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冴えない僕が料理人になって成り上がったった  作者: 御節 数の子
第9章 手間のかかる味
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第9章 手間のかかる味 ②

2022/02/03 第9章がかなり長丁場になったので、本筋とはあまり関係のないエピソードを削除しました。それに伴い、前項に前倒しにした部分があります。お手数ではありますが、今一度、前項から目を通していただけると幸いです。

王宮に来たことを若干後悔するキヅカであったが、すでに後の祭りである。


そんなキヅカをよそに、ルーツはあっけらかんと自分の話を始めた。


「まあ、ちょうどいい。私からは一つ、キヅカに提案があったのだ」


さきほど、ルーツが「キヅカに話がある」と言っていたことをキヅカは思い出した。


「キヅカは僕の専属シェフ、という名目で王宮に迎え入れたが、現状、やれることは少ない」


それはキヅカも感じていた。だからこそ、厨房の料理人にレシピを教える時間が1週間も作れたのだ。


「さっきのことにもつながるのだが、あまりに仕事がないと私にとってもよくはないからね。僕専属の執事、というのはどうだい?」


「執事、ですか?」


ルーツは「ああ」とうなずくと、手を2回、叩いた。すると奥の部屋から老年の執事が現れた。老年、といっても背筋はピン、と伸びており、うごきはきびきびしている。年齢は不明だ。40歳と言われも納得はしてしまう。


それにしても、とキヅカは思う。


はじめからこの部屋にいてもよさそうなものなのに、この演出のためにわざわざ奥の部屋にいたのだろうか。


「彼が今の僕専属の執事、アルフレドだ。アルフレド、ジョナンドは知っているな?もう一人はキヅカだ。前に話をしただろう?」


「ジョナンド様、お久しゅうございます。お変わりないようで何よりです。キヅカ様、初めてお目にかかります、アルフレドでございます」


アルフレド、と呼ばれた執事は恭しく頭を下げる。キヅカも慌てて頭を下げる。


「こ、こちらこそ初めまして。キヅカ、と申します。よろしくお願いします」


「アルフレドは僕の子どものころから仕えてくれていてね。なんでも知ってるし、教わったことも多い。だが、もういい歳だ。国内での仕事はともかく、長旅となる他国への遠征はちょっとしんどそうでな。後継も探していたんだ」


「私を老人扱いするとはひどいですな。ただ、まだまだ働くつもりでございますが、ルーツ様からこういわれしまえば、私はもうお払い箱・・・」


「そこまで言ってないだろう。王宮内ではまだまだ働いてもらうぞ」


「ええ。ルーツ様のことならなんでも知っています。それこそ、アソコ(・・・)の大きさまで・・・」


ルーツはアルフレドの脛を蹴った。それも思い切り。


「痛いですぞ。ルーツ様。老人をもっと労わってくだされ」


「老人扱いするなと言ったり老人扱いしろと言ったり、忙しいやつだな。とにかく、辞めろ、とは言わないが遠征にはキヅカを連れていく。その分、奥さんに尽くしてやれ」


「ありがたきご配慮にございます」


ジョナンドがキヅカにそっと耳打ちをする。


「キヅカ、心配するな。いつも通りだ」


主従関係であるはずなのだが、漫才のような、友人のような関係にも見える。お互いの信頼関係があるのだろう。


「話を戻すが、キヅカには今日からさっそく執事としての振るまいを身に着けてもらう。アルフレドが教育係だ。で、ついでに文字の読み書きも教えてやってくれないか?キヅカもそれでいいな?」


「かしこまりました」


「わかりました」


キヅカは仕事というものもほとんどしたことがない、せいぜいフービ・ジョナで働いた経験しかない。そんな自分が、王族の真ん中、それも専属という立場で執事として働くことができるのか、不安ではあったが、キヅカが王宮で働くためにはその道しかない。ルーツは疑問形で聞いたが、実質は命令だ。頷くしかない。


その後、アルフレドとキヅカは別室に移動した。


「キヅカ様。いえ、キヅカ殿。これからあなたを立派な執事に育てますので、着いてきてください。1ヶ月、いや、20日後には必ず立派な執事として人前に立てるようになるでしょう」


「は、はい」


執事というのは文献で知ってるくらいだ。実際に目にしたのはハバネル邸にいたカムシロフくらいなもの。ただ、あの時はあくまでお客さんであり、別件で頭を悩ませていたので、彼の仕事はほとんど知らない。「できる執事」くらいの印象だ。


「執事、という職業について、まず初めに言っておかないといけません」


「はい」


これは、いきなり説教から入るのかなぁ。嫌だなぁ。


キヅカは早くもうんざりした気持ちになったが、流石に初日から雷を落とされるわけにはいかない。神妙な顔で話を聞く。


「執事にとって、一番大切なものはなんだと思いますかな?」


「え、えっと…」


唐突な質問に戸惑うキヅカ。過去の文献を思い出して答えてみることにする。


「主人を第一に考えること、ですかね」


無難すぎる答えだと思うのだが、アルフレドは首を横に振った。


「その考えは二流ですな。一流は自分を一番に考えますな」


「自分、ですか」


「はい。自分が何をしたいか、何ができるか。まず、それを知ることですな。その上で主についていくべきですな」


「えっと・・・もし、自分がしたくないことを言われたときはどうすればいいのですか?」


「そんな主は二流ですので、さっさと袂を分かったほうがよろしいですぞ」


やや口調が気になるところであるが、それを差し引いても衝撃的なアドバイスだ。執事たるもの、つねに主人の言うことに従うように、と言われるかと思った。


ただ、よく考えれば「物を言える執事」のほうが、主人のためになるのかもしれない。間違った道に進ませないことも、執事の勤め。そう考えると、なるほど納得ではある。果たして自分にできるだろうか。


「それにそうやって考えるほうがストレスがなくていいですぞ」


ふぉっふぉっふぉっとアルフレドは笑う。案外、高尚なことはないのかもしれない、とキヅカは先ほどの考えを下方修正した。それと同時に、アルフレドに学んで大丈夫だろうか、という疑念もわく。


「どこまで冗談と取るかはお主次第じゃが」


キヅカの心を読んだかのように、アルフレドは言葉を続ける。


「ルーツ王子に仕える者として、どうか彼を友人として支えてほしい」


「友人?」


「ええ。ルーツ様のお立場は非常に難しいものであったな。第三王子であり、王位継承権はあるものの、その可能性は非常に低い。一方で王族として下心のある人間が多数すり寄ってきよった。貴族の中でも同世代の方もおられたが、多くは第一王子であるブロム様に目が言っておったの。疎外感を感じたルーツ様は王宮内でおひとりで過ごされることが多かったな。正直、キヅカ殿を連れてきたときは、このアルフレド、非常に驚いたのな」


確かにルーツ王子よりもやや年上であるが、ギリギリ同年代と言えなくはないだろう。いつのまにそれほどまでの信頼を得ているのか。正確なところはキヅカにわからなかったが、辛い人生を歩んできたのだろうということは想像できた。


「真面目な話はこれくらいにしておこうかの。早速だが、執事としてまずは姿勢が大事ですぞ」


アルフレドの言葉通り、真面目な顔から一転、温和な笑みに戻ったアルフレドの執事講習が始まった。


アルフレドの執事講座が始まって20日が経った。初日に基本的な姿勢と歩き方を教わったのちは、ほとんどが部屋にいるルーツ王子とともに過ごした。おかげで紅茶などの飲み物の入れ方やお茶請けの選択とスケジュール管理に関しては慣れてきた。その間、キヅカには専用の部屋を与えられ、キヅカはその部屋で過ごした。


キヅカは空いた時間に文字の勉強をしていたが、進捗は芳しくない。60種類の文字を組み合わせて単語を作っていくのだが、それが難しい。そもそも60種類の文字を覚えるのが難しい。そのうえで文章の作りはローマ字と似ているのだが、同じ発音でも意味や文脈で違った文字を使う。すでに20歳になって言語形成が終わったキヅカにとって、60種類の文字を自在に操るのは困難を極めた。


ある日の夜、水浴びで身体を整えたルーツに、キヅカは紅茶を出していた。


「キヅカ、明日の予定はどうなってたかな」


基本的なスケジュール管理のほとんどはアルフレドが行っているが、夜のこの時間にルーツがキヅカに翌日のスケジュールを聞くのが恒例となっていた。


「明日は朝食後、国王様にノルプスクエ視察の報告をする予定です。昼食後にハバネル様と会合の予定になってます」


キヅカはつたない字で書いたメモを見ながら、キヅカは答えた。かしこまった言葉遣いもだいぶとなれてきた。


「ありがとう。国王との報告の時はキヅカも一緒に来てくれないか?」


「僕も、ですか?」


昼食時や外交の時など、執事が同行することが多い。だがルーツはほとんどの場合、アルフレドが同行していた。キヅカの執事としての能力もあるが、ブロムと鉢合わせないように、というルーツの配慮だった。キヅカがルーツに同行したのは、2回ほどノルプスクエへの視察に行ったくらいだ。


そのキヅカを、なんと国王の前に連れていこうというのだ。キヅカが戸惑うのは当然とも言えた。


「よろしく頼むぞ」


行きたくない、という気持ちもないではなかったが、わざわざこのタイミングで国王様に面会することに何か意味があるのだろうと思う。


「わかりました」


キヅカとアルフレドはルーツに挨拶をすると部屋を出る。


「キヅカ殿。今日は文字の練習は辞めにしましょうな。明日のために今日はゆっくり休んでくださいな」


アルフレドはそういってキヅカの元を去った。キヅカは若干不穏な空気を感じたものの、素直にアルフレドの助言に従う。少しだけ文字を書き起こしたが、ねむけがくるとろうそくの炎を消し、すぐにベッドに入る。

誤字脱字などの指摘、ご意見・ご感想、料理に関するリクエスト等あればぜひともコメント欄にコメントをお願いします。


なお、リクエストに沿えるかどうかは保証しかねますのでご了承ください。


ちょっとでも評価していただければ、筆者が喜びます。

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