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冴えない僕が料理人になって成り上がったった  作者: 御節 数の子
第10章 ほっとする味
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第10章 ほっとする味 ①

前の章であまりにも多すぎてカットした部分を再掲のような形で組み込みました。


前回、ご案内しましたように、最終章になります。駆け足にはなると思いますが、最後までお付き合いいただけると幸いです。

国王の誕生会のあと、しばらくして正式にキヅカにルーツ付き執事として正式に任命された。そのころには執事としての振る舞いにも慣れ、教育係であるアルフレドからも許可が下りたので今では執事としてルーツの傍についていることが多い。


そのため、ブロムと出会うこともあり、そのたびに「出自の知れぬものなど」と言われたのだが、プライベートな食事の場で国王から「私が任命したのだ」と言われてからは特に何も言われなかった。憎々しい目線は相変わらずであったが。


とある日の午後、キヅカはルーツに命じられてジョナンドを呼びに訓練所に向かっていた。


訓練所の中に入ると、むわっとした熱気が伝わって来た。カンカンという乾いた音も響いてくる。どうやら模擬戦をやっているようだ。


「すいません。ルーツ様のご用命でジョナンド様にお伝えしたいことがあるのですが」


キヅカは一番外側にいた筋骨隆々の男に声をかけた。鎧や剣を身に付けてはいないが、おそらく騎士なのだろう。


「ジョナンド殿なら、今はムチナス様と模擬戦をやっておられるぞ」


「わかりました」


ジョナンドとムチナスの継承のつけ方に少し違和感を覚えつつ、キヅカは前のほうに抜けていく。その奥ではムチナスとジョナンドが木刀で激しく切りあっていた。


いや、切りあっているというのは間違いだ。ムチナスが一方的に切りつけている。ジョナンドは激しいムチナスの木刀をいなしていく。ムチナスは汗を垂らしているが、ムチナスは少し余裕がありそうだ。


どれくらいの時間が経っただろうか。ほぼ場所を変えずに攻防を続けている2人だったが、カン、という高い音ともに1本の木刀が宙に打ち上げられた。中央をみるとジョナンドの手には木刀がなかった。


「俺の負けだな」


ジョナンドが両手を上げて負けを認めるが、ムチナスはジョナンドを見ることなく、木刀を地面に落とした。落ちた地面はカランと音を立てて2つに割れた。


「あれだけ攻めて木刀を折られました。私の負けです」


ざわつきが広がる。木刀が折れるなど、普通の模擬戦ではありえない。たまたまなのか、あるいは攻撃された木刀を同じ部位で受け続けたか。


「ま、引き分けでいいじゃないか」


ジョナンドが手を差し出す。ムチナスは納得までしていないようで、渋々その手を握り返した。


「さて、今日はこれでおしまいだ。今日はゆっくり休んで、明日の仕事に備えよう!」


ジョナンドがそういうと、キヅカのいるほうにやって来た。


「おや、キヅカ、来ていたのか」


「ジョナンドさん。お久しぶりです。最後しか見てませんでしたが、すごい試合でしたね」


「いやいや。俺は数年のブランクがあるからな。ムチナスにはかなわないし、あいつはもっと強くなるさ」


数年のブランクがあってもムチナスの木刀を折るくらいの裁きができるジョナンドが言う言葉ではないだろうとキヅカは思ったが、素人が口を出すこともないかと黙っていた。


だが、黙っていられない人物もいたようだ。


「ジョナンド殿。それならば素直に負けを認めたらどうですか」


その人物はキヅカが訓練所に入って最初に声をかけた人物であった。


「ハルフォードか。先に私が負けを認めたはずだが?」


「状況が変わっても最善を尽くせ。それは貴方の言葉です。最終的に引き分けもあなたから言い出したこと。負けは負けです」


「うーん。そういわれてもな」


「もし、納得いただけないようなら、僕と一戦交えましょう。それとも、体力的に僕とやるのは難しいですか?」


ニヤリと挑発的な笑みを浮かべるハルフォード。それに対し、思案したのちにジョナンドは結論を出した。


「わかった。だが、君の言う通り、僕はもう疲れて動けない。だから、ここにいるキヅカ殿に代わりに試合をしてもらおう」


「どええええええ!!!!????」


ジョナンドがもう1戦するとなると、ルーツ様のところに帰るのが遅くなるなあ、面倒だなあ、と安易に構えていたキヅカだが、思いがけないジョナンドの提案に驚きを隠せない。


「彼が、ですか?正直、僕の相手になるとはおもえないのですが」


「それはどうかな。人は見かけによらないともいうしな」


今度はジョナンドがニヤリと挑発的な笑みを浮かべる。


「い、いや。ちょっと待ってください。この方は騎士でしょう?まともな試合で僕が勝負になるわけないでしょう」


隠れた「筋力2倍」の能力を活かした不意打ちならともかく、正面切っての試合では勝つ云々ではなく、怪我なく帰ってこれるかどうかすら怪しい。


「わかりました」


「ハルフォード様もわからないでください!」


泣き顔で懇願するも、男の泣き顔で男に二言は作れない。あれよあれよという間に、キヅカは防具をつけさせられてジョナンドに訓練所の中央まで連れてこられた。


「ちなみに、ジョナンドさん。ハルフォード様は強いのですか?」


ハルフォードが威勢がいいだけで実は弱いのでは、という一縷の望みをかけてジョナンドに聞くが、絶望的な言葉が返ってきた。


「いや、彼は強い。俺もまともにやって10回に1回くらいしか勝てないな」


それってムチナスさんよりも強いのでは?


キヅカは逃げ出そうとするが、ジョナンドが押しとどめる。


「まあ、待て。とっておきの秘策を教える」


ジョナンドはキヅカに耳打ちをする。それは驚くべき簡単な方法であったが、ジョナンドは自信をもってうなずいた。


「逃げる算段でも立ちましたか?」


ハルフォードが早くも勝ち誇ったように叫ぶ。先ほどの騒ぎを聞いて、一度訓練所から減った人の数が、また増えてきた。早く終わらせよう。ジョナンドの言葉を信じれば、勝負は一瞬でつくはずだ。


「いやいや。ちょっと作戦会議をしていただけだ。弱いものほど、作戦が必要だからな」


「どんな作戦をもってしても、そこの男が勝てるなど、1ミリたりともあり得ませんよ」


ジョナンドはその言葉に返事をせず、キヅカの元を離れる。キヅカは木でつくられた槍を持つ。もちろん、キヅカは持ったこともない。構えすらもどうしていいかわからない。


「剣に対して槍は有効ですが、それだけで勝てるとでも?」


「やってみないとわからないだろう?準備はいいか?」


「いつでもどうぞ」「はい」


ハルフォードとキヅカが同時にうなずいた。


「はじめっ」


ジョナンドの掛け声で試合が始まる。その直後、2人はその場で対峙する。キヅカがしかけることは、もちろんない。一方のハルフォードも仕掛けない。警戒をしているのだろう。


だが、わずか1秒後、ハルフォードはキヅカに向かって木刀を振り上げてキヅカに向かってきた。先制攻撃がないと判断したのだろう。


ハルフォードは速かった。盗賊など、まったく眼中にない速さだ。それでも動いたことはキヅカにもわかった。動いた瞬間にキヅカはしゃがむ。


「はっ!それくらい読めている!」


ハルフォードは振り上げた木刀を縦に振り下ろしながら、横になぐ。カウンターを警戒したのだろう。それは正解だ。キヅカが狙ったのはまさにそれだったからだ。


どごっ


鈍い音がした瞬間、2人を注視していたのはジョナンドだけであった。それ以外の人間は、すべて目を瞑っていた。素人であるキヅカが吹っ飛ばされることを予想して。


彼らが目を開けた後、地面に倒れていたのは、ハルフォードのほうであった。キヅカはその少し手前で、槍を横に持ってしゃがんでいた。


「勝者、キヅカ」


唯一、その瞬間を目にしていたジョナンドが勝ち名乗りを上げる。


「な、何が起こったのだ?」


その言葉は誰が言っただろうか。だが、それを知るのはジョナンドと、試合をしていたキヅカとハルフォードのみだ。


「ゴホッゴホッ!参ったよ。まさか、あのスピードで突っ込んでくるなんてね。ゴホッゴホッゴホッ!」


倒れ込んだハルフォードが咳き込みながら言った。


ハルフォードが大きく振りかぶりながらキヅカに向かってきた。もちろん、胴回りは大きな隙ができる。キヅカはしゃがんで胴を薙ぐように槍を横に持ち替えた。そして、間合いを外すためにハルフォードに向かって飛び込んだ。


だが、ハルフォードも若手どころか騎士の中で1、2を争う腕前だ。いかに油断していてもそこまでは反応できる。相手は素人のキヅカだ。あえて「読んでいた」と口にするくらいの余裕はあった。


唯一の誤算はキヅカが実質筋力2倍の能力を持っていたことだ。飛び込んでくるまでは反応できたが、その間合いは完全に読み違えた。


結果、正面衝突のような形でキヅカの槍とハルフォードの腹が交錯。ひとたまりもなく倒れた、というわけだ。


「しかし、もう一度やれば今の状態の僕でもお前の槍に勝てるだろう」


「お前に次はない。キヅカに殺されたのだ」


ヨレヨレと立ち上がるハルフォードに対し、ジョナンドは静かに言った。


「俺がキヅカを立てたのだ。なぜ俺が助言した可能性だけを追った?なぜ『なにか理由があるのかも』『何か能力があるのかも』と疑わなかった?それがお前の油断だ。戦では何が起こるかわからん。すべての可能性を追うことはできないが、自分がまける可能性は、限りなくつぶせ。そうすれば俺と戦って、10回に1回どころか、1000回に1回も負けることはないだろう」


ジョナンドはその後、訓練所に集まった騎士に聞こえるように大きな声で言った。


「皆もよく聞け。ハルフォードは強い。だが、一瞬の隙や油断で素人にも負ける可能性もある。その一瞬で、人生が終わる。それが騎士だ。いつ何時も、生き延びるために最善を尽くせ。やれることを増やせば生きる可能性も増える。そのつもりで訓練に励め。いいな!?」


『・・・はいっ!』


少し遅れて、騎士が返事をした。


その後、訓練所の中央で大の字になって横になっているハルフォードを置いて、ジョナンドとキヅカは訓練所を後にした。

誤字脱字などの指摘、ご意見・ご感想等あればぜひともコメント欄にコメントをお願いします。


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