第72話 店の日常
リナは、震えていた。
この人は本当に凄い人だ。
憧れに近い何かが胸の奥に生まれて、
それをどう言葉にすればいいのか分からない。
それでも――
「……あの、ルシアさん……私と……」
ピロリン
視界の端で通知が光る。
ルシアからフレンド申請がきました
→はい いいえ
一瞬、思考が止まる。
名前の色が変わる。
それだけの事なのに、世界が少し変わった気がした。
ルシアはわずかに間を置き、笑った。
「今日から私たちは戦友で!ともすればフレンドだな!よろしく頼むぞリナ!」
――先を越された。
リナの胸に詰まっていた言葉は、
一瞬で救われてしまった。
気を使ってばかりだった。
断れなくて、合わせてばかりで。
フレンドという言葉を、ずっと怖がっていた。
それなのに。
「よろしくお願いします!ルシアさん!」
こんなに、あっさり。
ルシアは何も変わらない顔で立っている。
ただ当然の事をしただけ、という顔で。
だからリナは――笑った。
「よかったね~リナちゃん」
「うん!」
「じゃあルシアさん、僕とも」
「ん?……(リナがいる手前、断りづらいか)……まあいいか」
「なんか対応が違いすぎる!」
笑うルシアとリナ。
ルシアは言う。
「ところで、このままじゃまだ店は回らないだろう?
それまで私が手伝いに来てもいいが?」
「やった!店長、そうしてもらいましょう!」
「あ、ああ……わかった、ルシアさんよろしくお願いします」
「ああ、リナ、店長、次からもよろしく頼むよ」
そしてその後も、ルシアとリナは二人で店の手伝いをした。
今ではルシアがカウンターに立ち、
お客さんとの雑談まで回している。
いつの間にか、客との会話の流れを止めなくなっていた。
店長が席を外しても、場が沈まない。
素直に凄いとリナは思っていた。
それ以上にリナがびっくりしたのは、
寡黙かと思われていたルシアが……実は結構よく喋る事だった。
最近はリナとの会話も、
リナがほとんど相槌だけになるほどだ。
しかしリナには、そのギャップが心地よかった。
一緒に居るだけで毎日が楽しくて、気が付けば客も増えていた。
「いらっしゃいませ!」
リナがいつものように元気に挨拶する。
「ルシアちゃん、リナちゃん。今日も来たにゃ!」
「にゃっこさんだ!」
リナは笑顔で迎え入れる。
「おや?にゃっこさん、いらっしゃい。今日も目標は終わったのか?」
「うんうん、今日はちょっと早めに終わったから急いで来たにゃ!」
そう言って、いつの間にか常連と化したにゃっこさんが
カウンターの定位置に座る。
「ふ~、今日も頑張ったにゃあ」
「お疲れ様でした、にゃっこさん。はい、サービスのコーヒーです!」
「かーっ! この為に生きてるにゃ!」
コーヒーアイテムを器用に使いながら、にゃっこさんが言う。
「にゃっこさんの飲みっぷりは惚れ惚れするな」
少し笑いながらルシアが言う。
「ん~……ルシアちゃん……もしかして……」
店の扉が開いた。
「あ、いらっしゃいませ!」
リナが反射的に立ち上がる。
会話は、そのまま切れた。




