第14話 試用期間は3か月。初めの月。
事務棟の執務室をひたすら片付ける。
片づける端から、新しい書類が届く。
場長の決済が必要なものは、綺麗になった場長の机に新しく置いた決済箱に入れる。
郵便も仕分ける。
会計資料の棚と、場内の研究資料を置く棚を新しく作った。人事関係の資料、領の管理書類も交じっている。こつこつと仕分けていく。
床に積んであった書類を片づけたら、暖炉が出てきた。
暖炉も掃除して、使えるようにして、エイクに言って、薪を運んでもらう。
ふう。
流石に一週間かかった。今は暖炉の火が入ったので部屋も暖かい。
ついでに、執務室のカーテンも替える。僕のポケットマネーから出した。ここのカーテンはいつから使っていたんだろうね?あんまり気にしない人なのか、そんな些細なことに気を取られている暇もないのか。後者だろうな。
その間、朝の段取りを終えると、エーデリンデは屋敷に帰り、12月中旬の舞踏会に出掛ける次女のお世話をしているらしい。ほっときゃいいのに。そうも思うけど。
彼女は妹たちの父であり母であろうとしているんだろう。頭ごなしに否定はできないし、する気もない。ただ…なんでもかんでも一人でやろうと思うのは間違いなのだと教えようと思う。順番にね。他人を頼ること。いや、違うな。僕を頼ることを教えてあげようと思う。
彼女の叔母様、公爵夫人は父親の妹だそうだ。裏表のない、いろんな意味でまっさらな人。性格的に、一部を除いては、マルデ侯爵家の人間はそんな感じなんだろうと推測される。社交に出ていなかったのは、ある意味良かった。騙そうと思ったら、いくらでも騙されちゃいそう。
先ほど届いた書類に目を通す。
国庫に納める小麦の搬入が終わった報告書。
年末になったから、会計報告書も上げなくちゃだな。
まとめておいた会計書類を整理する。
屋敷のほうの領地の経営管理事務は彼女の祖父が頑張ってくれているらしいが、なにせ高齢だ。おいおい良い人がいれば屋敷の管理ごと任せたほうが良さそうだ。心当たりはあるが、呼び寄せるには…あと3か月くらいはかかるかな。
パチパチッ、と、薪がはぜる。
作業員用の休憩所は、みんな交代で掃除をしているようで、綺麗だった。
作業棟の脇に積んである木材を使っても良いとハンスの許可を貰ったから運んでおいた。隅っこに棚を作っていると、仕事上がりのみんなが集まってきた。
「よう、エリック。何が始まんだ?」
「ああ、皆さん、お疲れ様です。本棚、ですよ?」
「本棚?」
「まあ、楽しみにもう少し待っていてください。」
2.3日すると、頼んでいた物が届いた。
本。
簡単な読み物から児童書、推理小説や恋愛小説。専門書や論文集。ジャンルもまちまち。自分の家の使用人たちに呼びかけて、要らない本を買い取ってきた。結構な数が集まった。自分で買ってもよかったんだが、そうすると好みがどうしても偏ってしまう。この人がこの本ねえ、ってのもあって、なかなか興味深い。
木箱で届いたそれを並べていると、まず、社宅の子供たちが集まってきた。
児童書は結構集まった。手に取りやすいように、下の段に並べてある。
子どもたちにはちょっと見せたくないなあ、と思う大人の本は、一番上。
「お兄ちゃん、本、読んで。」
「ああ。いいよ。」
本棚の下に敷いたカーペットの上に座って、絵本を一冊取ると、読み始める。
読み聞かせなんて、弟の小さい時以来だね。すこし、くすぐったい。
ひとり、また一人と、子供が集まって来る。膝によじ登ってくる小さい子もいて
賑やかになった。
「もう一回!」のリクエストにより、同じ絵本を3回読んだあたりで、大きめの子供たちにお願いをする。
「これはみんなの本なんだ。借りて行ってもいいから、ちゃんと返すように伝えてね。本が汚れたり、破れたりしたら、直し方を教えるからお兄ちゃんに言ってきて。」
こくこくっ、と頷いて、みんなで本を開きだす。
「エーデリンデさんとハンスさんが字を教えてくれるんだろう?読めるようになるともっと楽しいよ?」
「まあ!」
久し振りに来たエーデリンデは、自分の執務室の変わりように素直に驚いていた。
「書類は分類しましたが、何も捨てたりはしておりません。今年の決算資料の素案を作成しておきましたので、目を通してください。」
「まあ…」
「お茶にしましょうか?」
暖炉は暖かい。お湯も沸いている。
僕は場長に紅茶を出して、次の指示を待ちながら、とりあえず、応接用のソファーの、場長の向かい側に座ってお茶にする。
「これでハンスさんも、自分の研究に没頭できるでしょう?場長も、少し休みが取れるようになりますかね?みなさん、心配されておりましたよ?」
「すっかり片づけて下さったんですね!ありがとうございます。」
「いえ。仕事ですから。」
なんてことはないベージュのカーテンを、明るいグリーン基調の花柄のものに替えた。部屋全体が明るくなったように見える。グリーン、似合うし。
美味しそうに僕の入れた紅茶を飲むのも、なかなかいい。
飲みながら、僕が作った素案を見ている。
「どうですか?使えそう?」
「まあまあ!素晴らしいですわ!年末年始を久しぶりに家族と過ごせそうです!」




