第二章 エクス大陸45年。呪われし冒険者
エクス大陸45年。
街でひとつの噂を耳にした。深山に「呪われし冒険者」が現れ、各地の街や村を縦横無尽に破壊しているという。その手口は残虐かつ苛烈で、討伐に向かった冒険者は誰一人として戻ってこないらしい。
その事件は一瞬で私の興味を惹きつけた。
最近破壊されたという街に辿り着いた。そこはまるで大戦を経たかのように荒れ果て、家々は倒壊し、瓦礫が地面に散らばり、多くの負傷者が救助を待って横たわっていた。冒険者ギルドに入ると、そこには大勢の冒険者が集まり、空気中には濃厚な復讐の気配が立ち込めていた。私は席に着き、会長が討伐任務を言い渡すのを激しい様子で待つ彼らを眺めていた。
「お嬢ちゃん、お前も討伐隊に参加しに来たのか?」
酒杯を手にした、全身包帯だらけの男が私の前に椅子を引いて座った。彼はかなり重傷を負っているように見えた。
「討伐?」私は問いかけた。
「しらばっくれてるのか、お嬢ちゃん。家でも壊されたか?」男は酒をあおりながら尋ねてきた。
「いいえ、この事件を聞いてやってきたんです。『呪われし冒険者』……一体どんな人物なんですか?」
「呪われし冒険者、か……」男は酒を一口飲み、遠くを見つめた。「少し前まで、俺と奴は同じパーティの仲間だったんだ。」
男は苦笑しながら酒杯を見つめ、かつての冒険の日々を語り出した——生き死にを共にし、蛮族に包囲された際には、互いに背中を預け合いながら突破したこと。王宮に忍び込んで王女の冠を盗み出したこと。魔法学校で騒ぎを起こして時間の亀裂を生じさせたこと……突然、男は笑顔を消し、うなだれた。
「ど……どうしたんですか?」私は尋ねた。
男は落胆した様子で言った。「二年前、深山で魔族の少女を見つけたんだ。奴は彼女を一目見た瞬間、恋に落ちた……ハハ...馬鹿だろ?
だが、奴があんなに嬉しそうな顔をするのを俺は見たことがなかった。その少女は人に虐げられるのを恐れて、ずっと深山の城に隠れていたんだ。俺たち三人はしばらく秘密の冒険を続けていた。だが先月、俺たちは一部の冒険者たちに包囲され、魔族の少女を引き渡すよう要求された。」
「じゃあ、その傷は戦いの時に負ったものなんですか?」
「違う……」男は背もたれに寄りかかった。「あの少女は奴を守るため、自らの持てるすべての力を奴に託して、命を落としたんだ。奴は少女の死を受け入れられず、願いを叶えるという伝説の道具を夜通し狂ったように探し始めた。少女の復讐のため、そして願いを叶える道具のありかを探すために……奴は各地の街や村を縦横無尽に破壊している。俺は止めようとした。だが、失敗したんだ……
男はうなだれ、涙をこぼした。「俺は……失敗したんだ。」
「おじさん、話してくれてありがとう。事情はよく分かりました」私は立ち上がり、礼を言った。
「俺はまだ25だ!そんな老けてねえよ!」男は涙を拭いながら呆れたように突っ込んできた。
立ち去る前、男は私が奴を探しに行くのかと尋ね、奴は危険だと警告してきた。私は頷き、気をつけると伝えた。
山の中腹にある廃城へと辿り着いた。城は荒廃し、屋根には大きな穴がいくつも開き、壁のステンドグラスはすべて砕け散っていた。そして城の中央にある台座の上には、一人の少女が横たわっていた。近寄って目を見張った——普通の少女ではない、あの魔族の少女だった。
台座と少女は塵一つなく清められており、周囲の灰と瓦礫の廃墟とは鮮やかな対照をなしていた。手厚く安置されているのが見て取れた。台座の脇の床には、丸めて捨てられた紙切れが落ちていた。
『街に映る二つの月、静寂なる水面の下に願いの石は眠る』
「二つの月の静寂なる池……?街の噴水のことかしら?」私は思案した。
ズドン——!!
山の麓から激しい爆発音が響いた。音のする方向を見つめ、私は急いで山を下りた。
街では人々がパニックになって逃げ惑い、一人の女性が私を捕まえて叫んだ。「お嬢ちゃん!行っちゃダメ、向こうは危険よ!あの呪われし冒険者がいるの!」
警告を無視し、私は壁伝いに静かに街の中央へと潜入した。倒壊した建物の傍らに呪われし冒険者が立ち、足元には重傷を負った討伐者が数人転がっていた。
「お前たちも、彼女を死んだ原因の一つだ!」呪われし冒険者が咆哮する。
倒れた冒険者が命乞いをした。「な、何を言っているんだ……俺はお前なんて知らない……!」
呪われし冒険者は容赦なく彼を突き飛ばし、遠くの家屋に叩きつけた。そして、月の壁画が描かれた池へと歩み寄った。
彼は狂乱した様子で池を捜索し、苦痛に満ちた叫びを上げた。「なぜだ……なぜない!?ここにあるはずなのに……!」彼は刀で壁画を切り裂き、床にへたり込んだ。「これで……12個目だ……なぜないんだ……」
私は勇気を振り絞り、静かに歩み寄った。
「誰だ!?」彼は瞬時に剣を構えて私に向けた。
私は両手を挙げた。「あなたの物語を知っています。それを見つけることでこれ以上誰も傷つけないで済むのなら、喜んで手伝います。」
「お前を信じられるか?誰であれ俺の邪魔をする者は斬る。」
私は彼の目を見つめ、残酷な問いを投げかけた。「でも……彼女を生き返らせた後、あなたが壊した街や村を見て、彼女は本当にあなたのしたことを認めてくれるでしょうか?」
呪われし冒険者は背筋を凍らせ、背を向けたまま何も言わず、最後は静かに去っていった。
私はその場に立ち尽くし、池の水と天の月を眺めた。「二つの月……一体どういう意味かしら?」
やがて、手負いの討伐隊が到着し、隊長に奴の行方を聞かれた。私は一瞬迷ったが、彼が去った方向を指し示した。
夜の帳が下り、月光が降り注ぐ。私は再び池の前に立ち、水中に顔をつけて目を開けた。驚いたことに、池の底は半透明の古びたガラスになっていた!そして傍らには底の見えない、深くそびえる井戸があった。私は迷わず飛び込んだ。
ドボン!
水路を泳いでいくと、眼前に地下神殿が現れた。地上の池から差し込んだ月明かりが古いガラスを透過し、地下の水面に映った月と重なっていた——これこそが「二つの月」の意味だった!手を伸ばして探ると、底から幽かな光を放つ黒い球体を掴み取ることができた。
黒い願いの石は実在した。だが問題は……
どうやってこの深い井戸から登ればいいのか..?
私は一晩かけて泥まみれになりながら井戸をよじ登った。
翌日全身ずぶ濡れで異臭を放つ私は、、まず宿屋を探して体を洗い、服を着替えた。
午後、再び出発しようとした時、怪我人を担ぎ、複雑な表情で街へと戻ってくる討伐隊の姿が目に入った。
私は急いで山の城へと走った。
城の周囲には焦げ跡と穴が散乱し、激しい死闘が行われたことが伺えた。呪われし冒険者は城の入口で静かに倒れており、息は途絶えていた。
胸の動悸が収まらないまま、私は城の裏手へと回り、古い道具で穴を掘った。冒険者の遺体を抱えて穴へ納め、石台の魔族の少女のもとへと戻った。
少女の体の下に、古びた日記帳を見つけた。
そこには彼の生き様が刻まれていた。
【パーティを組んだ日】:今日初めて仲間とパーティを組んだ。僕の冒険が始まる!
【蛮族突破】:今日蛮族に囲まれたが、相棒と支え合って突破した!
【出会い】:一目惚れなんて信じていなかったが、彼女の笑顔と目を見た瞬間……僕の一生の幸運は、あの瞬間使い果たしたのかもしれない。
【喪失】:彼女を愛した時、僕の魂の半分を渡した。その半分は彼女と共に死んだ。取り戻さなきゃ……絶対に。
【最後のページ】:今日、変なお嬢ちゃんに妙な質問をされた。だが彼女のためなら、僕はなんだってできる。
深く息を吐き、少女を冒険者の隣に優しく添え、片方の手には日記を、もう片方の手は冒険者の手と硬く握り合わせさせた。
黒い願いの球体を手に取り、使うべきか長い間迷った。だが、そのまま土をかぶせ、一束の野花を添えた。
街に戻ると、討伐成功を祝う宴の熱気に包まれていた。私はあの25歳の男を探し出し、二人の眠る場所を教えた。男はその座標を見つめたまま、長い間言葉を失っていた。
「……あいつは、見つけたのか?」
私は首を横に振った。
男はうなだれた。
手にした酒杯が微かに震える。男の目からポロポロと涙がこぼれ落ちた。
「あのバカが……」
「なんで俺のアドバイスを聞かなかったんだよ……!」
男は大声を上げて泣き崩れた。
私は何も言わず、ただ自分の手を男の肩にそっと置き、寄り添った。
数時間後、男は泣き疲れて眠りについた。
歓声と酒杯の音の中、この悲劇は私とは無関係のはずなのに、心に喜びを感じることは少しもなかった。私はその空気に耐えかねて黙って手帳を閉じ、テーブルの上に男の酒代を置き、背嚢を背負って背を向けた。吹き抜ける微風を感じながら、次の未知なる旅路へと歩みを進めた。




