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冴えない僕が料理人になって成り上がったった  作者: 御節 数の子
第8章 お手軽簡単な味
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幕間 〜ルーツ視点〜

父である国王からノルプスクエの視察を命じられた時、私の心は二重の意味で踊った。


一つ目は国王から最初の命を私が受けた、ということだ。


私は3人兄弟の末っ子。それでも15歳とそこそこ年齢を重ねているといっていいだろう。実際、一つ年上であるバルガスは武術の鍛錬を欠かさず、すでに騎士団に所属している。偉大なる父は依然健在ではあるものの、いつ何が起こってもおかしくはない。


「国王レース」の筆頭はやはり第一王子であるブロムだろう。武術に関してはからきしであるが、その点は地位にあまり興味のなさそうなバルガスに一任するつもりのようだ。一方、「第一王子」という肩書と持ち前の話術で着実に人脈を広げている。おこぼれに預かろうとする人間も多く、胡麻を擦ってくる人間にも悪い顔はしない。


バルガスは先ほども述べたように、あまり国王という地位に興味はなさそうだ。


私は、というと、興味はあるものの、やはり現実味がない。武術はブロムよりはできるものの、バルガスには当然、はるか及ばない。知略の面ではブロムに劣ってはいないと自負しているが、自分にブロムのような人脈を広げるすべはない。腐っても第三王子であり、すり寄ってくる人間も多少なりともいたのだが、いかんせん、その腹黒さに耐える性格ではなかった。


実際、ブロムが国王になった暁には役に立たない私は辺境の地へ飛ばされるだろうと思う。それでもそれで、悠々自適に暮らせるのでいいか、とも思っていた。


だが、その気持ちは父からの一言でふっとんだ。


祝宴から数日が経ったある日。私たち3人は父の私室に呼ばれた。父の私室に入るのは10年ぶりくらいか。


「祝宴の件、ご苦労であった」


3人が部屋に入るなり、父が私たちにそう言った。親子ではなく、王としての口調であったのは祝宴が「仕事」であったからだろう。一方で王室に呼ばれなかったのは、おそらく私たちが未熟であるからだろう。


そして一人ひとり、声をかけていく。ブロム、バルガスともに無難なコメントを残していくが、私に対しては雰囲気が変わった。


「ルーツよ。此度の活躍は見事であった」


「・・・はっ。ありがたきお言葉にございます」


ほぼ最上位の言葉に、私は一瞬、言葉に詰まった。この父、いや国王の言葉にはブロムだけでなく、バルガスすらもわずかに動揺を見せた。


「どこでシリウス姫とそのような関係になったかは知らぬが、想い出の品を使っての料理は素晴らしい」


「父上、いや、国王様!」


国王の言葉をさえぎったのはブロムだった。


「失礼ながら発言させていただきます。ルーツが使ったのは悪名高きエビルプルッアです。いくら想い出の品だからと言って『食いつめものの食べ物』を使って他国の姫の婚約を祝うなど、聞いたことがありません」


「確かにあの果実はエビルプルッアだった」


「でしたら、今の発言は撤回していただきたい」


「ときにブロムよ。エビルプルッアはなぜ『食いつめものの食べ物』と言われておるのだ?」


「そ、それは簡単に手に入る割に酸味が強く、常人が簡単に口にできないからです」


「ふむ。では、我々が口にした果実はどうだったか。最後の一品がなければ、何人があれをエビルプルッアといえただろうか」


「そ、それは・・・」


「すなわち、そういうことだ。おそらく、シリウス姫もあれがエビルプルッアであることに気づいていなかったであろう。むしろ、それを隠しておくことすら可能だった。だが、あえてそれをルーツは示した。それが一番の評価だ」


「しかし・・・」


なおもすがろうとするブロムを、国王が突き放した。


「もう一つ、ルーツの功績をあげるとするならこれだ」


国王は1枚の紙を3人に渡した。それはシリウス姫から国王に宛てた手紙だった。シリウス姫の父、すなわちモナセラ国王の名も記されていた。


「な・・・っ」


ブロムが驚きの声を上げる。


そこにはシリウス姫から祝宴開催の礼とともに、エビルプルッアの価値を認めたこと、シリウス姫を中心としたエビルプルッアの「繁殖」を計画すること。そして、事業として成立すればサロハ国に優先的に提供してくれる旨が書かれていた。


「ルーツはあの祝宴一つで他国に一つの事業を提案し、それに付随して我が国にも利をもたらした。これを褒めずにだれを褒める?」


「うぐぐぐ・・・」


「優劣をあえてつけるのであれば、ブロムの食事は年寄りにはかなりつらかった、とだけ言っておこう。モンレとターバを練りこんだソースは新しかったし、うまかったが、脂身の多い肉との相性、それに出席者のことを考えてほしかった」


国王に酷評され、言葉を失うブロム。3人それぞれの祝宴を提案し、結果を残すことでアピールするつもりが、逆に自身の評価を下げる結果となってしまった。


逆に、ルーツは意識はしていなかったが、一番のアピールとなったようだ。


「ルーツはこの気持ちを忘れずに精進してほしい。バルガスは無難だったな。ブロムは今回はうまくいかなかったが、まだまだこれからだ。今回の失敗一つで私の評価は変わらん。同じ失敗は許さんがな」


最後に圧をかけ、3人は部屋を出た。ルーツはブロムににらまれながら、その場をあとにして自室に帰ってきた。その時の気持ちは一言では表すことができない。ちんけな言い方をすれば「ふわふわした気持ち」である。


約1か月後、今度は父から直々にノルプスクエの視察命令が出た。どうやら、エビルプルッアの事業化が本格的にスタートするらしい。これがうまくいくかどうかは不明だが、その時には交通の要所であるノルプスクエが重要な役割を果たす。その準備段階としての視察だ。重役を担うことになる。


その命を賜ったとき、私は身震いした。父から直接称賛の声を聞き、いままでなかった欲が出てきた。国のこと、経済のことを、今更であると思いながら改めて勉強しなおしていた。そのため、なかなか外出する機会も減ってしまっていたが、その折にこの命である。ノルプスクエに行くこと自体が楽しみであった。


意気揚々と乗り込み、村長との話や街の警備についての視察を終え、最後に向かった先は、フービ・ジョナである。この店と、ここで働くキヅカとジョナンドが私の意識を変えたのだ。


思わずスキップしたくなるほどの気持ちをもって店の前に来ると、そこには「休業中」の看板が掲げられていた。時間はすでに昼時である。中の様子をうかがっても、決して何かをやっている雰囲気ではない。


思い切って中に入ってみる。中は暗く、机といすは1/3が取り除かれており、かまどに火が入っている様子もない。これは休業というよりも・・・。


「なんということだ。この店はもうやっていないのか」


思わず私がつぶやくと、奥からジョナンドがやってきた。暗い雰囲気にまぎれて全く気付かなかった。いや、ジョナンド自身にも陰りが見える。


「これはルッツ様。いらっしゃいませ」


このような状況でもきっちり偽名を使ってくる。だが、今日の私はプライベートではない。店の外だが、護衛の騎士も後ろに携えている。その判断ができないのは単に逆光だから、なのだろうか。騎士たちに偽名がバレてしまったかもしれないが、大した問題ではないだろう。


「いや、ルーツでいい。今日は正式なノルプスクエの視察だ。どうやら、モナセラ国でエビルプルッアの本当の価値が認められたらしくてな。国を挙げての事業になるらしい。安定生産への道はこれから探るらしいが、そのときにスムーズに販路を確保できるように、この街の視察を任されたんだ」


「お仕事中に足を運んでいただいて申し訳ありませんが、急ではありますが閉店を決めまして、ルーツ様にお出しできるものが」


「いや、よい。それよりもなぜこうなったのか、教えてはくれないか。何か力になれるやもしれん」


私がそう促すと、ジョナンドは話し始めた。


なるほど。どうやらブロム兄さまの噂が想像以上にダメージだったようだ。噂自体は知っていたが、忙しいのもあって市中に出ていなかったのが災いしたか。この店なら大丈夫だろうと高を括っていた面もある。


私のせいで貴重な人材を失うのは避けたい。なにより私には少し欲が出てきてしまった。国王レースに勝ちたいという欲が。そのためにはジョナンドももちろんだが、キヅカも欲しい。外交で有利になるだろう。となると、とる手段は一つだ。


「ならば王宮に来ればいい」


私は少しの間をおいてこの言葉を放った。当然だが、ジョナンドは困惑した表情をしている。一方でキヅカは驚いた様子ではあるが、どこか他人事のようだ。ジョナンドには悪いが、個人的にはキヅカのほうが本命ではあるのだが。


「しかし、私はすでに退団した身。鍛錬もまともにしておりませんし、今更戻ってもお役に立てるかどうか」


「いや、ジョナンドは指南役として帰ってきてもらう。それがダメなら料理人だな。特に肉の技術は素晴らしいと聞いている」


「よかったじゃないですか。ぼくは、ぼちぼちやりますから。王都なら働き口もあるでしょう。なかったら旅に出て、各地の食材を食べ歩き・・・」


「何を言っている?キヅカも来るのだ。お前は私の専属シェフだ」


「・・・は?」


「聞こえなかったか?お前は私の・・・」


「いや、聞こえましたよ。なんですか、専属シェフって」


「文字通りだな。基本的に王宮厨房で作られた食事を摂るが、各国に出向くときや気が向いた時にキヅカの作った新作料理を食べるのだ。むしろ、キヅカが本命、ジョナンドがおまけまである」


おっと。思わず本音が漏れてしまった。ジョナンドは苦笑いをしている。どうやら私の思惑も悟られたであろう。だが、それに対して口を挟むことはない。


「これは相談ではない。命令だ。腐っても王子の命令に背くと、どうなるかわかるよな?」


私はにやり、と口角をあげた。こういうやり方は本来、私の性には合わないのであるが、スタートが遅れている分、焦りもある。それを抜きにしても個人的にキヅカは気になる存在だ。ぜひとも手元に置いておきたい気持ちもある。


できれば友人としての付き合いもしたいが、前の時もそうだが、あまり印象はよくないだろうし、高望みはしないでおこう。おそらく不躾にこの店に乱入したブロム兄さまよりは印象がいいと思いたいが。


案の定、キヅカは苦い顔をしていたが、私にこう言われて、しかも後ろに騎士を携えた状態で言われてはうなずくしかない。


騎士からは「いいのですか、勝手に決めて」と言われたが、構うものか。言い訳など、いくらでも可能だ。


王都についてジョナンドと分かれ、キヅカとともに厨房に挨拶にいくと、どうやらブロム兄さまが帰って来たらしい。しかも、昼過ぎ、すでに従者たちの昼食の準備も終わる段になって何か作れと言っている。


どうやらキヅカの手腕を間近で見るいい機会になりそうだ。

ルーツの心境の変化、そして今後の展開に期待ですね。


誤字脱字などの指摘、ご意見・ご感想、料理に関するリクエスト等あればぜひともコメント欄にコメントをお願いします。


なお、リクエストに沿えるかどうかは保証しかねますのでご了承ください。


ちょっとでも評価していただければ、筆者が喜びます。

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