れて聞こえた気がした。
静かになった。
ルシアが、固まっている。
まずい、と思った時にはもう遅かった。
ルシアの表情が、ゆっくりと変わっていく気がした。
怒りじゃない。
何か——大事なものが、音もなく崩れていくような顔だった。
今まで当たり前だと思っていた。
アルトの隣にいても大丈夫だと思っていた。
喋り続けても大丈夫だと思っていた。
でも違った。
迷惑だった。
ずっと、迷惑だったんだ。
「…………ごめんなさい」
それだけ言って、ルシアは走って出ていった。
——静かになった店に、俺一人。
追いかけることも、できなかった。
また——やってしまった。
アリスの時も、そうだった。
大事な人を、傷つけた。
わかってたのに。
わかってたはずなのに。
俺は一体、何をしてるんだ。
ルシアは悪くない。
全部、俺だ。
疲れてたのは本当だ。
でも言い方があった。
タイミングがあった。
もっと別の——
でも、もう遅い。
フレンドリストを、開く。
ルシアの名前がある。
……消せるわけが、なかった。




