灼炎の勇者の一目惚れ
「うちは七聖剣、灼炎の勇者────」
「エスエマ・エルネスちゃんだよ〜♡」
そう言うと、目元で可愛くピースをしながらウインクをして見せた。
「灼炎の……」
「勇者……って何ご主人様にくっついてるんですか」
余韻に浸る暇もなかった。
エスエマは俺の腕に抱きつきながら嬉しそうにニコニコしていた。
「いいじゃ〜ん、無宗くんは君たちのものじゃないでしょ〜」
エスエマはイタズラっぽく笑いながら、俺を引っ張っていく。
意外と力が強い。
「ちょっと、無宗をどこに連れていこうとしてるの?」
エスエマは口元に人差し指を当て、少し考えた後、笑顔で答えた。
「うちのベッド」
あ、やべ。こいつ、無邪気な笑顔でとんでもないこと言いやがった。
「はいアウト」
「逃げてくださいご主人様ぁぁぁぁ!!」
フェリが俺のもう片方の腕を掴む。
「無宗は……渡さない」
エスエマとフェリは、数秒間睨み合うと、互いに勢いよく腕を引っ張り始めた。
ゴゴゴゴゴゴッッッ……
大地が震え、唸りを上げる。それと共に、2人の足元の地面が砕け始めた。
「だーめ♡無宗くんはうちが貰っていくんだから」
メキメキメキ……
「む……無宗はわたしたちのもの」
メキメキメキ……
「大丈夫。うちは無宗くんのこと、ちゃんと面倒見るよ?もちろん……夜のお世話も♡」
メキメキメキ……
「フェリ!ぜ〜ったいそんな奴に負けないで!」
フェリは小さく頷くと、さらに力を強め、それに対抗するようにエスエマも力を強めた。
メキメキ……メキメキメキ!!
「ちょまっ、やばいやばい!音鳴ってる!変な音なってるから!!」
俺がギュッと腕を引くと、2人は一気に引き寄せられた。
「うわっ!?」
「……っ!?」
「よし、お前ら。今から反省な」
2人は揃って正座させられていた。
「うわ〜んごめんなさ〜い!」
「反省……」
その後────
「で、結局なんでこんなことしたんだ?」
エスエマ・エルネス。七聖剣の1人であり、エルフ大陸を守護する勇者。
なぜそんな人が俺に「だ〜れだ♡」をし、耳を甘噛みして、ベッドに連れていこうとしたのか。
普通に考えてみればおかしい。
動機がわからない。もしかしたらこれは罠かもしれない。彼女の策略である可能性もある。
「え、一目惚れしたからだけど?」
エスエマは恥ずかしげもなく堂々と言ってみせた。
えぇ……そんなことある?
だとしたらわかりやすすぎないか?
その時脳内でザワノスシステムの声が響いた。
『無宗様。はっきり言って、このポンコツ女は馬鹿です。つまり……嘘つける頭脳じゃないで〜す!』
酷い言い様である。だがこれで答えははっきりした。
ザワノスがそういうなら間違いないだろう。
俺は小さくため息をついてから答えた。
「とにかくわかった。だが、俺らの目的は大罪魔人だ。居場所とか知ってるか?」
エスエマはしばらく考え込んでから口を開いた。
「えーっと……ごめんだけど、大罪魔人って何?」
「……え?」
俺たちは固まった。大罪魔人は全種族から最も恐れられている存在。そして討伐報告がないということは、間違いなくこのエルフ大陸にも存在しているはず。勇者ならそれを知らないわけがない。
だが何より恐ろしいのは────
大陸中のエルフたちが、大罪魔人を知らないということだ。
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