秘めたる欲望
エルフ大陸ラベール山にて。
参ったな、みんなとはぐれてしまった。
霧が濃い。もしやこれが色欲の魔人ラグニアの能力なのか。可能性は高い。
俺は少し考えた。
だがエスエマの話を聞く限り、予想される最も危険な能力は……
「あ、いました!ご主人様〜!」
「……見つけた」
「きゃははっ迷子になっててウケるんですけど〜」
「探したんだからね?無宗」
霧の向こうから現れたのはルナたちだった。
俺を見つけるなり、一斉に抱きついてきた。
「はぁ……良かった。ご主人様の顔を見て安心しました」
「無宗の……匂い。本物」
「お前ら……急にどうした?」
少しの沈黙の後、クリアが答えた。
「さっき、偽物の無宗に襲われたの。だからフェリに確かめてもらったんだよね」
「そ、そうか……だとしてもくっつきすぎじゃね?」
ルナの指が、俺の胸元をなぞった。そのまま俺の唇に触れる。
「我慢してたんです。……私たち」
4人は頬を赤らめ俺を見つめる。その視線に曇りはないように見えた。
「アルマももう限界!」
「なんで私たちの気持ちに気づかないの?」
「……無宗のばか」
いや、そんな急に責められましても……
だが、4人の瞳は本気だった。
「好きです……ご主人様」
「これが……わたしたちの気持ち」
「付き合ってなんて言わない。……だから」
「まずはアルマたちのことをもっと知って欲しい」
「無宗のことも……もっと知りたい」
フェリの尻尾は小さく揺れていた。
それも彼女なりの願いなのだろう。
「だって私たちは同じパーティーの“仲間”ですからね」
「お前ら……」
改めて言われると気恥しいものだ。そう、ルナたちは大切な仲間なのだ。────そう改めて実感した。
「……そうだな」
ルナたちの口角は限界まで上がっていた。
「ただし仲間はルナたちであって、“お前ら”じゃない」
その一言で、場が静まり返った。
依然として、4人は俺にくっついたまま離れない。
「……何を言っているんですか?ご主人様」
ルナは笑顔を崩さない。
「知ってるか?この世には関係を持ってはいけない存在がいる。なぜなら、関係を持ってしまえば、完全支配されてしまうからだ」
4人の動きが完全に止まった。
「そいつは擬態や声真似が完璧なんだ。見破る術はほとんどない。ほんと、理不尽なくらい厄介だよな。────色欲の魔人、ラグニア」
俺は体に炎を纏い、爆発させた。
ルナたちを模倣していた“それ”は跡形もなくなり、塵と化した。
その瞬間、山全体に男とも女ともとれない不気味な笑い声が響いた。
「負内無宗……強い……強いから食う。お前の仲間も全部私のもの……」
俺は鼻で笑った。
「やれるもんならやってみな」
俺は負けないし、ルナたちだって辛い特訓をしたんだ。一筋縄ではいかない。
「見せてやるよ、お前が相手しようとしている奴らがどんな相手なのかを」
俺が上空に右手をかざすと、ルナたちの様子がそれぞれ映し出された。
「あぁぁぁっ♡いけませんご主人様!そんな……そんな……ぐへへへへ」
そこに映し出されたルナは、俺?に鞭で叩かれていた。
「これがいいのかルナ。いや豚。このマゾメス豚が!」
「はいぃぃぃ♡」
「……。」
逆に、クリアは俺?を亀甲縛りで拘束し、ハイヒールで踏みつけながら鞭を振るっていた。
「ねぇ無宗、これがいいの?こんなプライドも尊厳も失って無様になっちゃって……好きだよ無宗♡
ブヒィって鳴いてごらん♡」
「ぶ……ブヒイイィィィ!!」
「……。」
嘘でも自分のこんな姿は見たくなかった。
「や……やめ……ぎゃははっ!くすぐった……ダメ!無宗にわからされちゃう〜♡」
「……。」
アルマに関しては自動でモザイクがかかっていた。
「ごひゅじん様ぁ!もっと♡もっとくだひゃい〜♡」
「鳴き声はブヒィでしょ!マゾ無宗♡」
「ダメッ……きゃははっ……くすぐったい♡────おかしくなっちゃうよ〜♡」
「…………。」
前言撤回。ダメだこいつら。
ドカァァァァンッ!!
そう思った時、背後の地面に何かが降り注いだ。
風圧で霧が吹き飛び、粉塵が舞っている。
そこから現れたのは────
「……お待たせ、無宗」
「フェリ!」
本物だ。間違いない。正直諦めていた俺だったが、フェリの姿を見て涙がこぼれた。
「フェリ……お前、大丈夫なのか?」
フェリはドヤ顔で親指を立てて見せた。
「危険なものは……気配でわかる」
特訓の成果が出たようだ。俺は嬉しいぞ、フェリ。
「うちのことも忘れないでね、無宗くん!」
フェリの後ろからひょこっとエスエマが顔を出した。
さすがエスエマ。鋭い感覚で難を逃れたようだ。
俺は小さく微笑み、前を向いた。
「よしお前ら、ラグニアをボコボコにしばき倒すぞ」
「……うん」
「おー!!」
良い返事だ。とりあえず、ルナたちの秘めた願望については後で問い詰めようと心に決めた。
「面白かった!」
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