第27話 番外編 マーサに聞いてみた。
「ねえ、マーサ?お父様とお母様はいつもあんな感じで言い合っているけど、喧嘩しているわけじゃないよね?」
「はい。ケンカじゃありませんよ。本人たちは意見を交わしあっていると思っているようですがね、あれは…じゃれあっているんです。」
「じゃれ?ってなあに?」
「そうですねえ…お互いがお互いをどんなに大事に思っているか確認している、ってところでしょうかね?」
「ふーーん」
執務室のドアを開けっぱなしでナニやってんだか、と、あきれながらも、お坊ちゃまたちをダイニングに連れていく。
当主がそろそろ産休に入るので、公社の事務の引継ぎをしていた夫が着替えて戻ってきた。
「じゃあさ、マーサとトラウハードも《《じゃれる》》の?」
「え?」
「だって二人は夫婦でしょう?」
「え、まあ、そうですね。」
このお屋敷にお世話になって、もう10年になる。
トラウハードは今は筆頭執事になった。
私は当主付きの侍女から、今はお坊ちゃま方の教育係を兼ねている。
一人息子は今は公社の畜産部で働いている。
あの日、いきなり来た王城からの差し押さえ令状。何もかも無くしたと思った。
身分も、財産も、住むところでさえ。
一人息子を抱えておびえる私に、あの人は言った。
実家に帰っていい。すまなかった、君を幸せにすると誓ったのにね、と。
次期当主としても父親としても、何も守れなかったね、と。
震える手で、離縁状にサインをしていた。
バカじゃないの?
いいじゃないの、平民になったって、死ぬわけじゃないんだから。でしょう?
そりゃあ、私だって外で働いたことなんかないけど、何とかなるわよ。実家になんか帰らないわよ。3人で生きていきましょう?泣いている旦那の顔をドレスの裾で拭いた。
あなたの泣き顔で目が覚めたわ。
それから二人で話したわね。今までの事、今この現状の事、これからの事…私たちの結婚は家同士の物だったけど、あの時、お互いのことをたくさん話したわね。初めてかもね。
屋敷は兵士に囲まれてるっていうのに、一晩中、泣いたり笑ったり。
じゃれあう、かあ…まあ、そんなに甘いものでもなかったか。
ベルンハルト坊ちゃまが、トラウハードに何か聞いている。
嫌だわ、あの人ったら首から上が真っ赤になってる。大汗かいてるわね?
さらっとかわせないのかしら?
うふふっ。わかりやすくて、嘘がつけなくて…相変わらず可愛い。




