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第20話 研究者としての見方。

「どうしました?場長はなんだか朝からぼーっとされておりますね?」


研究棟で副場長のハンスの論文に目を通していたら、考え事をしていたらしい。声を掛けられてびっくりした。


「ううん。大丈夫よ。この論文、良く書けているわ。清書して、アカデミアに出すんでしょう?頑張って。」

「ありがとうございます。そうなると、学会での発表がありますから、しばらく休みを頂きますが…エリックさんはまだ屋敷の仕事が忙しくて帰ってこれないんでしょう?場長は大丈夫ですか?」

「え?な、何が?」

「エリックさんが、帰ってこないと、また場長が無理なさるんじゃないかと。だんだん、公社の春先の仕事の段取りも始まりますしね。」

「え?ああ、大丈夫よ。安心して出掛けてらっしゃい。あなたの努力が評価される機会なんだから。余計な心配はしないで頑張りなさい。ね?」

「はい。ありがとうございます。屋敷のほうが少し落ち着いたら、エリックさんが帰ってくるんでしょう?あの人がいてくれると安心ですよね。何というか、頼もしいです。」

「そう?」

「そうですよ。エリックさんがいてくれると、なんて言うか、場長も楽しそうですし。」

「え?」

「なんて言うか、任せてる感が良いですよね。あの人はスタッフもみんな大事にしてくれるし。もう、何年もここにいる感じ?」

「・・・・」


論文の束を大事そうに持ち帰るハンスの後姿をぼーっと眺める。


あら?エリックさんが来てくれる前は、私はどうしていたんでしょう?


ほんの数か月前の自分が思い出せずに…自分でびっくりする。






気分転換に外に出て、研究用の畑を歩いてみる。

随分暖かくなった。まだ、日によってはたまに雪がちらつくこともあるけど。


「ゲルト?」


畑に這いつくばって、麦の丈を測っているゲルトに声を掛ける。お洋服が汚れるわよ?

「ああ、場長。」


測っていたところに、短い棒を立ててから、よいしょ、と、ゲルトが立ち上がった。

「どうしました?」

「何でもないのよ。計測の邪魔をしてしまったわね。」

「いえいえ。」


ぱんぱんと付いた土を払いながら、ゲルトが笑って言った。

「今年は収量が上がる小麦の改良に、麦踏の回数を増やしてみようと思いまして。」

「そう。」

「今まで、公社では、11月の下旬と、12月下旬に踏んでたでしょう?もう一回、春先に、あ、もちろん茎が立つ前に踏んでみようと思って。この畑は2月上旬に。隣は2月中旬に。もう一つは、茎の立つギリギリに、2月下旬に踏んでみるつもりです。」

「そう。」

「エリックさんがヒントをくれましてね。雪が多い土地では、雪に押されっぱなしですよね。雪解け前までは押されてつぶされて、丈夫になるんですよ。じゃあ、もう一回ずつ踏んでみようかと思いまして。」

「え?エリックさんが?」

「ええ。あの人、ここにある論文や学会の論文集を読み込んでますよね。雪国の麦の栽培環境についての論文を読んだらしくて。もちろん僕も同じものを読んでたはずなんですけど、生育環境が違うから、スルーしてしまっていて。」

「そう…」

「面白い方ですよね?物の見方が広い方ですね。」

「・・・・・」

「うふっ、ただ、場長については、あんまり広い見方が出来ませんよね?」

「え?」

「場長とハンスが仲良く話していたりすると、声がかけられなくなるらしくて。この前あの人が寝込んだ時も、場長とハンスは二人でパンを作ってたでしょ?」

「それは、仕事で。」

「ふふっ、場長のことが好きすぎるんですね。」

「な…」

「僕は研究者として観察・考察するのが仕事ですからねえ…エリックさんのことも観察してましたよ?あの人、場長が大好きですよね?いつもはぱきぱき仕事するのに、場長と話すときはもじもじしてるし。それでも場長の負担になりそうな仕事は前もって片づけてるし。年上の方にこんなこと言うのも何ですが、可愛らしい方ですよね?」

「は?」

「場長ものびのびしてていいと思いますね。あの人が来てから、よく笑うようになったでしょう?」









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