第2話 お掃除の時間ですわ
「ひっ……、な、なんだこのプレッシャーは……!?」
近衛騎士の一人が、ガチガチと歯を鳴らして恐怖に震える。
だが、もう遅い。
私のお掃除モードは、すでに起動している。
「まずは、そこの右端のゴミから」
ドンッ!!!
床が爆発したような重低音。
次の瞬間、私はすでに右端にいた騎士の懐に潜り込んでいた。
「がはっ――!?」
純魔鉄製の鉄扇が、彼の分厚い鎧ごと腹部を真横から強打する。
鋼鉄の鎧がベコォッ!とひしゃげ、騎士はそのまま音速で壁へと消えていった。
「一人」
「なっ……、消え――」
「二人、三人」
バキッ! ボキィッ!
振り返る隙すら与えない。
目にも留まらぬ速さでステップを踏むだけで、国家最高戦力(笑)の騎士たちが、まるでピンボールの球のように次々と会場の天井や壁に叩きつけられていく。
「う、うわあああ! 化け物だ! 化け物が出たぞ!」
「下がれ! 距離を取れ――」
「四人、五人……まとめて、十一人」
慌てて密集陣形を組もうとした十人の騎士の真ん中へ、私は頭上から垂直に鉄扇を叩きつけた。
ズドォォォォン!!!
夜会会場の頑丈な大理石の床に、巨大なクレーターが穿たれる。
巻き起こる凄まじい衝撃波だけで、十人の騎士がゴミのようにまとめて吹き飛び、天井のシャンデリアに突き刺さった。
「ヒィッ……、あ、あああ……!」
残されたのは、エドワードと、その腰にすがりつく男爵令嬢。
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そして、ガタガタと震える数人の騎士だけ。
私は懐から純白のハンカチを取り出し、鉄扇についたわずかな埃をパパッと拭き取る。
静かに腕時計に目を落とした。
「……あら。少々、手こずってしまいましたわね」
経過時間は、ちょうど二十八秒。
「約束の三十秒まで、あと二秒も残ってしまいました」
「お嬢様をお待たせするのは、侍女として万死に値する失態です」
私は冷たい視線を、残った騎士たちに向ける。
「ですから、最後は手短に」
残った騎士たちが、恐怖のあまり剣を放り出して脱兎のごとく逃げ出した。
向かう先は、夜会会場の分厚い『王城の外壁』へと続く脱出扉だ。
「逃がすとでも?」
私は鉄扇を腰に差すと、右手の拳をぐっと握りしめた。
魔力を込める必要すらない。
ただの、純粋な、フィジカル。
逃げる騎士たちの背中に向けて、私はその拳を、空振りのように突き出した。
「消え失せなさい」
――ドガァァァァァァァン!!!!!!
すさまじい爆風。
拳から放たれた圧倒的な風圧(衝撃波)が、逃げる騎士たちを丸ごと推し進め、飲み込んだ。
それだけではない。
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騎士たちの背後にある、厚さ二メートルを超える王城の『魔導花崗岩の外壁』が――
まるで紙細工のように、綺麗に円形に消し飛んだ。
ぽっかりと空いた、直径十メートル以上の大穴。
そこから、城の外の美しい夜景と、心地よい夜風が会場内へと吹き込んでくる。
王城の壁を、文字通り「素手(の風圧)」で完全破壊したのだ。
静まり返る会場。
貴族たちは、腰が抜けて一人も立ち上がれない。
「ふぅ……。これで、目障りなハエはすべて駆除完了いたしましたわ」
私はふりふりのエプロンを軽く整えると、何事もなかったかのように、エミリア様の前へと戻り, 優雅に膝を折った。
「お嬢様、お待たせいたしました。三十秒ピッタリでございます」
「もう目を開けていただいて結構ですよ」
「し、シルヴィア……? お城の壁が、なくなっているのだけれど……?」
パチパチと目を瞬かせるエミリア様。
そんな可愛いお嬢様の視界に入らないよう、私は背後の大穴を身体で隠しながら、極上の笑みを浮かめる。
「気のせいでございます、お嬢様」
「少々、換気のために風通しを良くしたまでにございますわ」
ゆっくりと立ち上がり、恐怖で完全に失禁しているエドワードへと歩み寄った。
「さて……」
私の影が、床にへたり込むエドワードを真っ暗に覆い尽くす。
「ゴミ掃除の次は、この不始末の『責任』を、どなたに取っていただくかというお話ですわね? エドワード様」




