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冴えない僕が料理人になって成り上がったった  作者: 御節 数の子
第10章 ほっとする味
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第10章 ほっとする味 ⑤

ジョナンドの人生を聞かされてから数日が経った。キヅカはジョナンドとともに収容されているテンコの面会に向かうことになっていた。ルーツにもその旨を伝えている。


騎士に連れられて地下にあるという牢屋に案内された。ジョナンド曰く、王宮内の牢屋は滅多に使われるものではなく、重大犯罪、特に国家に関する犯罪を企てた犯罪者が収監されるらしい。


とてもじゃないが、テンコがそんなことをするとは思えない、とジョナンドが言ったが、キヅカも同じ気持ちだった。


「ジョナンド様、我々はこの女性を危険人物と聞かされています。本当にお二人を残してよろしいのでしょうか」


牢屋の中にいる女性にちらりと目をやり、ここまで案内してくれた騎士が言った。膝を抱えて蹲っている女性は、ジョナンドの名前にわずかに反応したが、顔を上げることはなかった。


「ああ、構わん」


「・・・私はジョナンド様を尊敬しております。しかし、何か良からぬことがあれば、私は貴方を捕縛しないといけません」


「わかっている。お主の想いを裏切ることはないと断言しよう」


騎士はその言葉を聞いてもなお、不安そうに、しかし、それ以上は何も言わずに敬礼をして、その場を去った。ジョナンドも敬礼で返す。


「ユーリ」


ジョナンドが声をかけるが、彼女は微動だにしなかった。その後もジョナンドは「どうしたんだ」「何があったか話してみろ」と言い聞かせていたが、彼女は全く反応を示さなかった。キヅカは黙って2人の様子を見ていたが、さすがにジョナンドが声を荒げ始めたのを見て、ストップをかけた。


「ジョナンドさん、今日はこれくらいにしておきましょう」


キヅカがそういうと、ジョナンドは冷静になったのか、「ああ、そうだな」とつぶやいて、牢屋を後にする。キヅカは「また、きますね」とだけ声をかけ、ジョナンドのあとに続いた。


「どうでしたか?何かしゃべりましたか?」


騎士はそう聞くが、ジョナンドの顔でその質問の答えはわかっているのだろう。


「いや、反応すらしない。彼女はずっとああなのか?」


「ええ。食事を出しても水を少し口に含むくらいで。決して殺さないように、と言われているのですが」


彼の言葉を聞いて、ジョナンドの顔が変わった。


「ん?誰に言われてるんだ?」


彼はしまった、という顔をしたが、もう遅い。ジョナンドは皿に問い詰める。上司であり、尊敬しているジョナンドの詰問に対して、とうとう騎士は観念したように下を向いた。次に顔を上げたとき、チラリとキヅカのほうに目をやった。キヅカもそれに気づく。その意味は鈍いキヅカでもわかる。


キヅカはその場を立ち去ろうとしたが、ジョナンドがそれを制する。


「彼女はキヅカの恩人だ。なんとかしたいと思っている。だから君の知っていることをすべて教えてほしい」


騎士は隠密とは違う。それに相手はジョナンドだ。あっさりと口を割った。彼の口から放たれた言葉は、ジョナンドたちの想像を超える者であった。もっとも、その内容が真かどうかは吟味する必要があったが。


その後、ジョナンドとキヅカは何度かユーリの元に足を運んでいた。一緒に行った時もあるし、バラバラで行った時もある。少しだけ心を開いた彼女の口からは、彼女の罪が真実であることを告げていた。


ユーリが捕まってから20日が経った。この日はユーリの裁判が行われる日だ。もっとも、裁判といっても被告人が口を開く機会はほとんどない。王宮の牢屋に入れられる罪人は国家転覆など、一般国民に安易に公表できない人物だ。形式上、裁判という名の事実確認をし、国王自ら罪人を裁いたのちに国民に公表される。当然だが、そのほとんどが死刑だ。


それを逃れるために脱獄という選択肢もないわけではない。だが、騎士であるジョナンドをもってしても警備が厳重であること、なによりもユーリ自身にその気がないことから、2人は断念した。だからといって何もしなかったわけではないが、ユーリの罪が事実である以上、難しいことであることはわかっていた。


部屋の中央には罪人であるユーリがいる。後ろ手にされ、その手は縄でくくられている。その縄は屈強な2人の騎士がそれぞれ持っている。さらに足にはおもりがつけられていた。食事をあまり摂らず、やせこけた姿のユーリではあるが、万全の状態でもこれを突破することはできないだろう。


「さて、裁判というのも久しぶりだな。して、今回はどのような人物なのだ?」


国王が部屋に入って来た。その中にいるユーリ、ではなくジョナンドとキヅカが目に入り、国王の眉がピクリと動く。


「ふむ。この裁判は重罪人を裁くもの。傍聴は許可されておらんはずだが?」


「国王様、失礼を承知で申し上げます。私は彼女、ユーリの弁護を努めたいと思います。仮にも裁判であれば、弁護人の同席は可能でしょう」


ジョナンドが言う。この状況で国王に意見をすること、ましてや国家転覆レベルの重罪人の弁護を引き受けることは、すなわち自分にも罪のとばっちりがくる可能性もある。ジョナンドもそれは重々承知だ。だが、ジョナンドは迷うことなく言い切った。


国王も彼の意思がわからないほど愚鈍ではない。しかし、国王にとって、現在の最重要人物はジョナンドではない。


「キヅカ殿も弁護人、ということでよいか」


キヅカもジョナンド同様、迷うことなく「はい」と言おうとしたが、その直前、腹に激烈な痛みが走った。


「いえ、彼は私の助手です。弁護人ではありません」


腹に肘をいれてキヅカの言葉を遮った張本人であるジョナンドは、今度も滞ることなく言い切った。これではキヅカが何を言っても無駄だ。水掛け論に終始してしまい、ユーリの裁判がおざなりになる。


「話が、違うじゃないですか・・・」


徐々に引いていく痛みに耐えながら、キヅカはジョナンドに恨めしそうに言った。娘と運命を共にする父親同様、恩人のために動こうとした決意を踏みにじられたのだ。初めてジョナンドに対して怒りの感情がわく。


「すまん。だが、お前まで巻き込まれることはない。お前のためだけではない。国王のためでもある」


キヅカがはて、という顔をしていると、ジョナンドがさらに小声でつづけた。


「国王はキヅカのことをお気に入りの様子だ。だが、お前が弁護人を名乗るとお前まで裁かないといけない。王宮からは追放だろう。下手すると息子であるルーツ様のつながりも疑われかねない。だからお前は無関係でいるんだ」


国王のため、と言われても、キヅカにそのような忠誠心はまるでない。自分が生きるために必死だ。もっとも、元は異世界に来て死んだに近い身でもある。死への恐怖は否定しないし、覚悟ができているとは言わない。だが、恩を返す姿を見せてから死にたいと、キヅカは思うのだ。


キヅカは納得がいかないが、それを解消するよりも先に、ユーリを挟んで向かい側に座っている、見覚えのある、でっぷりと太った人物が口を開いた。


「重罪人を弁護とは、ジョナンド殿も語るに落ちましたね」


「プロップ・・・」


そう。ユーリを捉えるように指示したのはブロムの腰巾着であるプロップであった。


「さて、裁判を始めよう」


ジョナンドがプロップをにらみつけるようにみる。プロップは「おお、重罪人の弁護人は怖いですね」とつぶやいたのち、ユーリの罪状を読み上げる。


「まず、被告人は1ヶ月ほど前、王宮の馬車の護衛を務めました。馬車は途中で盗賊に覆われました。ユーリはあろうことか、盗賊を一人も倒すことができずに荷物の一部を奪われてしまったのです」


「それは単に護衛任務の失敗であろう」


「『伝説の傭兵』と言われた彼女が、一介の盗賊に後れを取るものでしょうか。明らかに裏で手をひいていたのでしょう。一部で済んだのは、御者である私の部下が優秀であったからです」


「確かにほめられたことではないのは事実だ。だが、先ほども言った通り、あくまで護衛任務の失敗だ。重罪人としてこの場で裁くほどのことではないだろう」


「その件については報告を受けている。たしかにジョナンドのいう通りだな」


国王がジョナンドに同調する。「意外とちょろいか?」とキヅカは思ったが、さすがにそれほど甘くはない。


「いえ、実は私もそれだけだと思っていたのですが、念のため、と彼女の身元を洗うと、とんでもないことが分かったのです。国王様、エリーという名前を憶えておいででしょうか。数年前、第一王子であらせるブロム様に従っていた侍女でございます」


「ああ、そういえばいたな。たしか、ブロムに夜伽をし、王宮から逃げたと記憶しているが」


「ええ。そのエリーこそ、彼女なのです」


ぎり、とジョナンドが奥歯をかみしめる。


「ひ、人違いでは?」


「おや、ジョナンド殿も当然、目にしているはずですよね。彼女はまさにウリ二つ」


「ふむ。確かに痩せてはおるが似ている気がするな。あとでブロムにも確認させよう」


「そして、追加情報がございます」


プロップがニヤリ、と笑みを浮かべる。


「エリーが姿を消す数日前、ミハイル様が襲われた事件がありました。王宮でも一目置かれる切れ者と評価が高く、いずれ宰相の地位に就くものと思われておりましたが、何者かに襲われて(・・・・・・・・)重傷を負ってしまいました。今は療養中とのことですが、彼の証言によると、やや小柄で銀髪の少女(・・・・・・・・)のようだったと証言しています」


「し、しかし、その少女が彼女であるという証拠はどこにもない!」


もう10年以上前の話である。被害者の証言もあいまいになっているだろう。しかも、ユーリは今はやせこけている。国王も記憶があいまいのようだし、一番近くにいたブロムがみても同一人物といえるかは難しい。苦しいがそのあいまいさをつくしかない。


「確かに、物的証拠には乏しいのが事実です。ですが、ここで新たな状況証拠ができました」


プロップは、それでも余裕を崩さない。


「それはジョナンド殿とキヅカ殿、貴方たちの存在ですよ」

今回で最終回と思いきや、まとまらなかったので明日明後日と連投になります。どうか最後までお付き合いのほど、よろしくお願い申し上げます。


誤字脱字などの指摘、ご意見・ご感想等あればぜひともコメント欄にコメントをお願いします。


ちょっとでも評価していただければ、筆者が喜びます。

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