第22話 懸案事項一つ解決。
足音が僕の使っている客間の前で止まる。そっと鍵が掛けられたドアが開けられる。
勘弁してくれ。
取り敢えず寝たふりをする。
静かな足音が、僕のベットの横で止まる。
「エリック様?うふふっ」
寝る時間にこの香水の匂いかよ?ナニ考えてんだろうな?
そっと頬を撫でられる。鳥肌が立つ。
がばりと起き上がって、僕に延ばされた腕をつかむ。
「あら、やだわ。うふふっ。私ですわ。あなたのエーデルガルトです。」
明かりが灯される。
「ガルト…お前という奴は。」
明かりに照らされて、サイドテーブルの脇の椅子に座った前領主のランドルフが唸る。
「お、おじいさま?なぜ?」
ずっと腕をつかんでいるのもなんなので、椅子に座らせて後ろ手に縛る。
その娘は…薄手の寝間着一枚。スケスケだ。寒くない?おじいさまも見るに堪えられないだろうから、ドアの前に脱ぎ捨ててあったガウンを拾って掛けてやる。
「なぜかって?婚約者の家から帰ってからのお前のエリックに対する態度が目に余るからだ。しかも、この醜態はなんだ?」
「あら、だって、エリック様だって望んでいらっしゃることでしょう?あんなリンデ姉様より、私のほうが、」
「黙れ!」
「いえ、本当のことですもの。私とエリック様でこの領を守りますわ。ね?エリック様。お姉様は一度結婚に失敗しているんだもの。まともな結婚なんかできないでしょうし。私はまだ婚姻前。婚約なんか破棄すればよろしいんですもの。」
「黙らんか!」
「どうしてですの?おじいさまだってエリック様にとどまっていただきたいんでしょ?あんなろくに社交も出来ない人より、私のほうが若くてきれいで、人付き合いも良いですし。エリック様に恥をかかせない自信はありますわ。エリック様だって、おじいさまの手前、つれなくなさっていただけで、ねえ?」
「・・・・」
「手が痛いわあ、エリック様?外してくださる?」
はあっ、とおじいさまが頭を抱えて黙り込んでしまった。
「これで一つ分かったことがあります。」
「なあに?」
「おかしいと思っていたんです。あんなに思慮深いエーデリンデさんが、なぜマーカスと結婚する気になったのか。」
「それは、叔母様がうるさかったからでしょう?ふん、行き遅れで、あんなにいい男なんて幸運でしたわ。実は好きだったんじゃございません?」
「婚約期間が短かったとはいえ、何度か会っているわけでしょう?わかりますよね?誠実な男かどうかぐらい。」
「あのひと、男知らないから、ぼーっとしたんじゃない?マーカスもいい男だったから。」
「そうでしょうか?断れない事態になってしまったんじゃないんですか?と、いうか、断れない様な事をあなたがしたんじゃないですか?」
「な、何のことよ?」
「こんなふうに、マーカスが泊まっている部屋に忍び込んだんでしょ?いい男だったから。さっきと同じことを言っていましたよね?なんなら私が領主になってもいい、と。それで?マーカスとも寝たんでしょ?」
「な…なんの根拠もないことおっしゃらないで!私は純粋にあなたのことが好きで!」
「好きで?婚約者がいるのに?違う男の寝室に、そんなあられもない恰好で?」
「だって、本当に好きになってしまったんだもの。わかって、エリック様!」
はあっ
「僕は残念ながら権力を少々持っておりましてね。あなたの婚約を破棄させて、あなたのことを修道院に送るくらいの力はあるんですよ。それを望まれるなら、そうしますが?」
「ひっ」
「マーカスとあなたがデキてしまって、断るにも断れなくなった。しかもあなたから誘われたと軽く脅されたかもしれませんね。少なくとも女性問題では断れない。つっこむと、あなたの婚姻に影が差すと思われたんでしょう。かといって、マーカスとあなたで領地経営がまともにできるとは思えない。仕方がないから予定通り結婚することにした。ただ当日、女性関係以外の理由が見つかったから、離婚した。こんなところでしょうか。」
「・・・・・」
「ガルト、修道院に行くか。そのほうが良いだろう。」
「ま、待って、おじいさま、あの、」
「子爵家に嫁いで、領地から一歩も出ないというなら考えてもいいが、どっちがいい?」
「で、出ませんから!」
「エリック様、バカな孫娘ですが、本当のことを知ったらエーデリンデも傷つくでしょうし。この爺に免じて、子爵家への嫁入りを認めて頂けませんでしょうか?」
「・・・・」
「お前も、頭を下げんか!ガルト!」
「え?」
「この方は、大公家ご次男、エリック様だ。王位継承権第3位の方だぞ!嫁いだ後のお前がだらしないと、子爵家ごとつぶされるからな!覚えておけ!!」
懸案事項が一つ解決した。良かった。
おじいさまが大げさにガルトを脅したが、そんな権力はないよ。女の子に襲われそうになって家をいちいち潰していたら大変なことになるでしょ?継承権ももうすぐ放棄する予定だし。ただ、メンドクサイからそれは黙っていた。




