自然な笑顔
「えーっと……ごめんだけど、大罪魔人って何?」
「……え?」
大陸中のエルフたちが存在を知らない。その事実が不自然な違和感となって押し寄せた。
「まぁまぁ、そんなことよりうちの家に泊まっていかない?」
「あ、結構です」
「そんなぁ〜」
秒で返事を返すとエスエマは悲しそうに嘆いた。
「で……でも、絶対諦めないからね!」
そして俺たちはエスエマと別れ、エルフ大陸の宿屋に向かった。
「無宗、どう思う?……大罪魔人のこと」
宿屋にて、ふとクリアが疑問を投げかけた。
「まぁ俺から言えることは────この大陸の奴らには気をつけろってことだ」
4人は不思議そうに首を傾げた。
『あ、無宗様……気づいちゃいました?違和感の正体』
当たり前だ。ここまで気持ち悪い気配を漂わせてたら、嫌でも気づく。
「ご主人様。それって……」
「ほとんどのエルフはラグニアに操られている」
洗脳なのか支配なのか。まだはっきりとわかっていないが、大陸中のエルフから感じるこの気配は、間違いなく大罪魔人のものだった。
4人は大きく目を見開いた。
そう、ラグニアの存在が知られていないのは被害がないからではない。
気づいても認識できないように操られていたからなのだ。
「ということは、あのエスエマっていう勇者も支配されて────」
「いや、あいつは支配されてない」
「とにかく……早く対処しないとやばいかもですね」
────夜
宿屋で寝ていた俺は、不気味な気配で目を覚ました。
この真夜中に3人のエルフが徘徊を始めたのだ。
「……怪しいな」
俺は宿を出て跡をつけた。
3人のエルフは山へ向かって歩いていた。
そのまま山に入ろうとした時、俺の肩にそっと手が置かれた。
「山に入るのはおすすめしないよ。無宗くん」
「……エスエマか」
その表情は昼間と打って変わって、真剣だった。
「やっぱり気づいてたんだね。この大陸の異常さに」
やはり大罪魔人のことを知っていたのか。
だとしたらなぜ……
「この違和感に気づけないようなら追い返そうと思ってたけど……やっぱり無宗くんは実力者だね」
エスエマは現状を事細かに話してくれた。
自分が生まれた頃には既に、ほとんどのエルフが支配されていたこと。
ラグニアについて探ろうとすると、大陸中のエルフが牙を剥くということ。
支配の力は恐ろしく強く、ラグニアのためなら命を賭けてでも殺しにくるそうだ。
それは、エスエマがまだ幼い頃。
「エスエマ、今日はラベール山でピクニックしましょう」
うちは初めてのピクニックで心を踊らせていたのを今でも覚えている。
「うん!」
その時はまだ気がついていなかった。あの山に住まう化け物の存在に。
山を登るにつれ、おぞましい気配が体を包んでいくのを感じた。
エルフ族にはおまじないという特殊能力がある。
うちのおまじないは感覚強化だ。あらゆる感覚を大幅に強化することができる。
だからみんなが気づかないような違和感にも、人一倍敏感だった。
「ママ……この先には何があるの?」
何が一番恐ろしかったのか、それはママの笑顔だった。
こんな悍ましいオーラが溢れ出す先に、自然体の笑顔で向かう母が怖かった。
「この先には、私の大事な人がいるのよ」
意味がわからなかった。……家族はうちだけなのに。
こんな山奥に大事な人がいるわけがない。
次第に霧が濃くなっていった。
心なしかだんだん肌寒く感じてきた。
「エスエマ。私たちは……親子よね?」
突然の質問だった。
うん。……そう答えようとした時、突然違和感を感じた。
母とはずっと手を繋いで歩いてきた。声も、肌の感触も歩幅も、呼吸のリズムも、全ていつものママだった。
違和感など何もないはずだ。何もないはずなのに、それは別の“何か”だと、そう直感が告げていた。
ダメだ。この質問に肯定してはいけない。
そう思った瞬間、うちはママの手を振りほどいて逃げ出した。
違う、あれはママじゃない。
────ママは……どこ?
木々の間を走り抜ける度、不気味な声が響いた。
「殺せ……殺せ……エスエマを殺せ」
「……っ!?」
その言葉とともに、後ろから無数の足音が聞こえた。
「エスエマ」
「エスエマ」
「エスエマ」
「エスエマ」
「エスエマ」
大陸中のエルフたちだった。
様子がおかしい。
何人ものエルフたちが、刃物を持って追いかけてくる。
純粋な殺意だった。
このままじゃ殺される。直感でわかった。
幼いうちはひたすら逃げた。
後ろからは攻撃魔法や、無数の矢が放たれた。
うちは逃げるのに必死だった。
背中が燃えても、矢が足を掠っても、生きるためにひたすら逃げた。
「嫌だ……助けて……ママはどこ」
ドカァァァァァァァァァンッバチバチバチ……バチンッ!!
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
その時、雷魔法が直撃した。
全身が痺れて動けない。
背後を見ると、笑顔のエルフたち。いつもの自然な笑顔だ。あの優しくてうちを見守ってくれた目。
だからこそ怖かった。
普段と何一つ変わらない表情や、仕草でうちに刃を向けるエルフたちが。
鼓動がうるさいほど頭に響いた。心臓が締め付けられるようなこの感覚。
────助けなんか……来ないんだ。
そう思った瞬間、涙が溢れてきた。
嫌だ……死にたくない。
痺れた体を無理やり動かし、這った。
「……っ」
気づくと目の前には石でできた祭壇があった。
真ん中には一振の剣が突き刺さっている。
剣を引き抜け。
そう言われた気がした。
剣に手を掛けた瞬間、うちの背中を槍が貫いた。
「がはっ……」
血?
口元を抑えていた左手は赤く染まっていた。
頭がぼーっとする。背中が熱い。嫌だ……怖い。
「エスエマ」
「エスエマ」
「エスエマ」
「エスエマ」
「エスエマ」
グサッグサッグサッ……
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
うちは薄れゆく意識の中で、剣を引き抜いた。
その瞬間辺り一帯に膨大な炎が燃え広がった。
灼熱の炎がうちを包んでいく。
意識がだんだん遠のいていった。
うちは……死ぬんだ。
目が覚めると、目の前には笑顔のママがいた。
「エスエマ、今日はラベール山でピクニックしましょう」
「────え?」
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「今後どうなるの!?」
と思ったら
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。
面白かったら星5つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
ブックマークもいただけると本当に嬉しいです。
何卒よろしくお願いします。




