観客全員が勇者を崇拝し始めたのですが。
シャルアの姿が消えた瞬間、
────強烈な衝撃波と共に俺は壁に叩きつけられていた。
あーあ。やっちゃったよコイツ。
光天の勇者シャルア・フレトリス。彼の持つ黎明の聖剣ルクス・セラフィスは、光に関する現象であれば、ほぼ全てを支配できる。
そしてシャルアは今、光と半同化状態にある。
それは、この世で最速とされる“光速”の領域だ。
まぁ、光なんかより俺の方が速いがな。
俺はシャルアの背後から、軽く肩を叩いた。
「……っ!?」
シャルアは急いで後退した。
「バカな……光速だぞ」
俺は焦るシャルアを無視して、淡々と告げた。
「シャルア君さぁ、わかってる?光の速さでの攻撃はこの辺り一帯を消し飛ばす威力だよ?観客の事も考えないとさぁ」
俺が“ワールドプロテクト”で観客と闘技場全体にバリアを張らなかったら、辺り一帯が更地になっていただろう。
シャルアは一瞬、俺が何を言ってるかわからないような顔をしてから、理解したかのように口を開いた。
「ああ、そういう事ね。でもこれって、君のせいだよね。僕が周りを配慮した攻撃で死なないから、全力を出さなきゃいけなくなったわけだからね」
「おいおいマジですか」
「だいたい僕は、魔王を取り込んだ邪悪な存在である君を処刑して、世界を平和に導くんだ。それは紛れもなく正義でしょ?
その過程で人々が死んだのであれば、世界平和のために死んだことになるから、むしろ本望でしょ?」
「そのために10万を超える人間を巻き込んで殺したら、その時点で平和とはかけ離れてると思うけどね」
シャルアは軽く笑った。
「たとえ、これで観客が死んだとしても、それは“悪”である君のせいだ。君が観客を殺したのと同じだよ」
俺は呆れた。とうとう本性を現したな。
「そんなことを大勢の観客の前で言える君には感心だよ」
俺は客席の方を見た。
「あれ?」
なんだか観客の様子がおかしい。今のシャルアの発言に対して不満を覚えるどころか、感動や尊敬の念を抱いているように見える。
「さすがです、シャルア様!」
「私たちは世界の平和のためなら、死んでも構いません!」
「どうか、悪の権化である負内無宗を倒してください」
観客の目はどこか虚ろで、それでも熱狂していた。
『あー無宗様……ちょっとやばいですね』
「ザワノス、もしかしてこれもあいつの聖剣の力か?」
『その通りでーす。効果範囲内の生物に異常なまでの安心感を与えて、違和感を浄化しちゃうんです。
これのせいでシャルアの行動全てが、“善”に見えてしまいます。……まじでキショい』
「奇遇だなザワノス、俺もそう思ってたところだ」
でも、ある程度強いやつは洗脳されてないみたいだな。
「観客の皆さん……なんであの勇者を応援してるんですか!
思いっきりクズ発言してましたよね!?」
「洗脳されてるみたい……」
「こ……怖い……」
『シャルアが周りから良い印象を持たれている理由はこれが原因かもですね』
「いや、絶対そうだろ」
「何一人でボソボソ喋ってるのかなッ!」
その瞬間、シャルアが聖剣で俺を弾き飛ばした。
吹っ飛ばされた方向には既にシャルアが立っていた。
次の瞬間には蹴り飛ばされていた。
そこからは、ただ一方的な連撃だった。
眩い光の筋がいくつも重なり、凄まじい衝撃波が広い闘技場に響き渡った。
シャルアは聖剣で俺を上方に弾き飛ばした。そのまま一瞬で上空に移動し、吹っ飛ばされた俺を地面に向けて蹴りつけ、轟音とともに叩き落とした。
ドゴォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!
俺は地面に大の字で叩きつけられていた。
地面を消し飛ばす威力だったが、ワールドプロテクトで闘技場全体に密着型のバリアを展開していたため、地形破壊は起きずに済んだ。
俺が上空を見上げると、直径1kmほどある超巨大な光の玉がチャージされていた。
「オーバーキルってやつかな?」
「僕のセフィリアに二度と関わらないように、君のような害虫は浄化しないとね」
“ルミナス・バスター”
ゴォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!
激しい光の波動が俺に向かって放たれ────
世界が白に塗り潰された。




