犬を飼えの巻
夜更け、鳴き声らしきものをかすかに聞いた覚えがある。
ファミレスやコンビニよりも山や畑に馴染みがある土地だ。国道の真ん中を鹿が歩けば狐も飛び出し、逃げ出した飼い犬が学校のグラウンドを駆け回る。ペットにしろ野生にしろ、小動物の徘徊は不思議ではなく、気に留めることはなかった。
その鳴き声の正体を知ることになったのは、翌日のことだ。
「ほっ……。よっと」
学校からの帰路、私は小石を蹴りながら歩いていた。
バス停の脇に落ちていたいい感じの石をなんとなく蹴っていたら、最後までやり切ろうという妙な使命感が芽生え、やめ時を失ったせいである。
蹴り続けて、家まであとわずかというその時。
足元ばかり見ていた私の前に、電柱の影からぬっと何かが現れた。
「うわっ!? ……なんだ、魔王さんか」
大きくのけぞってから息を吐く。
不審者とか思いきや、隣人の魔王だった。
こんなところで一体何をと問う前に、魔王は今日も今日とて黒いマントなびかせながら、こちらを見下ろした。
待ち伏せとも思える不自然なタイミングであるにも関わらず、たった今私に気が付いたような芝居がかった間合いで、ゆっくりと目を瞬かせる。
「ほう、カオリではないか。このようなところで会うとは奇遇だな」
このようなところも何も、お互い自宅はすぐそこだ。
どの場所よりもエンカウントする。
「いや奇遇っていうか……。まあいいや。どうしたんですか、何か用でも?」
魔王は答える代わりに、首を動かしてぐるりと周囲を見回した。
人影がないことを確かめると、低い声でこう尋ねた。
「そなた、犬を飼う気はないか」
「犬?」
私は目を丸くした。
「さよう、犬だ。かつてセノの一族は、いやしくも余に隠れて飼っていたそうではないか」
「別に隠れてませんよ」
私が子供だった頃、犬を一頭飼っていたことがある。それを話した時の魔王の異様な食いつきは記憶に新しい。
魔王はふてぶてしく顎を持ち上げ、腕を組んだ。
「その経験を買い、愚鈍で無知なそなたに託してやろうと言っているのだ。過去飼育していたならば、獣を手懐ける心得はあろう」
偉そうな態度からは読み取りにくいが、どうやら犬のもらい手を探しているらしい。私は意外な思いで魔王を見上げた。
「魔王さん、犬拾ったんですか?」
すると、不可解そうに魔王の眉間に皺が寄る。
「拾う? 落ちていることがあるのか」
「落ちてるというより、捨てられてるというか……。ずいぶん前ですけど、三枝さんの家の前に、こんなちっちゃい子犬が数匹、段ボールに入れて置かれてたことがあって」
「何だと」
「このへんの人なら、三枝さんに直接頼むか相談するだろうから、向こうから来た人が捨てて行ったんじゃないかってみんな噂してたんですよ」
言いながら、私は山の向こうの隣町を指した。
何匹も世話をしているような家ならなんとかしてくれるだろうという甘えから置いていったのだろうが、身勝手な話である。子犬たちは、近所で手分けして里親探しに奔走したおかげで、無事にほうぼうへ引き取られていったという。
私の話を聞きながら、魔王は小さく肩を震わせていた。
「滅びよ……。人間どもよ……」
片手を隣町の方へ向け、禍々しく黒い何かを生み出そうとしている。
私は咄嗟に魔王の手を払い落とした。
「ちょっと! 感情にまかせて不特定多数を呪わないでください」
急に魔王らしいことをするな。
信用に値しない噂話を根拠に、善良な人々が阿鼻叫喚にさらされてはたまらない。
不穏な元気玉を中断された魔王は私を恨めしそうに一瞥し、剣呑な声を出した。
「余がおればそのような狼藉を許さなかったものを。次はただではおかぬ。市中引き回しの上打ち首獄門の刑に処す」
なんとか隣町の崩壊は防げたようだが、魔王の表情は険しく、怒りのほどがうかがえる。
確かに許されぬ所業である。犬好きならなおさら憤懣やるかたなしであろう。
ともかく、この過度な反応を見る限り、魔王が捨て犬を拾ったという線はなくなった。
「捨て犬じゃないなら、なんでうちに犬を預けようと……あ、近所で飼ってる犬が子犬を産んだんですか?」
近所付き合いや町内会活動に前向きな魔王は、若い働き手としてお年寄り連中に覚えがめでたい。
スーパーサンダースで荷物を持たされたり、町内会の配布物の封筒入れを手伝わされたり、頼まれごとを「よかろう。感謝するがいい」と大仰に請け負う、尊大な使いっぱしりとして日々重宝されている。
だから今回も同じように、里親を探してほしいと頼まれたのかと想像したのだが、魔王はやれやれという具合に首を振った。
「この寂れた町でそのような慶事があれば、民は歓喜と熱狂に沸いていよう」
そんなことはない。
それは子犬誕生に胸躍る魔王の心象風景ではないか。
「じゃあ……野良犬?」
「野良のように毛並みは乱れておらぬ」
「なら、どこかで飼われてたんじゃないですか。飼い主が探してるかも」
「有り得ぬ」
質問には答えるものの、それ以上の情報を加えて寄越すというサービス精神がない。こちらもクイズがしたいわけではないので、だんだん面倒になってきた。
「一体なんなんです。ていうかその犬、今どこにいるんですか」
「ここに」
尋ねた瞬間、風を起こしながら、魔王が自身のマントを翻した。
舞台の幕が上がるように、マントの裏から現れた姿を見て、思わず息を呑む。
「な……何これ」
魔王は真顔で応じた。
「犬だ」
尖った耳に、長いマズル。
しなやかで俊敏そうな体躯はつややかに黒く光り、優れたハンターのように無駄がない。
行儀よくお座りしているその姿は、確かに犬だ。
犬なのだが、しかし。
「……犬にしては、首多くないですか」
犬と紹介された生き物は、首がひとつではなかった。
すらりとした胴体から、どういうわけだか複数の頭部がにょきにょき生えているのである。
どこかの神話に、こういう感じの凶暴な犬がいた気がする。
ケルベロス。そうだ、冥府の番犬ケルベロスだ。
しかし目の前の犬は、そのケルベロスよりも少々首が多い。ケルベロスの進化先であろうか。
当然ながら私は大いにたじろいだが、魔王の反応は病人食よりも薄味だった。
「この程度であれば、珍しくもなかろう」
「だいぶ珍しいですよ! 少なくとも、私は初めて見ました」
魔王は一度首を傾げ、ふむ、と思案する顔つきになった。
「思えば、このあたりの犬どもはひとつの胴体につき首はひとつであったな」
このあたりに限らず、全国津々浦々、ほとんどの犬の首はひとつだと思われる。
恐る恐る目視で数えてみると、犬の首は五つだった。
体がスリムな分、頭部のにぎにぎしさが際立つというか、一輪挿しに大量の切り花を挿してるような不思議なバランスだ。付け根がどうなっているのかも気になる。
盗み見ていると、犬と目が合ってしまい焦った。すぐに逸らしたが、逸らした先で、また別の首の犬と目が合う。首が五つあれば、当然目も十個あるわけで、そりゃもう合いまくるわけである。
犬から視線を外し、私は魔王の方を見た。
「一応聞きますけど、これ、どこから連れてきたんですか」
ペットショップなどではまずお見かけしない、ダークファンタジーに籍を置いていそうなこの佇まい。予想される出所はひとつしかないが、答え合わせは必要である。
問いただす私の視線から逃げるように、魔王は顔を背けた。
「余が連れてきたわけではない」
「いや絶対魔王さんの地元出身でしょ、この犬」
そうではない場合、悪の組織の研究所から逃げ出してきた可能性なども考慮に入れねばならないが、この町に悪の組織の拠点があるという想像はさすがに苦しい。
ただし、なぜか近所に悪の組織の元締めみたいな人は住んでいる。
魔王はしばらく無言を貫いていたが、やがてきまり悪そうに重い口を開いた。
「意図したものではない。手違いにより、余の屋敷に迷い込んだ」
「手違い?」
思わぬ言葉に、私は素っ頓狂な声で繰り返した。
それが気に障ったのか、魔王は顔をしかめる。
「そなたのような凡愚にはわからぬであろう。長たる者の務めを果たさんがため、闇はびこりし封印の間を解き、束の間、魔の地に干渉を行ったのだ。その際、わずかな綻びが生まれたにすぎない」
「全然わからん」
詳しく聞けば、自分の代わりに仕事にあたっている地元の部下や幹部に、陣中見舞いとしてカルピスを送るため、一時的に向こうの世界と繋げた、という話だった。すぐにその繋がりは絶ったものの、ミスって小さな穴を残し、そこからこの犬が入ってきてしまったのだそうだ。
ちなみに、闇はびこりし封印の間とは、押し入れのことらしい。
「迷い込んできたって……結構やばくないですか? ちょっとした不祥事では?」
魔王が手下としているカラスについては、見た目に違和感がないため、日常にすんなり取り込んでいるが、今回引き連れているのは確実に周囲から浮くであろう異形の獣だ。
網戸の穴から侵入したデカめの虫でもあるまいし、うっかり入ってきちゃったでは済まない。
「早急に綻びは閉じた。憂いはない」
落ち度を認めるのが癪なのか、魔王はさっきからつんと澄まして空とか鳥とかを見ている。
「そうはいっても、地獄の門とか守ってるタイプの犬がここにいる時点でどうかと思いますけど」
怪物ケルベロスでも首は三つだというのに。
私の非難を受けて、そっぽを向いていた魔王の視線が下りてくる。
「愚かな。このような幼き獣に、城の門など任せられるはずもない」
「幼き獣? この犬が?」
「さよう、夜ともなれば母にくるまれて眠るような赤子よ」
目を疑った。魔王の背丈の半分ほどもある、大きな犬だ。子犬らしいあどけなさなど、まるで感じられない。
怪訝な顔の私を見て、魔王の口元に小馬鹿にしたような笑みが浮かぶ。
「犬の齢など、首の数から容易く知れよう」
「いや知りませんよ」
地元の常識を遠征先に堂々と持ち込まないで欲しい。
魔王の口ぶりからして、年を経るとともに首が増える犬種(?)なのだろうか。
首が五つということは、五歳か、五十歳か、それとも五百歳か。魔王が十五歳ということを踏まえると、何もあてにならない。予想はすべて空を切る恐れがある。
いや今そんなことはどうでもいい。
一旦考えるのをやめると、情報過多で混乱していた頭が徐々に冷えてくる。私は単純なことに気が付いた。
「ていうか、来ちゃったのはもう仕方ないとしても、帰せばいいことじゃないですか?」
なんのことはない、元の場所に戻せば済む話なのだ。
向こうにカルピスを何箱送ったのか知らないが、それできるなら、犬の一頭(いや五頭か?)を送り返すことだって可能だろう。
しかし魔王は答えずに押し黙った。
「あれ……。もしかして、できないんですか?」
「戯言を。その程度、造作もない」
「なんだ、びっくりした。じゃあすぐにでも、」
促そうとする私の言葉を、重々しい声が遮る。
「術を行うにあたり、様々な障りがある」
「障り? 例えば?」
魔王は渋面を作って、再び天を仰いでしまった。
わずかな沈黙の後、考えながら話すような歯切れの悪さで魔王は言葉を並べた。
「……日取り、天候……火急の用件、体調……」
行きたくない飲み会を断る口実みたいだ。
「ともかく、そなたには図りようもない複雑な事情があるのだ」
ごにょごにょ言いながら魔王が強引に話を切り上げようとしたその時、犬の首のひとつが突然吠えた。
「バウッ」
「うわっ」
これまで置き物のように大人しかった分、私は驚いて飛び上がった。
連鎖するのか、ひとつの首が吠えると、他の首も次々に吠え始めた。気分はモンスターパニック映画の第一犠牲者。
「めっちゃ吠えられてるんですけど、噛みついたりしませんよね!?」
「敵意はない、ただの威嚇だ。そなたの態度が反抗的ゆえ、苦言を呈してるのであろう」
アンタわきまえなさいよね、という感じだろうか。
敵意はなくとも、ドーベルマンに多量の闇を注入したような強面のため、結構な迫力だ。
吠えた時に見えた牙も、ひと噛みで殺れます、という信頼感のある鋭さであったし、つい腰が引ける。
ただ、「ガウ」とか「ギャオン」とか雄々しい鳴き声に交じって「へブッ」とおっさんのくしゃみみたいな声が混じっており、個体差というものを感じさせた。
不意に魔王が片手を上げる。教え込まれた猟犬さながら、犬たちはたちどころに吠えるのをやめて大人しくなった。
借家前の電柱脇という所帯じみた舞台でなければ、風格漂う一幕になっていたと思う。
魔王は顎に長い指を添わせて、おもむろに私を見下ろした。
「それで、どうなのだカオリよ」
「何がですか」
「犬を飼う気はないか」
最初の問いが満を持して戻って来る。
この流れを経て、喜んで、と応じる人は果たしてこの世に何人いるだろうか。
「魔王さんが飼えばいいのでは」
じろりと灰色の目が冷たく私をねめつけた。
「屋敷の契約違反にあたる」
「ああ……。そういえばペット禁止でしたね」
それで先ほど魔王は、自宅の敷地内ではなく電柱の裏に潜んで、うちは飼ってません、という素振りに徹していたわけである。
「でもうちで飼うのも、ちょっと無理かな~って」
私が言葉を濁すと、魔王は片眉を持ち上げた。
「何故。そなた、犬を好ましく思っていたのではないか」
「もちろん好きですよ、犬は」
好きだがしかし、犬と聞いて思い浮かべる中に、この種は含まれていない。
もし魔王が連れてきたのが、ただの犬ならば。
普通の、一般的な、首がひとつしかない犬ならば、話は前向きに進んでいただろうに。
こちらの心境などお構いなしに、魔王はさらに詰めてくる。
「ならば問題なかろう。そなたの家族が許しを出さないというのであれば、余が直々に話をつけてやっても良い」
私は先手を打たれてなんとも苦い顔になった。
仮に飼いたいと言ってこの犬を連れて行った場合、母や祖母がどんなリアクションをとるか、なんとなく予想できる。
おそらく魔王が引っ越してきた時と同様に、「あら~」くらいのテンションでこちらを脱力させ、ちゃんと面倒見るのよ、と背を叩かれて終わる。
せめて父が不在でなければと思わずにいられないが、今回はいたとしても必ずしも私の味方になるかは怪しい。犬好きゆえ、ケルベロス(増量版)への動揺や畏怖よりも、犬への愛情が勝つかもしれない。
たとえ両親と祖母が難色を示したとしても、魔王が乗り込んで圧をかけてくる気満々なので、結局のところ無駄なのだが。
ここは正直に「見た目が怖い」と話すべきだろうか。
しかし、犬に首が五つ、という都市伝説まっしぐらの様相にまったく違和感を抱いていない相手に、それを訴えても理解されるとは思えない。
怖くないじゃん可愛いじゃん、で強引に突破されそうな気がする。そして魔王の押し売りをはね付けるのは容易ではないと、私は過去の経験からよく知っていた。
ここはもっともらしい言い訳が必要だ。
「いや首が五つもあるとね、食費がかさみそうじゃないですか」
衝動買いの誘惑に負けることもあるようだが、魔王はこう見えて倹約家の一面がある。
先着百名様限りお買い得箱ティッシュを買うために朝から並ぶタイプだ。経済的な事情であればきっと通じよう。
しかし予想を裏切り、魔王は得意げに笑った。
「案ずるな。こやつらが糧とするのは、人間どもの負にまみれた念や感情よ」
そんな犬飼いたくない。
さすが魔界生まれ、邪悪のグルメである。
「日々そなたらが苦痛を味わい、辛酸をなめ、絶望し、悲鳴さえ木霊させていれば賄える」
「うちをどうする気なんですか」
日常的に苦痛や悲鳴を提供できるほど、我々は修羅の道をたどってはいないし、望むところでもないのだ。犬に餌を与えるために、拷問などを受ける必要性が出てくる。
「ガウ」
「ぎゃっ」
そうこうしているうちに、犬たちが再び吠えた。
またも威嚇かと思いきや、少々様子が違った。
先ほどより弱い声で鳴きながら、物欲しそうに五つの首が魔王を見上げる。
「ほう、腹を空かせていると見える」
かすかに弾んだ魔王の声に、嫌な予感が走った。
魔王の長い指が、差し出せというように、私を指して招く。
「カオリ、ひとつ新鮮な悲鳴を聞かせてやるがいい」
そう来ると思っていた。
「嫌だよ! なんで一曲やるみたいに気軽に悲鳴を上げなきゃならないんですか」
「無様に泣きわめけばよかろう。いつか夜道で、はいずりさんの危機が迫った時のように」
「くそっ……! 自分だってこの前、歯医者でみっともなく騒いでたくせに………!」
「あの件は口にするなと忠告したはず。一族郎党、根絶やしにされたいか」
「魔王さんの口内の治安が乱れてようが誰も気にしませんよ! そもそも田舎でここだけの話が通じると思わないでください」
不毛な諍いでヒートアップしていると、不意にクウン、と鳴き声が響く。
目を向けると、犬がじっとこちらを見つめていた。どうやら空腹を訴えているらしい。
気合いの入った見た目とはかけ離れた、哀れを誘う弱々しい声に、私は昨夜聞いた鳴き声を思い出した。夜更けに鳴いていたのはこの犬たちだったのか。
魔王は短い息を吐いた。
「仕方のないやつ」
その発言が犬に向けたものか、私に向けたものかは定かではないが、魔王はぼやきながら、ポケットから何かを取り出し、犬に与えた。
魚肉ソーセージだ。
「えっ」
二度見したが、やはり見間違いではない。
「魚肉ソーセージ食べるんですか!?」
「こやつらは雑食だ。どのようなものでも餌とする」
「じゃあなんでわざわざ人間の悲鳴と苦痛とか言ったんです」
魔王はきょとんとした顔をさらした。
「安上りであろう。懐を痛めずに済む」
懐が痛まないなら、尊厳を痛めていいわけではない。
魔王から見れば一押しセールスポイント! コスパ最高! なのかもしれないが、こちらの立場からのレビューはコスパ最悪、低評価である。星も減らしておきますね。
犬たちは庶民的な魚肉ソーセージに不満ももらさず、もりもりと貪っている。不満どころか、もっとくれとねだってさえいた。
「そう急くでない」
魔王は雛に餌を運ぶ親鳥のように、せっせと魚肉ソーセージを与え続けている。口が五つもあるので忙しかろう。
常にチワワからおびえられている印象しかないので、こうして甲斐甲斐しく犬の世話を焼く魔王の姿はかなり珍しい気がする。
犬たちも威嚇していた時とは打って変わって、やんちゃで朗らかだ。
魔王への畏怖によって服従しているというより、この様子は――。
「魔王さん、もしかしてこの犬、向こうで飼ってました?」
そう尋ねてみると、魔王は魚肉ソーセージのビニールを剥きながら、いや、と首を横に振った。
「玉座の間に侍らせていたにすぎぬ」
「そういうの世間的には飼ってたっていうんですよ」
しかし今の話を聞いて腑に落ちた。
ああだこうだと理由をこねていたが、つまるところ、魔王はこの犬をなるべく帰したくないのだろう。
手違いは事実としても、飼い犬がバカンス先にやってきてしまい、困りながらも、ふ……愛いやつめ……みたいな感じになっちゃったわけだ。
こちらにも犬がいるにはいるが、魔王に怯えるし震えるしで、気軽に撫でることも叶わない。その点、地元の飼い犬は自分によく懐いているし、隣家に飼ってもらえば、いつでも会いに来られる。
なかなか健気な考えだ。
かつて犬を飼っていた身として、愛犬のそばにいたいという思いは支持したい。
我が家を巻き込まないやり方であれば。
もぐもぐタイムは終わったらしく、満足した犬たちに、魔王がこちらを指さしながら、何やら語り掛けている。
「よいか、覚えておくがいい。あの娘がそなたらの第二の主となる」
「ちょっ、ちょっと、勝手に何を教えてるんですか」
「カオリ、犬に挨拶せよ」
「私が挨拶するの!?」
こういう場合、たいてい世話になる側が頭を下げるものではないのか。
「えっと、ど、どうも……?」
魔王が肘でつついて急かすので、一応軽く会釈をしてみたが、主人の舐めた姿勢というものは自然と伝わるらしく、早くも犬は私に対して「ちわーっす」みたいな態度だ。
中には満腹になって寝てるやつもいる。犬の中での序列決定の瞬間である。
「我が城を守るには足りぬが、セノ家の番犬くらいは務まろう。不埒な輩が近づこうものなら八つ裂きにし、骨を砕き、臓物を引きずり出して四方を血に染める」
心強い。
心強すぎて、ちょっと引く。
「いや待って、そもそもうちが引き取るなんて言ってませんけど」
「結論を急ぐな。ひとまず試してみよ」
突っぱねようとする私を、魔王は押しの強い営業の人みたいなことを言って、まあまあと押しとどめてきた。
「試すとは……?」
「かりそめの主として振舞う機会をやろう」
言いながら、魔王はポケットから五つの首輪とリードを取り出した。
この人のポケットなんでも出てくるな。それ以前にその服、ポケット付いてたんだ。
いろいろな思いが私の頭をかすめる。
その間に、魔王は普段の緩慢な動きからは考えられない手早さで次々に首輪を装着し、リードを取り付けた。そのリードを束ねた端を、勲章でも授与するかのような恭しさで私に渡す。
「さあ、行くがいい」
強制的に散歩が始まった。
私と魔王は犬を挟んで、家の周りをのろのろと歩いた。
何故のろのろかというと、魔王の歩みが遅いせいだ。
瀕死に陥った主人公のとどめを刺そうとラスボスがたっぷり間を取って近づいてくる……常にそういう意味深な速度で歩くのである。
従順な犬たちはそれを急かすこともなく、主人に歩みを合わせている。
「どっちの道いきます? 右でいいです」
「かまわぬ」
「じゃ、こっっちで……おいで。こっち。おい。こら!」
私がリードを引っ張っても、犬は頑として動かない。
「何をしておる。ゆくぞ」
魔王が右を指さした途端、犬たちは素直に歩き始めた。
くっ、こいつら。
この犬たちときたら、魔王に飼われているためか私を舐め切っているためか、その両方の効果か、全然従う気がないのである。
最初リードを渡された時も、私が犬を連れて、魔王が後ろを歩くというスタイルで散歩を始めようとしたが、リードを引いても声をかけてもまるで動こうとしなかった。
聞こえてないふりをする首がいたり、隣の首と喧嘩しだす首がいたり、トンボを目で追いかけてる首がいたり、問題児だけを集めた修学旅行のグループ並みに言うことを聞かない。
行儀が良いのは魔王の前だけらしい。
一向に散歩が始まらないため、仕方なく魔王が誘導する形を取ることになった。
魔王は「ふう、まったく」というポーズを取っていたが、犬が私に全然懐いていないことに、優越感を覚えているようで、口の端が微妙に上がっていた。
これまで何の苦労もなくチワワに懐かれていた私への意趣返しであろうか。
飼えと頼んでいるのはそっちだからな!? と念を送りたい気持ちがこみ上げたが、実際に以前念を送って来た相手にはリスクの高い行為なのでやめておいた。
亀のごときスピードで進む田舎道の風景は変わり映えがない。見慣れた景色がいつまでも続く。
見慣れないのは首が五つの犬が闊歩している状況であり、それを従えているのが魔王なのだから、もうここはほとんど魔界と言って差し支えない。
やはり小道具は大事だ。やや馴染んできた感のある魔王という存在も、悪夢みたいな犬というオプションを添えることによって「やっぱおかしくね」と改めて特殊さを再発見できる。
断じてこんなラフに練り歩いていい絵面ではない。
とはいえ、今のところは普通の散歩だ。魔王に従っている分には、犬たちは大人しく、リードを引きちぎることも爆走することもない。
ただ、私が連れているわけではなく、リードを持っているだけの添え物状態なので、一体今、何をお試ししているのか、よくわからない状態になっている。
もしかして魔王が大義名分をもとに、愛犬と散歩したかっただけなのでは?
ちくしょう、出汁にされたぞ。
犬たちも魔王との散歩が嬉しいらしく、足取りは軽やかで、無邪気に耳がぴんと立っている。 こういう素直なところはいかにも犬っぽく、見た目はどうあれ微笑ましい。
きっと尻尾を振ってるだろう、と後ろを見て、微笑ましさが秒で霧散した。
尻尾は二股に分かれた、毒々しい色の蛇だった。
シャーッて言われた。
「魔王さん……尾が蛇なんですが」
「さほど凶暴ではない。頻繁には噛まぬ」
「時々は噛むってことですね」
「恐れるな。血清はある」
「しかも毒蛇なんだ……」
飼えるわけないじゃん。
太字で書かれた結論が胸に押し寄せてくる。時に心はいくつかに分かれ、特に意見が対立することもあるが、今、心にいるすべての私が同意見だった。
これまでもだいぶ「無理」だったのに、ここでさらに追い打ちがかかり、無理のスタンプカードは満杯だ。ここから今更ひっくり返ることはほとんどなく、二枚目の無理スタンプカードが発行されるだけである。
私は立ち止まり、強く首を振った。
「魔王さん、やっぱりうちじゃ預かれませんよ」
「何」
「犬があまりに魔界仕様すぎます」
首は五つで、尾は二股の毒蛇。ひとつの体に命が多すぎる。
せめて魔王が飼うなら、ちょっと物騒な犬、くらいで終わるだろうが、人間風情に手に負える獣ではない。予防接種とかもどうすればいいのかわからないし、尾の蛇はずっとシャーッて言ってくるし。
「やっぱり帰した方がいいんじゃないですか。ここで暮らすにはあんまり向いてないと思います」
私の言葉に魔王が何か反論しかけたその時、後ろから声をかけられた。
「おう、兄ちゃんと夏織ちゃん」
振り返ると、三枝さんが手を振っていた。
隣には、息子さんのお嫁さんである朋子さんもいる。
そういえば、ここは三枝さんの犬の散歩コースだった。
リードにつながれたチワワ六頭が、三枝さんの足元をちょろちょろと歩き回っている。
「あっ、こんにちは」
挨拶した私の一拍遅れで魔王が振り向く。それに合わせて、犬たちも三枝さんたちの方へ向き直った。
三枝さんと朋子さんは、ぎょっとした顔で犬を見た。
「おいおい、ずいぶんごつい犬連れてるな」
「本当、大きいわねえ」
やはりというかなんというか、二人の注目ポイントは私とは違ったようだ。
体格の良さに感心するばかりで、多めについている首の数は特に気にならないらしい。
もう何が出てくれば驚いてくれるのかという感じではある。
二人は物珍しそうに、魔王と犬を見比べた。
「魔王さんのワンちゃん?」
「兄ちゃん、犬飼ったのか?」
「否。断じて違う。余の犬に非ず」
賃貸の契約違反に敏感なため、否定がやけに強い。
「この犬はカオリの……」
「一時的に預かってるんです、ちょっと事情があって」
勝手に飼い主だと吹聴されて、外堀から埋められてはまずい。私は即座に話に割って入った。
「そうなのかい。それにしても見たことない犬種だねえ」
「日本ではあまりいないらしいですよ」
魔界育ちですと言っていいものかわからないので、適当なでまかせを言った。嘘ではないのでセーフだろう。
「三枝さんたちは日課の散歩ですか」
「そうなんだけど、もう帰るところだ。朋子さんが腰痛めちゃってよ」
三枝さんに横目で見られ、朋子さんは口に手を当てながら恥ずかしそうに頷いた。
「そうなのよ。さっきかかんだ時にグキってやっちゃってね」
言われてみれば、姿勢が前かがみというか、腰をかばっているような立ち方をしている。
「兄ちゃんに抱えてもらって帰るか?」
「やだお義父さん、何言ってるの……いたた!」
笑った拍子に痛みが響いたのか、朋子さんは腰に手を添え小さく悲鳴を上げた。
「大丈夫ですか?」
「変に動かすな。長引くぞ」
私と三枝さんが朋子さんを案じている時、魔王の視線は、なぜか自分の隣で行儀よくお座りしている犬に注がれていた。何を見ているのかと気になって、私も犬に視線を移す。
注意深く見てみると、犬たちは朋子さんの方をじっと見ながら、咀嚼するように口を動かしていた。
この犬たち、苦痛と悲鳴を美味しく召し上がっている。
魔王が語っていた通り、魚肉ソーセージから人間の悲鳴まで、なんでも糧とするらしい。五つの首からの熱視線に気づいたか、朋子さんは犬の方を向いて、「まあ」と目を細めた。
「ワンちゃんも心配してくれてるのかしら。ありがとう、大丈夫よ」
いやデザート代わりに食われてたんですよ、とは言えるはずもない。
一方、思わぬタイミングで愛犬におやつをもらった魔王は満足げだ。
「女、馳走になったな。そなたの苦痛は、こやつらがかみ砕き、味わい尽くして、血肉とした」
「魔王さん、余計なこと言わないで」
「いや、わかるよ。不思議と犬には人の気持ちが伝わるよなァ」
魔王がどんな不穏なボールを投げても、三枝さんのキャッチミットはいつでも前向きに受け止めていく。
「こいつらもよ、のんきそうに見えてこっちの気持ちに敏感っつうか……ん?」
三枝さんは足元のチワワを抱き上げようとして、首を傾げた。
見れば、さっきまでキャンキャンと愛らしく駆け回っていた六頭のチワワが沈黙している。いずれのチワワも微動だにせず、石化したように硬直していた。
「なんだ、固まっちまって」
「どうした。病ではあるまいな」
お気に入りのチワワたちの異変に、魔王は自らの黒衣を手で隠しながら様子を案じた。
本日魔王は、推奨装備(わっしょいいか祭りTシャツ)ではないため、無暗に近づくまいとしている。遠くから名を呼びかけるのみだ。
「キクエ、カオル、フミ、マチコ、サトコ、ブレンダよ」
宮間君の名前は未だ正確に覚えていないのに、チワワの名前は全部頭に入っている魔王の偏った記憶力について今考えるのはやめよう。
「さっきまでなんともなかったのにねえ」
朋子さんもチワワを抱き上げようとしたが、腰に爆弾を抱えているため断念した。代わりに、私がキクエを抱き上げる。
心臓は動いているし呼吸もしているが、体中が凍り付いたままだ。まるで魔王と初めて遭遇し、小刻みに震えていた時のようだ。
しかし最近は魔王の努力により、少しずつ慣れ、互いの距離は縮まって来たと聞いている。
私の腕で固まっているキクエは、硬直したまま一点を見つめていた。他のチワワも同様に、何かに釘付けになっている。
「あっ……」
視線の先は、五つの首の犬だった。
ああ、もうね。そうだよね。そうなっちゃうよね。
私は妙に納得した。
魔王に恐れる感覚を持つ犬が、この犬と対峙して余裕の風を吹かせられるわけがないのである。住み慣れたテリトリーではしゃいでいたら、突然ゴジラが乱入してきたようなものだ。
魔王は魔王で恐ろしかろうが、犬という同じ土俵であるだけに一層リアルに怖かろう。戦う気がなくたって、本能が断末魔を上げてすくみ上る。
私はキクエの視界を手のひらで隠しながら、苦笑いを浮かべた。
「すみません、私たちが連れてる犬が怖がらせちゃったみたいですね」
そう言うと、三枝さんと朋子さんは「ああ」と腑に落ちた顔で、何度か頷いた。
「そうか、確かにねえ」
「こんなに大きい犬とはなかなか会わないから」
うんうんなるほど、という空気の中、魔王はひとり不可解な表情で私を見ていた。
どうして怖がるのかわからない、という思いなのかもしれない。禍々しさ溢れた魔性の犬も、魔王には可愛く見えているらしい。
だがその愛犬がただならぬ迫力でチワワ六頭の機能を停止させたのは紛れもない事実だ。
魔王は憮然とした顔で私を手招きした。
「今の話は真か」
「真です」
私は頷き、抱きかかえているキクエを魔王に見せた。
「この通り、尋常じゃなく怯えるんですよ。強そうだし、首は多いし、蛇までついてるし」
納得しかねるのか、魔王は眉間に皴を刻んだ。
しかし剥製のようなキクエを見て、さすがに心が動いたらしく、考え込むように黙り込んだ。
おそらく愛犬への執着とチワワへの罪悪感で板挟みになっている。
長い沈黙の後、魔王は伺うように私に問いかけた。
「……装いを変える、というのは」
長考の末、二番煎じ。
「魔王さんの時はそれでなんとかなりましたけど、今回は犬同士なんで。縄張り争い的なシビアさがあるんじゃないかと」
もちろん犬でなくとも腰を抜かすと思うが。近隣に出没する鹿や猫や狐も出会えばパニック間違いなし。
私もあの五つ首と遭遇したシチュエーションが白昼堂々ではなく闇夜であれば、腰のひとつふたつが持って行かれていただろう。
何か響くものがあったらしく、魔王は大きく頷いた。
「縄張り……。確かに、均衡を乱すことになろう」
私や朋子さんから悲鳴を巻き上げることには躊躇がなかったというのに、犬の縄張り争いにはこんなにも心を砕く。犬想いなのは構わないのだが、我々にも人類にも優しくしてほしい。
「カオリ、さきほどそなたが申しておったのはこれであったのか。ここの暮らし向きに合わない、というのは」
「そうです。そうですとも」
実際そこまで具体的な考えには及んでいなかったのだが、結果的に上手く転がったので、私は顎を撫でながら強めに肯定しておいた。
何をするわけでなくても、威圧感だけで近所の生態系を荒らすかもしれないし。
「むう」
魔王は悩ましそうに唸った。心の天秤がかなり傾いているのが見える。
もともと、魔王はどちらかと言えば秩序を重んじるタイプだ。
今回のような広範囲に迷惑をかけそうなトラブルの持ち込み方は珍しい(※トラブルを持ち込まないとは言っていない)のだが、魔王の目が眩むほど犬の誘惑は強かったのかもしれない。魔族の頂点に立つ人が、簡単に誘惑によろめくのはどうかと思うが。
「さて帰るか。夏織ちゃん、キクエをこっちに寄越してくれ」
「あっ、はい」
私は抱いていたキクエを三枝さんに返した。キクエはいまだ溶けかけた保冷剤程度の固さである。他のチワワも同様だろう。
町内の人間がろくすっぽ魔王とその一派に警戒しないため、チワワが違和感と恐怖のリトマス紙みたいになっている。いつもすまない。
チワワがまだ歩ける状態ではないために、三枝さんは四頭、朋子さんは二頭を抱きかかえている。果たしてチワワと爆弾を抱えた朋子さんの腰は帰るまで持つのだろうか。
その時ふと、三枝さんが思い出したように言った。
「そういや、昨夜犬の鳴き声がしてたな。こいつかい?」
腕がふさがっている三枝さんは顎で犬をさした。昨夜の鳴き声は、三枝さんの家の方にまで聞こえていたらしい。
魔王は頷き、ため息をもらした。
「まるで寝付かぬ上に、いつまでも鳴きやまぬゆえ、致し方なく外を歩かせていたのだ。……とカオリが申していた」
そんなことになっていたのか。昨夜、好奇心を出して見に行かなくて良かった。
朋子さんは、あらら、と微笑ましそうに声をもらした。
「そんなに大きいワンちゃんがねえ。赤ん坊の夜泣きみたい」
「子犬らしいですよ、これでも」
「へえ? まだ子供なのか」
三枝さんは瞠目した後、からからと笑った。
「言われてみれば、確かに赤子みてえな声だったよ。母ちゃんが恋しくて鳴いてたのかもしれねえな」
それを聞いて、「あっ」と思った。
魔王もまた、はっとした顔をしていた。
「じゃ、俺たちはこのへんで。さすがに四頭も抱えてると重くて仕方ねえや」
三枝さんたち一行はチワワとともに去って行った。
残された私たちは、申し合わせたように傍らに座る犬を見下ろした。
やはり姿形は到底子犬には見えないが、さきほど魔王はこの犬をさして、確かに言っていたのだ。
夜は母にくるまれて眠るような赤子だと。
「あの、魔王さん。もしかしてこの犬、母犬と一緒じゃないと寝られないんじゃ……」
「皆まで申すな」
魔王は神妙な顔で片手を上げた。
もうわかってる、わかってるから、という弱々しい制止だった。
心の天秤が、完全に傾き切ったのがわかる。捨て犬のために隣町を滅ぼそうとした犬ファーストの魔王が、自身の手で母犬と子犬の仲を引き裂くわけがない。
魔王は痛ましそうに瞼を下ろし、嘆息した。
「……帰そう」
断腸の思いが伝わる、絞り出すような声だった。
「よくぞ決心されました」
つられて沈痛な面持ちになってしまった私は、古株の家臣みたいな台詞を吐いて、魔王の決断を拍手でたたえた。いつからいたものか、カラスたちも電線の上からそうだそうだとばかりに鳴いて鼓舞している。
我々が湿度高めに盛り上がる中、犬たちはよくわかっていない顔で魔王を見上げていた。蛇はシャーって言ってた。
かくして、魔王による瀬野家無料ドッグカフェ計画の野望は破れ、五つ首の犬は無事にあるべき場所へ帰って行ったのである。
一件落着の雰囲気だが、犬を帰す直前に開かれた送別会にて、えげつないホラー映画を大画面で見せられ、ご馳走として活きのいい悲鳴を振舞わされたことは、決して忘れてはならない。




