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冴えない僕が料理人になって成り上がったった  作者: 御節 数の子
第7章 脂っこい味
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第7章 脂っこい味 ③

なぜ、よりにもよって「第三王子」であるルーツの懇親会が一番盛況なんだ。あいつの序列は一番下だぞ。第一王子の俺が一番もてはやされるべきだろう。


俺は懇親会会場で無理やり笑顔を作っていたが、その心の底でははらわたが煮えくり返っていた。


祝宴に限らず、王宮で開かれる宴会の後には必ず別室で懇親会が開かれる。テーブルごとに決まった席に座って食事と酒を楽しむ宴会と違い、椅子と机は準備されているものの、誰がどこに座るかは決まっていない。軽い軽食が会場の中央に設けられており、自らそれを取りにいく。酒はカウンターで受け取る。そして思い思いの人と談笑する場となっていた。参加も自由であり、途中退席も可能だ。


この懇親会は、その前の宴会がどれだけ盛り上がったかと直結する。少なくとも、宴会を成功とすることの条件の一つに、懇親会の盛り上がりが挙げられる。


一昨日の懇親会のことを思い出し、俺は歯ぎしりをしたい衝動をなんとかこらえた。


俺主催の懇親会は、ひいき目に見ても盛り上がったとはいいがたかった。


まず、参加者自体、それほど多いものではなかった。主催者である王族、主賓であるネルスン王子、シリエル姫は必須。さらには大臣たちは参加したが、その家族の参加者はほとんどゼロに近かった。さらに懇親会が始まって半刻も経たないうちにシリエル姫が体調を崩し、ネルスン王子がそれに付き添う形で退席してしまった。


そうなるとあとはどうなるかはわかりやすい。わざわざ今日という日を待たずとも、明日も明後日も祝宴は開かれるのだ。大臣たちは早々に退席し、予定よりも大幅に早い散会となってしまった。


結果として昨日の第二王子であるバルデスの懇親会は盛況に見えてしまった。その実は普通なのだが、昨日の失態があるからだ?


だが、それはまだいい。どれだけ自分がバルデスより下であろうとも、バルデスは単なる武人。国を治めるには俺みたいに頭も切れないといけない。祝宴一つの失態など、簡単に取り返せる。問題は・・・。


俺は大臣との話が終わり、周りを見渡した。昨日以上の参加者であり、そのほとんどが主催者であるルーツに集まっている。そこに主賓であるシリエル姫とネルスン王子もいるからなおさらだ。


昨日の今日で話す内容などないし、なにより今日の祝宴は大失敗(・・・)だ。だがなんだ。ほとんどだれも帰っていないじゃないか。


「エビルプルッアの何がいいんだか。食いつめ者の食べ物だぞ」


「まったく、本当にございますね」


俺のついた悪態に同意する者がいた。誰かに聞かれたか、と思ってドキッとしたが、声のほうを見ると俺のよく知る顔だったので安心した。副大臣を務めるプロップだ。


「味がいいか何かはわかりませんが、単にお金がないから作り出した苦肉の策でしょう。あれに例えられるシリエル姫が不憫でなりません」


「それを喜ぶシリエルもシリエルだ。いったい、何がいいんだか」


俺はプロップの言葉に同意する。


彼は知らない。本当はシリエルが聡明で可憐な美少女(・・・・・・・・・)であることを。もっとも、ルーツを囮にしてシリエルから逃げていたブロムがその姿を見るチャンスなど、まったくなかったが。


ルーツがシリエルや大臣たちと何を話しているのは、聞き耳を立てなくても想像はできる。おおかた、今日のエビルプルッアのことだろう。


祝宴にエビルプルッアを出すという非常識なことはさておいて、すべての料理にエビルプルッアが入っているとは思わなかった。俺もたいていの食材を口にしたつもりだが、確かに食べたことがない味ではあった。そして、そこに使われた食材は間違いなく「食いつめ者の食べ物」という評価には値しない。それはそれで悔しい。


糞ッ!


俺は今度は、心の中で悪態をついた。


そのとき、ルーツが会場を離れた。


チャンスだ!


俺はルーツがいなくなったあと、シリエルと一言でも話をし、自分をアピールせんとする大臣たちを押しのけてシリエルの前にいった。どんな形であれ、エビルプルッアは「食いつめ者の食べ物」。それを祝宴に出すという弟の失態は、兄がカバーしなければいけない。なんと献身的な兄であろう。


「シリエル姫」


おれはシリエルに声をかけた。振り返ったシリエルに、俺はドキッとした。それは「おてんば姫」ではなく、優雅で美しい姫だったからだ。一昨日は体調が悪かったとはいえ、昨日とも雰囲気が大きく違っていた。


「あら、ブロム様。この度は私たちのために3日間もこういった会を開いていただき、ネルソン共々、誠に感謝しております」


シリエルはドレスのすそをつまんで、軽く膝を折った。その洗練された動作は、おそらくここにいる大臣の奥方のだれよりも美しいだろう。母上である王妃とよく似ている。


この動作に見とれたのは、ブロムだけではなかった。大臣やその奥方も同様であり、そしてブロム以外はキヅカの言っていたことが本当なのだ、と確信めいたものを感じた。


こんないい女なら俺が手籠めにしておけばよかった。どうせ、誰も貰い手がなかったのだから。


ネルソンは文武両道の誰もが認める王子であるが、ブロムには「第三王子」という肩書しか見えていない。


「いえいえ。お世話になったシリエル姫の門出を祝うためですから、これくらい当たり前です」


大変失礼なことを考えていたことをおくびにも出さずに俺は言った。


「それよりも今日の祝宴は申し訳ございません。愚弟がエビルプルッアなどという下賤の食材を使用するとはつゆ知らず、あのような席にしてしまいました」


俺は頭を下げる。


「頭を上げてください。ブロム様。私はまったく気にしておりません」


頭を上げると、そこには女神がいた。微笑んだシリエルは、まさしく女神に等しい、慈愛に満ちた姿だった。


「お優しいのですね、シリエル様は。そういっていただけると、愚弟も喜ぶと思います」


「いえ、本心ですよ。なにせ、私はルーツ様にエビルプルッアを食べさせたことがあります。あの時は大変失礼しましたが、ルーツ様は覚えていて下さったうえに、こうやってエビルプルッアで私をもてなしてくれました。あの時たべた果実はおいしかったのです、と。それが私はうれしいのです」


シリエルの発言に、周りがどよめく。それはそうだろう。エビルプルッアという下賤の食べ物を一国の王子に食べさせたとなれば、国際問題に発展しかねない。だが、ここでそれを公にすることで先ほどの祝宴に意味を持たせたことになる。平たく言えば、「エビルプルッアを出した」という最低な祝宴がいっきに「思い出を昇華させた」祝宴になった。


ちっ


心の中で舌打ちする。これ以上、先ほどの祝宴に関することを言及するのはやめておいたほうがいいだろう。


ちょうどその時、ルーツが会場に返ってきた。ルーツの隣にいる人物が目に入り、俺は目を疑った。そこにはダンヒルが立っていた。


「みなさん、お待たせしました。今日の料理を作ってくれた王宮料理長、ダンヒルです」


おおおお!


一気に歓声が起こる。ダンヒルに視線が集まる間に、忌々し気に俺はその場を離れた。


「ダンヒルのやつ。結局、ルーツと手を組んだのか。使えないやつだ」


俺は何度目かの舌打ちをする。ずっとイライラしている。


「みなさん、ご紹介にあずかりました、王宮料理長のダンヒルだ。あまりこういった場に立たないので多少の無礼はご了承いただきたい。さて、今回の祝宴に関してだが、本当は俺が作った料理ではない。ある人物(・・・・)に言われたまま作っただけだ。本当はその人物がこの場に立つべきなのだが、本人の強い希望で私が代わりに壇上に上がっている。賞賛は彼にしてほしい」


ある人物。それはキヅカだろうということは俺にはわかる。だが、これは朗報かもしれない。理由はわからないが、表に出たくないのだろう。それならば俺が作った(・・・・・)モンレターバステーキを盗作したことにすれば、あの店も終わりだ。誰もキヅカがこの祝宴に参加してるとは気づかないだろう。


この懇親会の中で初めて俺は表面上ではない笑みを浮かべた。


「その人物からでシリエル姫とネルスン王子に伝言を預かっています」


ルーツはダンヒルの言葉が終わると、そう告げた。


「モナセラ国は農耕が盛んな地域であり、サロハ国でもその名前をお見かけします。そこで、このエビルプルッアを『畜産』していただけないか」


ルーツの口から信じられない言葉が出た。やはり、あやつは貧乏人だ。こういうことすら、わからんのだから。


「ルーツ!お主はまだそんな失礼なことを言うのか!たしかに祝宴の料理はお主とシリエル姫との思い出の品であることは伺った!だが、事もあろうに『食い詰め者の食べ物』の畜産だと!?口を慎め!」


俺は勝った、とばかりに胸を張ったが、特に何が起こるわけでもなく、シーンとしたままだ。周りを見渡すと冷めた眼で俺を見るやつもいた。どういう空気だ?


「ブロム様の心遣いは重ね重ねありがたい。だが、聞くか聞かぬかは私が決めます。あの料理を作った者に敬意を表し、私はその者の代弁を許します。」


「僕も興味深いね。シリエルだけじゃなく、僕にもあるんだろう?」


シリエル姫が毅然とした態度で言い、ネルスンもそれに同調した。


その態度と口調を見て、ただのおてんば姫ではないのか、ということをブロムは初めて感じた。


「ありがたき心遣いにございます。エビルプルッアはその不当な評価により、研究が進んでいない魔物であります。聡明なシリエル姫には是非、その生態を解き明かし、畜産に成功させていただきたい。また、成功した暁にはその実を餌にしたフービモーの畜産を、ネルスン王子にお願いしたい。きっと、両国の発展につながると存じます。この度はご結婚、おめでとうございます。謹んでお慶び申し上げます」


ルーツは一礼した。


俺は何か言いたかったが、流石にさっきの雰囲気もある。黙って聞いてるほかなかった。


「ふむ。たしかにエビルプルッアの評価は低い。だが、それが本来の姿でないことは今日の出席者の方々なら十分に理解ができます。あとは予算が降りるか、ですね。して、ネルスンはどうですか?」


「僕も驚いたよ。たしかに餌で肉の質が変わるのではないか、というのは僕の国でも言われ始めててね。うまくいくかもしれないね」


シリエルとネルスンがルーツの、というよりもおそらくキヅカの提案に乗り気だ。非常に良くない展開だが、俺は指を咥えてみるほかはない。


「話はしかと承りました。あとは私たちの手腕、というわけですね。もし成功したら、貴殿に真っ先に持っていくと伝えてください」


これ以上ない賛辞を含めた返事をシリエルがルーツにした。その言葉をもって、ルーツの祝宴及び懇親会は、大成功で幕を閉じた。

誤字脱字などの指摘、ご意見・ご感想、料理に関するリクエスト等あればぜひともコメント欄にコメントをお願いします。


なお、リクエストに沿えるかどうかは保証しかねますのでご了承ください。


ちょっとでも評価していただければ、筆者が喜びます。

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