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冴えない僕が料理人になって成り上がったった  作者: 御節 数の子
第9章 手間のかかる味
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第9章 手間のかかる味 ①

キヅカの王宮での生活が始まりました。


この章は全体的に長めの更新が続きます。


2022/2/3 あまりにも9章が長引いたので、一部エピソードを削除しました。本筋とはかかわりのない部分なので、ご了承いただければ幸いです。

キヅカがルーツ第三王子の専属シェフとなって、早くも1週間が経過した。


ルーツにスカウトされて王宮に入った初日、さっそくキヅカの出番が来た。昼食時が過ぎた直後にブロム第一王子が「昼食を食べたい」と言ってきたのだが、キヅカはあまりものであるフービ・モーのこまぎれを使ったハンバーグを作り、バーラーで挟んで即席のハンバーガーを作って見せた。味付け万人受けするしょうゆ味。ガジャイモを使ったポテトチップスも作った。


おそらく、王宮で出す「洗練された味付け」とは正反対の、ジャンキーな味に仕上がったと思うのだが、噂に聞く限りは好評だったらしい。当然、キヅカの名前は出さないでもらった。もともとブロムとの確執があるというのもあるが、先の祝宴の件や、そもそも、今の肩書が「ルーツ専属」である。ブロムの食事に手を出した、となればルーツにまで迷惑が掛かるだろう。ルーツもそれを了承した。


その後、多くの厨房のスタッフからキヅカを見る眼が変わった。ハンバーガーのレシピを教えてほしいという声も聞かれた。勉強熱心な厨房スタッフに、空き時間を利用して何度かハンバーガーの作り方をレクチャーした。そこでキヅカは痛感したことが一つある。


「文字を書けないのは辛い」


言葉の壁はご都合主義でなんとかなってはいるものの、言語の作りは元の世界とは全く違う。しゃべることはできても読み書きはほとんどできない。何かしらの法則はあると思うのだが、日々の忙しさにかまけてさぼってしまったツケが回ってきた感じだ。


苦労しながらも1週間かけてようやくレクチャーを終え、本格的に言語を勉強しなければならないと思ったキヅカは、とりあえずジョナンドに相談することにした。


キヅカが従者に聞きながら進んだ先は室内訓練所だった。外からも木刀の打ち合う音が聞こえてくる。


そっと扉を開けて中に入ると、木刀の打ち合う音がさらに大きくなった。その周りには鎧こそつけていないが、その分、引き締まった身体が目立つ騎士と思われる多くの人がいた。彼らの視線の先にはジョナンドと、そしてムチナスがいた。


数合ののち、カンという高い音がして木刀が宙に舞った。見下げるとジョナンドの手元から木刀がなくなっている。


「負けたよ」


ジョナンドが静かに両手を上げる。先ほどまできわどい打ち合いをしていたというのに、まだ余裕はありそうだ。一方のムチナスのほうは勝ったというのに額に汗を浮かべ、肩で息をしている。


「・・・実質、俺の負けですね。俺のほとんどすべての攻撃を受け流し、息を荒らすこともない。一方、俺は木刀を跳ね上げることで精いっぱいだ」


なんとか息と姿勢を整え、自らの状況を確認する。


「そうはいっても、攻めるより守るほうがしんどいに決まっておろう。腕を上げたな」


「この状況で褒められても嫌身にしか聞こえませんよ」


ジョナンドの称賛に、ムチナスは苦笑いで返す。しかし、その顔には充実感もある。


「あなたの腕は、少なくとも致命的に衰えていない。新兵の教育をよろしくお願いしたい」


「もとより、そのつもりだ」


どうやらこの模擬戦は、ジョナンドが騎士の教育に値するかどうか、ムチナスによる試験だったようだ。ムチナスとしては数年間も現場を離れていた人間が、いきなり現場復帰して大きな顔をしてほしくない、といったところだろうか。ムチナスの立場もわかるが、それをはねのけたジョナンドに称賛の声が上がる。


もっとも、いい顔をしていない騎士も数人、見受けられるようだが。


「お、キヅカ、きてたのか。恥ずかしいところを見られてしまったな」


キヅカに気付いたジョナンドがこちらに歩いてくる。騎士たちの注目が一気に集まって気恥ずかしい。


「いえ。お忙しそうなのでまた今度にします」


「今日の俺の仕事は決闘でほぼ終わりだ。ちょうどいいから歩きながら話そうか」


ジョナンドはそういうと、素早く汗を拭いたのちに訓練着から鎧に着替えた。2人は訓練所から出て王宮の廊下を歩く。


「で、キヅカ、聞きたいことはなんだ?」


「あ、はい」


キヅカはすっかり忘れていたことを思い出す。今ある悩み、すなわち、文字の読み書きに関してジョナンドに相談する。


「うーん。俺も一応、騎士団長までなったから、一通りの読み書きはできる。ただ、さすがに騎士の教育があるからなあ・・・」


この王宮で最も相談しやすいジョナンドにそういわれてしまっては困る。


「ルーツ様に相談してみるか。いずれにしても王宮に勤める上で文字の読み書きができないと困るだろう」


ジョナンドはルーツの部屋に向かう道すがら、この国の教育について話してくれた。


貴族はもちろん、一般市民でも通える学校というものがあるにはあるのだが、一部の街にしかない。だから都市で働く人の識字率は高いが、農村部では低いのだという。そのレベルに関しても貴族通うレベルの学校と一般市民の通う学校では、教育内容やそもそも卒業までの年数も異なるという。


「正直、お前が文字の読み書きができないとは驚いた」


「そうなんですか?」


「ああ。商人のところに丁稚奉公に行くとか、特別な事情があれば別だが、基本的には文字の読み書きができない人は簡単な計算はともかく、複雑な計算は無理だ。逆もまたしかりだ。お前は可ね感情も簡単にこなしていたし、メニューも読めてた様子だったから、てっきりその辺の教育は受けてる者と思っていたが」


「計算はともかく、メニューに関しては少なかったですし、挿絵もありましたのでなんとかなったのですが。それに僕の考えるレシピをまとめたりするのに、メモを取る必要があるので」


「噂に聞くとブロム王子に食事を出した、とか?ギョショウを使うなんて、お前しかいなかろう」


やはり、あの調味料はかなり特殊らしい。日持ちがするものとはいえ、あの祝宴から数か月経ってなお、ほとんど残っていた。ということは厨房が持て余していた、ということだ。珍しい調味料を使っての料理が誰が作ったか。導かれる答えは一つしかない。


「まあ、たまたまです」


「俺も食ってみたかったな」


「そのうち、食堂のメニューにのるんじゃないですかね。原材料もほとんど変わりませんし、作り方も教えたので」


「そうか。それは楽しみだ」


世間話をしていると、王宮の端に到着した。廊下に座る騎士にルーツに取り次いでもらえるように言う。


そういえば、約束もしていない急な訪問だけど、会ってくれるのだろうか。


若干不安になったが、あっさりと会ってくれるらしい。これまでは応接室のような小部屋に案内されたが、今回はルーツの部屋に通してくれるらしい。


その前に小部屋で身体チェックを受ける。この世界に来たときは素っ裸になる必要はなかったが、さすがに王宮の、しかも王族の部屋に直接入るので厳重になっているようだ。来ている服をすべて脱ぎ、隅から隅までチェックする。チェックしているのは執事の恰好をしている男だが、実は王族や訪問者を守る重要な「表に出ない」人間だ。


この国に来た一番最初は、勢いもあって「ケツの穴までみてもええで」と豪語したキヅカであるが、さすがになれてきた今ではそこまでの勢いはない。もちろん、やましいことなど何もないのだが、恥ずかしさが勝る。


「ケツの穴」まで見られることはなかったが、武器の類を身に着けいないことを確認された2人は、騎士に連れられてルーツの部屋の前まで到達した。騎士は部屋の扉を3回ノックし、中にいるだろうルーツに声をかけた。


「ルーツ様。先ほどお伝えしました2名、ジョナンド殿とキヅカ殿をお連れしました」


「ご苦労。入ってもらってくれ」


その言葉を聞いて騎士はゆっくりと扉を開く。3人が部屋にはいると、ルーツは「下がってよい」と騎士に声をかけ、騎士は頭を軽く下げて部屋を出ていった。


部屋は豪華絢爛、というわけではなく、落ち着いた雰囲気のある部屋だった。中庭に続く窓があり、部屋の中は灯りがなくても十分に明るい。部屋の中心にはテーブルがあり、花が活けてある。ここが玄関兼客室になっているようだ。向かって右側にドアが2つある。寝室と何かの部屋なのだろう。


「キヅカ、よく来てくれたね。ちょうど話があったんだ。ジョナンドもようこそ」


「ええ。ルーツ様が剣の稽古を嫌がり、寝室で泣いているのを迎えに来た時以来ですかな」


「恥ずかしい話はやめてくれよ」


ルーツは笑っている。突然の訪問であったが、どうやら気を悪くした様子ではないようだ。


「さて、こちらから話をする前にまずはキヅカ殿の要件を聞こうか」


「はい。僕は文字の読み書きができないのです。なので、勉強するいい方法がないか、と思いまして」


ルーツは眉をひそめた。ジョナンドの言葉に従ってルーツの元にきたはいいが、やはりこんな個人的なことを王族であるルーツに話をすることは間違いだっただろうか。


「そうか。店で見たときは客の金勘定もスムーズだったし、特にもめてる様子もないのでてっきり文字の読み書きができると思っていたのだが・・・」


キヅカは若干、事が大きくなっている様子を感じ、少し慌てた。


「あの、文字の読み書きができないと何か不都合でも・・・?」


「不都合というか、基本的に王宮で働くには騎士のように何かに特化しているか、もしくは試験を受けなければならんのだ。ただ、キヅカのように王族自身が特別に雇うと決めた者はその限りではないのだが・・・」


「平たく言えば悪目立ちしてしまう、ということだ。読み書きもできない、目だった特技もないキヅカが、なぜか(・・・)ルーツ王子の目に留まって専属になる。野心のあるものから恨みを買ってもしかないだろう。もっとも、目だった特技はあるわけだけどな」


ジョナンドがルーツの言葉を引き継いではっきりと言い切る。


話の流れで王宮に来てしまったが、間違いだっただろうか。

誤字脱字などの指摘、ご意見・ご感想、料理に関するリクエスト等あればぜひともコメント欄にコメントをお願いします。


なお、リクエストに沿えるかどうかは保証しかねますのでご了承ください。


ちょっとでも評価していただければ、筆者が喜びます。

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