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記録者  作者: れえもんど
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第五章 エクス大陸 47年 海の冒険者——クラム

エクス大陸 47年 3月


私は砂浜のベンチに座り、港で出航を待つ船々の喧騒と、船の駆動音を聞いていた。寄せては返す波の音に耳を傾けながら、静かに記録ノートを開き、これまでの物語に少し詳細を書き加えていく。


しかし、びっしりと埋まった文字を見つめていると、ふと疑問が脳裏をよぎる。この記録書を最後まで書き上げたところで、本当に読んでくれる人なんているのだろうか? それとも、もっと有名な人を記録した方がいいのだろうか? 例えば、高貴な国王様とか、名を馳せる伝説の剣士とか。彼らに同行して、伝説の宝物を探す旅に出るべきなのだろうか?


私は手で顎を支えながら、どこまでも続く大海原をじっと見つめた。


「んー……」


もし本当に伝説の宝物を見つけて、その過程をそのまま本に書き残せたら……きっとすごく面白いに違いない。


「伝説の宝物か……」私はぽつりと呟いた。


まさにその時——


「ドォォン……!!」


遠くの海面から、天地を揺るがすような轟音が響いてきた。


私は思わず跳ね起きるように顔を上げた。


目に入ったのは、とてつもなく巨大な帆船がゆっくりと港に寄港し、停泊する姿だった。港にはあっという間に大勢の野次馬が集まり、誰もが感嘆の声を上げながら、その圧倒的な威容を誇る海賊船を見上げていた。


私は人混みを押し分けて近づき、隣にいたおじさんに尋ねた。「すみません、あれは商船ですか?」


おじさんは振り返ると、笑いながら言った。「商船だと!? お嬢ちゃん、あれは大海の伝説——義理と人情の海賊船『遊侠号』だぞ!」


その時、一人の荒々しい船員がタラップを降りてきた。人々が一斉に群がる中、船員は大声で叫んだ。「前回の壮絶な戦いで、俺たちは多くの勇敢な兄弟たちを失った! 今から俺たちは伝説の宝を探す旅に再び出る! 俺たちと一緒に船に乗る覚悟のある奴はいるか!?」


「宝」という言葉を聞いた瞬間、群衆は前へ前へと押し寄せ、誰もが我先にと名乗りを上げて乗船を志願した。船長は人混みの中から体格のいい強壮な男たちを何人か選んで乗せた。私はすばしっこく人の隙間を通り抜け、一直線にその船員の前に走り寄った。


船員は私を見下ろすと、手を振って言った。「お嬢ちゃん、早く家に帰りな。ここは子供が来るような場所じゃないんだ。」


私は後退りすることなく、丁寧におじぎをして自己紹介をした。そして、自分の記録ノートを差し出して真剣な眼差しで言った。「私、皆さんの宝探しの伝説の物語を記録したいんです。喜んでお供します!」


船員は一瞬呆気にとられたが、やがてニッと笑みを浮かべた。「ここで少し待ってろ。」そう言うと、彼は船へと戻っていった。


十数分後、船員が再び降りてきて私に言った。「船長がお前を乗せていいと言ってくれたぞ。だが、この旅は生易しいもんじゃない。危険と苦難に満ちているが、本当にか弱きお前に耐えられるか?」


私は力強くうなずいた。「まったく問題ありません!」


*(あの時はあんなに威勢よく返事をしたけれど、後になって、どうしてあの時船に乗ってしまったんだろうと、何度も悔やむことになるとは思いもしなかった。)*


甲板に足を踏み入れ進むと、乗組員が全員男たちばかりであることに気づいた。その瞬間、強烈な緊張感が押し寄せ、思わず身を縮こまらせてしまった。その後、船員に連れられて船長室へと向かった。


船長室の中は普通の部屋のようになっており、机やベッド、本棚が備え付けられていた。正面の奥の席に船長が座っていた。


「お前が例の記録者か?」船長が重々しい声で尋ねた。


船長は分厚いコートを羽織り、髪は薄く、四十代前半ほどの、厳つい雰囲気を漂わせた中年男性。

片目には黒い眼帯をつけていた。


私は慌ててうなずいた。「はい、私です。」


船長はそれ以上何も言わず、ただ一言、「座れ。」と言った。


脇にいた船員がすぐに椅子を持ってきてくれ、そこに腰を下ろした。室内には重苦しく緊張した空気漂い、私の心臓は早鐘のように激しく高鳴っていた。


私の不安を感じ取ったのか、船長は気まずい沈黙を破るように口を開いた。「今回の旅をしっかり記録するがいい。俺たちはこれから、海に眠る至宝を狙いに行くのだからな。」


私は肌身離さず持っているノートと筆を取り出し、顔を上げて好奇心から尋ねた。「船長、どうしてこの船を『遊侠号』と名付けたのですか?」


船長は穏やかに微笑みながら答えた。「俺たちは大航海で正義を守り、各地の巨大都市と交易を行う。俺にとって、この大海原は一つの大きな森だ。そして俺は、その森に生きるただの侠客に過ぎんよ。」


私は深くうなずき、ノートにその言葉を丹念に書き留めた。


「コンコンコン——!」ドアの向こうから慌ただしいノックの音が響いた。「船長、出航の準備が整いました!」


船長は立ち上がり、私に向かって言った。「お前も今日から俺たちの仲間だ。船員としての仕事も手伝ってもらうぞ。」


甲板に出ると、数人の船員が一列に並び、太いロープを全身の力で引っ張っているのが見えた。


「おい! そこでボサッと突っ立ってないで、早く手伝え!」


私は慌てて駆け寄り、ロープを固く握りしめた。「くっ……重い……!」 手のひらに激しい摩擦の痛みが走ったが、歯を食いしばって重さに耐え、他の船員たちと一緒に必死でロープを引き絞った。


やがて巨大な帆が綺麗に広がり、遊侠号は冒険の航海へと突き進み始めた。私は舵取りの隣に立ち、望遠鏡係として前方海域に障害物や危険がないか目を光らせる役目を担った。


舵取りがこちらを振り返り、話しかけてきた。「俺もお前くらい若い頃に、一人で冒険に飛び出したんだ。お前も宝物のために乗ったのか?」


私は振り返って首を振った。「いいえ、宝物よりも価値のあるものを探しに来たんです。」


「宝物より価値のあるものだ?」舵取りは不思議そうな顔をした。


「うん!」私は大きくうなずいた。「今回の宝探しの道のり、そのすべてを記録するために来たんです。あなたは?」


舵取りは急に声をひそめ、冷ややかな目つきで言った。「俺は人を殺して、この船に逃げ込んできたのさ。」


私は恐怖で目を丸くし、じっと彼を見つめたまま息を呑んだ。


「ギャハハハ!」私の怯えた様子を見て、彼は大声で笑い出した。「冗談だよ、冗談! 俺は数年前に親と大喧嘩して飛び出してきたんだ。俺が出来損ないじゃないってことを証明するために、絶対に宝物を見つけて、胸を張って故郷に帰るんだ!」


舵取りは笑って手を差し出し、名乗った。「俺はクラムだ。」


私が自分の名前を言おうとした瞬間、彼はそれを遮って言った。「クロネコ! お前は今日からクロネコだ。」


「ク……クロネコ……!?」私は困惑した。


クラムは手をヒラヒラと振った。「俺、人の名前を覚えるのが苦手なんだよ。だからいつもあだ名で呼ぶことにしてるんだ。」


妙なあだ名に呆れつつも、私はクラムに尋ね続けた。「ねえ、伝説の宝物って一体何なの?」


クラムは肩をすくめた。「さあな。山のような金銀財宝かもしれないし、何か不思議なアイテムかもしれない。」


私は船の手すりに寄りかかり、目の前に広がる無限の海と顔を撫でる心地よい海風を感じていた。時間はゆっくりと夕暮れへと向かっていく。


夜になると、船は速度を落とした。乗組員たちが甲板に集まって輪を作り、楽器を奏でる者、歌を歌う者、音楽に合わせて楽しそうに踊る者たちがいて、みんなで賑やかに夕食を楽しんでいた。


私は甲板の隅に一人腰掛け、今日起きた出来事を静かにノートに書き留めていた。


「おい!! クロネコ!! こんな夜遅くまで勉強か?」


顔を上げると、クラムがこちらへ歩いてくるところだった。「記録をつけているんです。」


クラムは覗き込んで私の書いた文字を見ると、急に振り返って皆に向かって大声で叫んだ。「おい!! 野郎ども!! クロネコが俺たちの伝説の冒険を記録してくれてるぞ!」


船員たちはそれを聞くとワッと集まり、口々に自分が宝を手に入れたら叶えたい夢を熱く語り始めた。


大柄で体格の良い男が前に出て言った。「宝を手に入れたら、俺の妻と娘に何不自由ない暮らしをさせてやるんだ!」


別の船員がすぐに彼を押しのけてツッコミを入れた。「そんなジメジメした記録はつまらん! 俺は宝を手に入れたら、自分だけの海賊船を作ってやるぜ!」


クラムは木樽の上に高々と立ち上がり、声を張り上げた。「俺は親父とお袋に、俺だって大海原で一旗揚げられるんだってことを証明してやるんだ!」


私はみんながワイワイと夢を語り合う姿を微笑ましく見つめていた。すると、一人の船員が振り返って私に尋ねた。「クロネコ、お前は宝を手に入れたら何がしたいんだ?」


私はぽつりと小さく呟いた。「私は……えっと……まだ考えていませんでした。」


それを聞いたみんなは、一斉に笑いながらツッコミを入れた。「クロネコ、それじゃダメだろ! 男なら夢を持てよ!」「そうだぞクロネコ、でかい夢を見なきゃつまらんぞ!」


楽しそうに盛り上がるみんなを見て、私も思わず吹き出してしまった。


深夜、私は甲板の上に横になった。ゆらゆらと揺れる船は、初めて海に出た私にはまだ少し慣れなかったが、夜空に煌めく満天の星々を見上げながら、ふと思った。これが冒険というものなのかな……明日は一体どんな冒険が待っているんだろう。そんなことを考えながら、私は深い眠りについた。


翌朝早く、船員たちの叫び声で起こされた。「クロネコ!! 帆を揚げるぞ、起きろ!」


私は慌てて起き上がり、再び船員たちと一緒に歯を食いしばって重い帆のロープを引っ張った。こうして2日目の冒険が始まった。


瞬く間に2週間の月日が流れた。


望遠鏡で前方を探りながら、私はクラムに尋ねた。「目的地まではあとどれくらいかかりそうですか?」


クラムは答えた。「俺にも分からんが、直感ではもうすぐそこまで来ている気がする。」


その時、望遠鏡の視界の先にいくつかの船影が映った。私は緊張しながら慌ててクラムに報告した。「前方至近距離に、他の海賊船がいます!」


「何だと!?」クラムは驚き、すぐに甲板に向かって叫んだ。「野郎ども、戦闘準備だ!」


「せ……戦闘!?」私は目を丸くしてクラムを見た。


下のアカン船員たちがすぐに私に向かって慌ただしく指示を出した。「クロネコ!! 早く砲弾を運ぶのを手伝え!!」「クロネコ!! 帆を調整するのを手伝え! 全速前進だ!」


私は混乱する甲板の上を忙しく走り回った。その時——


「ズドン——!!」


敵船が遊侠号に気づき、先に砲撃を仕掛けてきた。いくつか弾は海面に外れたものの、数発が遊侠号の船体に激しく着弾した。


「ドドン! ドン!」


遊侠号もすぐさま敵船に向けて大砲を撃ち返し、何発かが敵船を捉えた。


巨漢の船員が大声で叫んだ。「見たかオルラァ!!」


だが隣の船員がすぐにツッコミを入れた。「お前のはただの運だろ! クロネコ!! 判定してくれ、どっちのコントロールが上だ!?」


私は望遠鏡を握りしめ、焦りながら叫んだ。「どっちが上手いかより、今はここから逃げ出すのが先決です!!」


敵船の数が多いことを見た船員たちは、すぐに煙幕弾をいくつか投射して視界を遮り、濃煙に乗じて危険な海域から急速に離脱した。


夜になると、私とクラム、そして数人の船員は船体の補修作業に割り当てられた。私は工具を手に木材を叩き補強していたが、まぶたが重くてたまらず、思わずグチをこぼした。「どうして……こんなにきついんだろう……もう限界……」


クラムが私の隣に歩み寄ると、私の手の作業を引き受けてくれ、優しく励ましてくれた。「ヘイ! もうすぐ着くさ! 今の苦しみや辛さなんて、これから手に入る歓喜に比べたら大したことない。踏ん張れ!」


補修作業が終わり、私が疲労困憊で目を閉じていると、船長が部屋から出てきて皆に言った。「今日は危ないところだったが、野郎ども、宝の眠る場所は目と鼻の先だ。だが、ここからの冒険はさらに過酷なものになるぞ。」そう言い残すと、船長は再び部屋の中へと戻っていった。


深夜、私は再び激しい波の揺れで目を覚ました。起き上がって甲板に出ると、クラムが一人で船べりに腰掛け、遠くの夜空を見つめて思いにふけっていた。


私は近づいて声をかけた。「クラム、あなたも眠れないんですか?」


「ああ、クロネコか……」


彼の顔に漂う寂しげな表情を見て、私は尋ねた。「どうしたんですか?故郷が恋しいんですか?」


クラムは苦笑いを浮かべ、逆に私に問い返した。「クロネコ、お前は家が恋しくならないのか?」


私は空を見上げ、静かに言った。「私の家族は……もう誰もいないんです……」


クラムはハッとして、慌てて申し訳なさそうに言った。「あ……すまん、悪いことを聞いた。」


私は首を振って説明した。「家族はみんな年老いていて……もう、この世にはいないんです。家族の記録を探した時、何一つ残っていないことに気づいて……だから私は自分の足で出発して、私が見たすべての出来事を記録しようと決めたんです。」


クラムはそれを聞くと感心したように言った。「それは本当に素晴らしい考えだな。」


私は続けて尋ねた。「ご両親は絶対にあなたのことを心配していますよ。当時は一体どんなことで喧嘩したんですか?」


クラムは言った。「親父は俺に学園へ行ってちゃんと勉強してほしかったんだ。でも俺は冒険に出たくてな。それで大喧嘩になった。今さら何の成果もなしに帰ったら、格好悪くて顔が出せないだろ。」


私はクラムを真っ直ぐ見つめ、真剣に言った。「会いたいなら、ご両親に会いに行ってください。時には、自分から折れて謝ることも勇気の一つですよ。」


クラムはうつむいてため息をついたが、やがて微笑んで深くうなずき、私を見て言った。「ありがとうな、クロネコ。」


翌朝早く、船長は甲板に立ち、古びた一枚の羊皮紙の宝の地図を見つめていた。そこにはこう記されていた。


【恐れる者は背を向けて逃げ出し、ただ運命とすれ違うのみ。心の恐怖を捨てよ。星々の示す錨を頼りに、あの狂乱の核心へと身を投じよ。さすれば輝かしき宝は、真の勇者に向けてその腕を広げるであろう】


私が覗き込むと、船長は地図の指し示す位置を凝視しながら考え込んでいた。「これは一体どういう意味なんだ……」


私はクラムの隣に戻り、望遠鏡で前方を確認した。クラムはどちらの舵を取るべきか私に尋ねてきた。右の航路を見ると暗雲が立ち込め漆黒の闇が広がり、左の航路は晴れ渡り陽光が差し込んでいた。宝の地図の言葉が頭をよぎったが、私の中にあった不安と迷いから、結局「左」と答えてしまった。


しかし、しばらく航行すると、天候が前触れもなく急変して暗転し、凄まじい暴風雨が荒れ狂い始めた。船全体が激しい風雨に呑み込まれてしまった!


「クロネコ!! 早く手伝え!」


私は甲板へ飛び出し、必死で帆のロープを引っ張った。クラムも舵を必死に抑え込んでいる。船長が大声で叫んだ。「みんなしっかり掴まれ!!! 海に落ちるなよ!!!」


私の両手は擦り切れて血が滲んでいた。それを見たクラムは甲板に飛び降りて私のロープ引きを手伝い、船長が代わりに舵に飛びついて抑え込んだ。


甲板の荷物や道具が激しく転がり、四方八方に吹き飛ぶ。突然、狂風に煽られた重い木樽が飛んできてクラムを直撃し、彼は苦悶の声を上げて床に倒れ込んだ。


「クラム! 大丈夫ですか!?」


「クロネコ!! 奴にかまうな! まずロープを抑えろ!!」船員が悲痛な声を張り上げた。


船体は荒波に翻弄されて激しく傾き、今にも転覆しそうだった。前方には凶悪な嵐が吹き荒れ、巨大な竜巻が立ちふさがっていた! 船長は舵を切って回避しようとしたが、私の脳裏にあの宝の地図の言葉が鮮烈に蘇った——*『あの狂乱の核心へと身を投じよ』*!


私は考える間もなく船長のもとへ駆け寄り、その手から舵を強引に奪い取ると、歯を食いしばって一直線に竜巻の中心へと舵を切った!


船員たちはその光景を見て絶望の叫びを上げた。「クロネコ! お前狂ったのか!?」「誰か早くクロネコを止めろ!!」


竜巻の荒狂う猛威の中で船体が激しく悲鳴を上げるのを見ながら、私は胸が締め付けられるような不安に襲われた。私のアプローチは間違っていたのだろうか? 何か条件を満たしていないのだろうか?


船がまさに転覆しようとした絶体絶命のその瞬間、私は慌ててポケットから「願いの石」を取り出し、船がこの竜巻を乗り越えられるようにと一心不乱に祈りを捧げた!


祈りを込めた瞬間、「願いの石」が眩い光を放ち始め、パキッと音を立てて表面にヒビが入った。すると奇跡的に風雨が弱まり始め、船は無事に竜巻の渦を突き抜けることができたのだ! 嵐を抜けたその先には、一つの島が姿を現していた。


船はゆっくりと島へと向かって進んでいった。私はすぐにクラムの元へ駆け寄り、彼の傷口を確認した。頭部から血が流れていたため、急いで包帯を取り出して応急手当をした。


船が島の岸辺に接岸すると、みんなが続々と上陸した。私は船長室に戻り、もう一度宝の地図に書かれた文字を注意深く読み返した。


【恐れる者は背を向けて逃げ出し、ただ運命とすれ違うのみ。心の恐怖を捨てよ。星々の示す錨を頼りに、あの狂乱の核心へと身を投じよ。さすれば輝かしき宝は、真の勇者に向けてその腕を広げるであろう】


「そうか……『星々の指し示す錨』だ。あの時、この条件が欠けていたんだ……」


本当に間一髪だった。「願いの石」がなかったら、どうなっていたか想像するだけで恐ろしい。私は肝を冷やしながら思考を巡らせ、ノートを取り出すと、この危うかった冒険の記録を詳細に書き留めた。


その後、私も船を下り、本隊の後を追った。


一同が神秘的な洞窟の奧へ進むと、突き当たりに大きな宝箱が鎮座していた。船員たちは大歓声を上げて宝箱へ駆け寄り、宝箱の中に詰め込まれた財宝を目にして歓喜の声を上げた。クラムは静かに歩み寄り、宝箱の中から金貨をたった一枚だけ手にとった。


私は彼の隣に歩み寄り、尋ねた。「一枚だけでいいんですか?」


クラムは手に握った金貨を見つめ、爽やかに笑った。「これで充分さ。」


数週間後、遊侠号は再び最初に出航したあの港へと戻ってきた。


山分けした宝物を手にした船員たちは、歓喜の声を上げながら下船し、港で盛大な打ち上げパーティーを始めた。クラムは一人船べりに立ち、甲板の下で盛り上がる仲間たちを見下ろしていた。私が隣に寄り添って尋ねた。「下に降りてみんなと一緒に祝わないんですか?」


クラムは首を振った。「いや……俺は一度家に帰ろうと思う。クロネコ、お前は?」


私は答えた。「私はこのまま大陸を歩き続けて、私が見るすべてを記録し続けます。」


最後に、クラムは私を温かく抱きしめて言った。「また会おうな! 次会った時は、俺の更なる伝説の冒険を記録させてやるよ。」


私は笑って答えた。「ええ! あなたの物語を楽しみにしています。」


一人で船を下りていくクラムの背中を見送りながら、私はその結末を見届けたくて、密かに彼の後を追った。


クラムが聞き覚えのある懐かしい街の道を歩いていると、周りの住民たちがザワザワと囁き始めた。「あれって……クラムじゃないか……?」


クラムはふと足を止め、遠くに見える一軒の家を見つめた。そして傷ついた体を抱えながら、ゆっくりと前へ歩みを進めた。


私が目撃したのは、クラムが家の門へと向かって歩いていると、その姿を遠くから父親が見つけた。かつてあれほど激しく口論し、喧嘩別れをした二人だった。だが、傷だらけになった息子の姿を目にした父親は、一瞬たりとも迷わなかった、父親はまっすぐにクラムのもとへ駆け寄り、その身体を力いっぱい抱きしめた


その光景を目にした瞬間、私の目から自然と涙が溢れ出してきた。


もし……私の家族もまだこの世に生きていたら、私もこんな温もりを感じることができたのだろうか?


私はくるりと振り返り、そっと涙を拭うと、新しい冒険に向かって力強く一歩を踏み出した。


【海の冒険者——クラム】

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