当たり前すぎて忘れるやつ
妖精大陸、宿屋の一室にて────
「というわけで、フェリは試練突破だ」
フェリは尻尾を僅かに揺らしながら、小さく微笑んだ。
「……勝った」
その言葉を聞いたルナ、クリア、アルマは一瞬嬉しそうに目を見開いたが、すぐ目線を下に落とした。
「いいな〜。アルマもあんな陰キャカスメガネをボコボコにしたいのに……」
「……全然勝てないね」
「うわ〜ん!実力不足なんです〜」
3人は負けてばかりだ。
「それはそうだろうな」
当然である。なぜなら────
「お前らは実力で負けてる相手に、戦い方でも有利を取られてるからな」
3人は一瞬目を丸くしたあと、小さく肩を落とした。
「薄々感じてた」
そう言うと、クリアは静かにため息をついた。
そもそも3人は後衛だ。前衛のフェリと違って、一人で戦うのは厳しい。
現状、後衛しかできないルナ、クリア、アルマは、その場に留まることしかできず遠距離攻撃をガードする術もない。
敵からすれば、動かない的なのだ。
この状況を不利と言わずしてなんというのか。
「あーもう!」
アルマはベッドに飛び込み、脚をバタつかせた。
「無宗のバカ!不利なんだったら対策を教えてよ〜」
俺は小さく笑った。
「そう言われると思ったから、今日からは別の特訓だ」
俺は指を鳴らした。
「え?」
気づけば、俺たちは大闘技場にいた。四天王はいない。
「……わたしも?」
フェリは小さく首を傾げた。
「そうだ。お前たちには今から────」
「飛んでもらう」
少しの沈黙が流れた。
「飛ぶって……私たちにそんなスキルありませんよ?」
「そういうのは、試してみてから言うもんだぜ?」
「どういうこと?」
クリアは疑問そうに首を傾げる。
「まずクリア。お前は全属性魔術の風魔法で飛べる。もっとも、簡単じゃないがな」
「たしかに……言われてみれば飛べるかも」
ルナはどこか楽しそうに俺を見つめている。
自分も飛べるんですか?と言わんばかりに目を輝かせていた。
「次はルナ。お前が使える弓王スキルの中には“飛翔”というものが存在する」
「ほんとですか!?」
ルナは嬉しそうに目を見開いた。
「私、空を飛ぶのが夢だったんです!」
「良かったな」
嬉しそうで何よりだ。そんな顔を見ていると、少しだけ自分も嬉しい気がした。
「そしてフェリ。お前はマドローニとの戦いでスキル“空踏術”を獲得している」
「空踏……術?」
「超高速で空を蹴って、空間を踏み台にしてただろ?それがスキルとして使えるようになったんだ」
フェリは小さく微笑んだ。
「と……飛べる」
そう思った瞬間、胸が高鳴った。
今までは空中で為す術なくやられるだけのフェリだったが、対抗手段ができたと思ったら無性に嬉しくなった。
もう、空中で理不尽を受けることはないのだ。
フェリのしっぽは気づかない程度だが静かに揺れていた。
これで3人は空を飛ぶ条件をクリアしたわけだ。
だが、一番の問題は……
「最後はアルマ」
アルマはゴクリと唾を飲んだ。
拳をキュッと握り俺を静かに見つめる。
「お前、そもそも飛べるだろ」
「え?」
間の抜けた声だった。
「お前そもそも普段から浮いてるだろ」
本当にそもそもである。アルマはゴーストクイーンだ。霊体だから常に浮いている。
長年この状態だったからなのか、アルマは自分が飛んでいることを忘れていたのだ。
ほんとに何してんだよ。
ド忘れにも程がある。今までの戦いで、いくらでも攻撃を回避できただろうに。
アルマは思い出したかのように辺りを飛び回りはしゃぎ出す。
「きゃははっ。そうだよ、アルマ飛べるんじゃん!」
とにかく、飛べたら終わりじゃない。
大事なのは飛翔状態で相手の攻撃を避けながら攻撃を撃つことだ。
これが案外難しい。
飛翔状態での回避、攻撃はマルチタスクだ。
常に飛ぶことを意識しながら何かをするというのはすぐにできることじゃない。
だから、自然に飛べるように練習する必要がある。
「お前ら、今回の訓練は結構きついぞ。できるか?」
4人は不敵に微笑み、力強く返事をした。
やってみせる。と、言わんばかりに。
こうして、地味にきつい飛翔訓練が始まった。
「面白かった!」
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