負内無宗の誘惑
目が覚めると、目の前には笑顔のママがいた。
「エスエマ、今日はラベール山でピクニックしましょう」
「────え?」
うちは聖剣に選ばれた。
灼滅の聖剣イグニス・レクス。輪廻を司る炎を操る能力。
うちは……死に戻りという形で生き延びたのだ。
それからは恐ろしかった。ラグニアについて探ろうとする度、大陸中のエルフが敵になった。
勇者となったうちだけど、自分に優しくしてくれたエルフたちを殺すことはできなかった。
うちは何度も殺された。
過去を思い出しては、何度も吐いた。
精神的にも病んだし、トラウマにもなった。
だが、自分の理想を諦めることはできなかった。
幾度となく死を経験したうちはラグニアの詮索をやめ、一度大陸を出ることにした。
「そこで大罪魔人の情報を得て、エルフ大陸に戻ってきたわけ」
「なんというか……大変だったな」
エスエマは目に涙を溜めて俺に抱きついた。
「辛かったよ〜無宗くん」
簡単に言うが、死ぬ……ましてや殺されるということは苦痛なんてものじゃない。
しかもこの状況では味方もいなかっただろう。
ただの痴女だと思っていたが、早くこの問題を解決してあげたいと思った。
「毎晩支配したエルフを山に呼んで食べてるの。
うち、もう耐えられないよ。でもどうしようもなくて……」
エスエマは今にも泣きそうだった。
俺はエスエマの肩にポンッと手を置いた。
「明日だ。明日で終わらせるぞ。────負の連鎖を」
「で……でも大陸中のエルフたちが敵になるんだよ?殺したくないし……」
エスエマの気持ちもよくわかる。
小さい頃から自分に優しくしてくれた人たちを手に掛けるなんて辛いに決まってる。
「任せろ。俺が制圧する。────もちろん、殺さずにな」
────翌朝
俺たちのチームにエスエマが加わった。
「お前ら、話はわかったな。エルフたちを呪縛から解放するぞ!」
「おー!」
5人の声が揃った。
そして俺たちはラベール山の麓に来ていた。
見ただけでわかる。この山は危険だ。悍ましい気配が漂う山から、どこからともなく視線を感じる気がした。
「お前ら、どんな些細な違和感も見逃すな。おかしいと感じたら警戒しろ」
5人は小さく頷いた。
「油断……しない」
「特訓の成果を見せてやりますよ!」
山に入って数分、エスエマは周りをキョロキョロ見回し始めた。
「どうしたの〜痴女ちゃん?」
「もぉ〜!アルマちゃん酷〜い。うち、痴女じゃないも〜ん!」
エスエマはプス〜ッと頬を膨らませた。
「はいはいやめとけ。で、どうしたんだ?エスエマ」
エスエマは頭をポリポリと掻きながら首を傾げた。
「今までならこの辺でエルフたちが襲ってきたんだけどね〜
……なんでだろ」
よし。予定通りだ。
俺の相棒、神越の暴食剣ベルゼリオンの「液体捕食特殊形態“暴食軍”」
数千万の暴食兵が、大陸中のエルフたちを羽交い締めにして動きを封じているのだ。
誰一人として邪魔はさせない。
「まぁ、ラッキーってことで」
エスエマは腑に落ちないといった顔をしていたが、「ま、いっか」と言ってすぐに気にしなくなった。
山道を進むにつれ、だんだんと霧が濃くなっていく。
「あれ……他の奴らは?」
気づけば俺一人になっていた。
その頃他の5人は────
「皆さ〜ん!ご主人様〜!……みんなどこに行ってしまったのでしょうか」
ルナは一人になっていた。
後ろには人影が一つ。
「お、ルナ。やっと見つけた」
現れたのは俺だった。
「ご主人様!良かった〜。私、ひとりじゃなかったんですね」
「あぁ良かったよ。おかげでルナと2人きりになれた」
「え……」
俺はルナとの距離をゆっくり詰めた。気づけば背後に木。ルナは逃げ場がなくなっていた。
「ごごご……ご主人様!?どうしたんですか急に」
木に手を添え、さらに逃げ場をなくす。
ルナの顎に指を掛ける。
「もうこの気持ちに嘘はつけない」
「は……はぁぁ……ご主人様ぁ……」
同時刻────クリア、フェリ、アルマもそれぞれ同様の事態に陥っていた。
「む……無宗!?」
「あわわ……」
「きゅ……急に強引なんですけど〜」
赤面しながら慌てふためく4人。思考回路はショート寸前だ。
「ルナ」
「クリア」
「フェリ」
「アルマ」
「────俺の恋人になってくれないか?」
「面白かった!」
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