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第17話 試用期間は3か月。あと1か月。

「何やってんだ?おめえだち。見てるこっちがはずがしい。」

「・・・・・」

「娘っ子の初恋でもあるめえし、本棚から本を取ろうとして手が触れて、あら、とか、やってんじゃねえよ?」

「な、何で知ってるんだ?」

「馬鹿かおめえ。ハンスが見ててよ。あの二人どうしたんですかね?って、言ってきたんだ。」

「だって。」

「だっても糞もねえ。妙によそよそしいって言ってたぞ?よそよそしくなってどうすんだ?」

「まあ、それは…そうね。」


僕とエイクの会話を、大笑いしながら彼の奥さんが聞いている。


「こうなったらよう、おめえの家から結婚の申し込みしてもらったほうがはええんでねえが?」

「え?それは嫌だ。前の旦那と一緒になっちゃうじゃないか。」

「だってよう、おめだじ、何年たっても手も握れねえで終わりそうでねえが?」

「・・・・・」

「よう、色男なんだがらよう、こう、押したらいがんべ?」

「押す?」


おめえが持ち込んだ本だけどもなあ、と、言いながら、奥からエイクが本を持ってきた。

「こんじゃあ。」

「?」


「俺は嫁さんと読んでんだ。燃えんぞ!」


後ろから奥さんに頭をひっぱたかれているエイクを見ずに、本を手に取る。

差し出された本は、ただの恋愛小説。ぱらぱらとページをめくっていくと、官能小説?っていうジャンルの奴??誰の愛読書だったんだろう??


燃える、って…燃えるまでの過程がね?難しいって話をしているんでしょう?!




仕事自体は順調だ。ある程度任せてもらっている。

エーデリンデも研究棟にいることが多くなった。

場長のサインが必要な文書をもって、研究棟に行ってみると、ハンスとパン生地を練っているところだった。二人で。お揃いのエプロンとかしちゃってるし。


「この粉どう?けっこう腰があるよね?」

「そうですね。場長、鼻に粉が付いてますよ?」

「えーー?」

「こすると、ほら、ますます…あははっ」


楽しそうだね。素直にうらやましい。


声を掛けられずに、出直そう、と来た道を帰る。どっちにしろ、あの粉だらけの手ではサインは貰えそうにないし。


とぼとぼ歩いていると、研究員の一人に声を掛けられた。ゲルトだ。

「あれ?場長いませんでしたか?」

「うん。いたけど、忙しそうだからまた来るよ。」

「小麦粉の試験をしてたでしょ?パンになったら試食に呼びますよ?」

「うん。ありがとう。」

「なんか、エリックさん、調子悪いの?」

「ああ、そうかも。寮に帰って寝るよ。この書類、場長のサインがいるんだ。机にあげておくから、そう伝えてくれる?」

「はいよ。お大事にね。」


ゲルトに用事を頼んで、帰って寝ることにした。

そう言われると、調子が悪い気になってきたし。ちょっと、疲れたかな。

休みの日にはお屋敷の仕事を手伝っていたし。一度王城に帰る必要があったから、仕事を先々片づけてたし。


いつもの狭いベッドに、どかっと横になる。寒い。部屋に小さな暖炉が付いているが、いつもは寝るだけだから、火を入れたことはない。

毛布に潜り込んで、猫のように丸まる。何やってんのかなあ、いい年して。


そのまま、眠ってしまった。



目が覚めると、真っ暗だった。結構寝たんだな。

いつの間にか暖炉に火が入っている。おやすみ用の大きな薪が入れてあって、ほのかに暖かい。喉が渇いたので起き上がろうとして、毛布に何か重しがしてある気がして目を凝らす。誰か…足元で寝ている?


え?まさかエーデリンデ?


と、一瞬でも思った僕はけっこうやられているんだと思う。



毛布の重しは、エイクだった。




「おはよう。どうだ?調子は?場長が来るわけだったんだげども、丁度、先代がお屋敷で倒れたって連絡が来てヨ。俺が頼まれたんだ。」

「え?」


次の日は快晴。寒いけど。

よく寝たので、体調も戻った気がする。叩き起こしたエイクがそう言いだした。


「倒れたって?」

「ああ、まあ、いい年だからなあ。場長もあわくってだ。おめえ…体大丈夫なら行ってやれ。男手がいることもあんべえ。」

「ああ。」


慌てて着替えると、馬を借りて屋敷に向かう。

気温が下がっているので、朝もやが白く覆っている。


「ああ、エリックさん!」

出てきた執事がほっとした顔で出迎えてくれる。ろくに寝ていないんだろう、目の下の隈が目立つ。

「どうなの?ランドルフ様?」

「今、医者が帰ったところでして、眠っております。」


真っすぐ彼の部屋に向かう。何度も来ているので、迷うこともない。

静かにドアを開けると、眠ったおじいさまに付き添うエーデリンデの背中が見えた。


「エーデリンデさん?」


寝ていないんだろう。疲れ切った顔がゆっくりと振り返る。


「エリックさん、体調は大丈夫ですか?」


そんな心配している場合じゃないでしょう?


「僕は大丈夫です。寝たら治りました。おじいさまは?」

「今ほど眠りました。医者の話だと、安静にしていれば大丈夫だと。」

「そう。じゃあ、僕が替わろう。君は少し休んで来なさい。」

「でも…」

「君まで倒れたら大変でしょう?仕事しようとか思わずに、眠るんだよ。」

「・・・・」

「何かあったら起こすから。大丈夫。少し眠りなさい。」

「・・・はい。」


静かに部屋を出ていくエーデリンデを見送る。

先ほどまで彼女が座っていたベットわきの椅子に座る。


「頑張り過ぎなんですよ。あなたも、エーデリンデも。」




おじいさまの自室の執務用の机に積まれた書類を片づけていると、そっと執事が入ってきた。

「お茶をお持ちしました。」

「うん。ありがとう。こちらは僕がなんとかするから、君も少し休みなさい。」

「ありがとうございます。エリックさん…よろしくお願いいたします。」

「ああ。大丈夫だよ。何かあったら呼ぶからね。エーデリンデさんにも休んでもらっているんだ。あなたたちまで体調を崩したら、それこそ回らなくなっちゃうからね?」

「はい。ありがとうございます。」

「エーデリンデさんは公社の仕事があるから、僕がしばらく屋敷の仕事を請け負うよ。申し訳ないんだけど、後でいいから部屋を用意してもらってもいいかな?」

「はい。かしこまりました。」

「頼んだね。」













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