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第26話 番外編。うさぎ。

「お坊ちゃま方ああ!駄目です!やめなさあい!」


マーサの絶叫が執務室まで届く。やれやれ、なんだろうね。

子供部屋に近づくと、泣き声まで聞こえるね。またケンカしたのかな?


部屋を覗くと、マーサに叱られて、息子たちが二人共泣いている。


「どうしたんだい?」


ベルンが僕にしがみついてくる。アインは毛布に潜り込んだ。

「アインはまだ風邪気味で寝ていたんでしょう?どうしたの?」

二人共なんにも言わない。

「じゃあ、まずアインとお父さんがお話するから、ベルンは自分の部屋に行っていなさい。」

マーサに連れられて、ベルンが部屋を出たのを確認して、アインのベッドに腰かける。

「どうしたんだい?」

「・・・ベルンが入って来て、ナイフを使おうとしたから…」


ん?ああ、マーサが寝こんだアインにリンゴをむこうとしたのかな?りんごと果物ナイフがテーブルに置いてあるね。


「あいつ、ナイフなんか使えないのに。怪我したら大変だと思って…怒った。怪我したら嫌だし、マーサも叱られるでしょ?そんなところに置いて、って。」


ああ。なるほどね。


「そしたらあいつが泣き出して…」


「うん。わかったよ。アインはベルンとマーサを守ろうとしたんだね。」


毛布にくるまったまま泣き出した長男坊の頭を撫でる。




「ベルン?」

自分の部屋の片隅で座り込んでいた次男坊の横に座る。まだ大きな涙をこぼしている。


「どうしたんだい?」

「お父様、僕ね…お兄様にリンゴをむいてあげようと思って。前にお母様がむいているの見てたから。簡単そうだったし。できるかな、って思って。」

「うん。」

「お兄様がいないとつまらないし、お兄様リンゴ好きだし。」

「そうだね。」

「そしたら、お兄様が物凄く怒った。僕…。」


そうか。


「そうか、ベルンはお兄ちゃんに早く元気になってほしかったんだね。」

「うん。」

「でもね、刃物は君が思っているより危ないモノなんだ。まずは練習しないとね。そうじゃないとお兄ちゃんは君のことが心配でしょうがないんだと思うよ。ねえ、ベルン、お父さんとリンゴをむく練習をしようか?いい?必ず大人と一緒に練習だよ?わかった?」

「うん。お父様も、リンゴ、むけるの?」

「うふふっ、一緒に台所に行こう。お兄ちゃんにリンゴをむいてあげようね。」


よく洗ったリンゴを4等分に切る。ベルンが扱いやすいように、小ぶりのリンゴにした。

芯の部分を三角に切って…


「いいかい?このリンゴには実はうさぎが隠れているんだよ、ベルン。」

「え?」


ベルンの小さな右手を包み込むように手を添える。


「この辺に耳が隠れてる。こっちもね。両耳が出てきたら背中は白だ。ほらね。」

「お父様!すごい!」


少し塩を入れた水に、うさぎをいれる。

「さて、次はお前の分のうさぎだね。」

「お父様は、うさぎ好きだよね?お父様のお部屋にもいるもんね。」

「そうだね。」


同じやり方で、4つ作った。


「じゃあ、みんなで食べよう。お母様には取っておいてあげようね。」

「うん!」


アインの部屋に戻ると、みんなでアインのベッドに潜り込む。


「アイン?ベルンはねお前にリンゴをむいてあげたかったんだって。でもまだまだ修行が足りないから、今回はお父さんとむいたんだ。許してやってくれる?

ベルン?お兄ちゃんはね、君がケガするのが嫌だったから止めたんだって。わかってくれる?」

「はい。」

「うん。」


3人でベッドでリンゴのうさぎを食べる。


「ベッドでおやつを食べたのは、お母様には秘密だよ?」


「はい。」

「はーい。」



「お父様は、マーサみたいにいきなり怒らないね?どうして?」

「ん?」

「マーサは怒るよ。やめなさーーーーい、って。うふふっ。」


「お父さんはね、お母さんと結婚する前は、人のお話を聞く仕事をしていたからかなあ。」

「お話を聞く仕事?」

「お母様も、みんなのお話聞いてるね。そんな感じ?」

「そうだね。いろんな話を根気よく聞いているとね、色々とわかることもあるんだ。」

「何が正しいかとか?」

「正しい、ねえ。正しいって難しいよね。みんなそれぞれ考えていることも違えば、環境も違うし、立場も違うでしょ?アインから見た正しいと、ベルンから見た正しいはいつも一緒じゃないでしょう?」

「うーーーーーん。」

「よくわかんない。」

「ふふっ、まず、話してみないと、相手が何を考えているかなんてわからないってことかなあ。それが、なるほどなあ、と思うときもあるし、それはどうかなあ、と思うときもあるよね。いろんな考えの人がいるから、面白いよね。」

「ふーーん」


いろいろ話をしていたら、息子二人が眠ってしまったので、そっとベッドを抜け出す。部屋に置いてあったりんごとナイフは回収した。

マーサに任せて、執務に戻る。


夕方、戻ってきた妻が、子供部屋を覗いてから執務室に来た。お皿に載せたリンゴのうさぎをご馳走する。

「ベルンがね、アインにむいてあげたんだよ。もちろん僕が少し手伝ったけど。」

「まあ。」

「それからね、もうそろそろ仕事を休んだらどうなんだい?」

「え?だって、お医者さまだって動いていたほうが安産だっておっしゃっていたわよ?」

「そんなこと言って。君はいつも。ベルンなんか畑で産まれそうだったでしょう?」


大きなおなかをしたリンデは、リンゴのうさぎを美味しそうに食べた。


「でもおかげで二人共丈夫だわ。ちょっと風邪ひくぐらいだし。この子だってきっと丈夫よ。ね?」


そう言って、お腹をぽんぽん叩いている。もうすぐ産まれそうなくらい大きい。


「いや、でもね、せめて行き帰りは馬車を使うとか、ね?」

「あらあら、そうそう、今日パンを焼いたのよ。」


上着のポケットからハンカチに包んだパンを取り出した。


「あなたに食べさせてあげたかったの。」

「もう、いつも…ずるいね君は。」

「うふふっ。大事な旦那様にパンが食べられなかったくらいで寝込まれたら困りますもの。ね?」








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