第12話 僕の就職活動。
テイモン伯爵家三男のマーカス氏の殺害事件の犯人が捕まった。
それはそれでよかったのだが、側妃であるフローレンス妃の懐妊について疑惑が持ち上がり、検察長官と医師、司祭、もちろん国王陛下が揃っての尋問になった。
僕は報告書を上げただけだけどね。
自分の執務室を片づけていると、長官が疲れ切って戻ってきた。
「お前の読み通りだった。処罰は厳しいものになるだろう。」
で、しょうね。
どっかりとソファーに沈み込んだ長官はここ何日かで白髪が増えた?
「いや、前代未聞だろう…処罰者はかなりの数になるぞ?金を握らされて口止めされた人間を含めると、いやはや、考えたくないな。」
「お茶でも飲みますか?」
「ああ。」
紅茶を入れると、ため息をつきながら長官が話し出した。もちろん、人払いはしてある。
「お前の調書を読んでな?ナニ言ってんだと正直思った。念のため奴を呼び出してカマをかけて見たら、全て吐いた。荷が重かったんだろうけど…こんなことになる前に、どっかで歯止めが利かなかったのかな?」
「そうですね…真面目な人ほど、一度道を外すと、修正がきかないんですかね?」
道を外れっぱなしの人も、戻るのは難しかったみたいだけどね。
「三男坊がやったならまだしもな…入団して以来、浮いた噂もないほど真面目な奴だったがな。しかも、弟に金を工面させていたんだろう?それは妃が言いだしたらしい。あの人なら私のために何とかしてくれるって、な?どうだよ?これ。」
「マーカス氏は犠牲者だったわけですね?」
「ああ。妃の懐妊がわかり、口止めしていた奴らから今度は脅された。大金がいることになったわけだ。タイミング悪く、心を入れ替えて子爵家の令嬢と結婚しようとしていた三男坊が、その結婚資金だけは渡せないと拒んだらしいな。」
「ああ。」
「酒を飲ませて、酩酊したところを、ベルトで首を締め上げたんだと。一溜りもないな。」
「そうですね。」
「なあ、お前は何で分かったんだ?」
「どんな殺され方をしていたのか、事件のあった店主のキャサリンさん以外、誰も知らなかったんですよ。あの男だけが知っていましたから。キャサリンさんは商売が出来なくなるから口外しないでしょうしね。お利口な方です。」
「なるほど。」
「あとは、そうですねえ、交友関係ですかね?公爵夫人にマーカス氏の縁談を持ち込んだのはその妃でしょう?」
「ん?ああ。そうらしい。」
伯爵が17歳の養女を、その子の父親ほど年の離れた国王に側妃に勧めたのは、王太子妃には力不足だったから。わかりやすい。可愛がられればいいだけ。それで自分に力が付く。
出会いは…たまたまだったらしい。近衛の師団長になっていたテオドールと再会。
程なく、二人きりで会うようになる。人払いするのに、金がかかった。フローレンスに誘われて、深い仲になるのはあっという間だったらしい。
「他の妃と比べられて、肩身が狭いの。」
マーカスは本当に可哀そうに思ったんだろう。金を融通するようになる。
「舞踏会があるの。」
「ガーデンパーティーで、他の妃にドレスを馬鹿にされたの。」
何を言っても、マーカスは疑わずに、大金を運ぶ。もちろん、窓口は次男坊。
フローレンスの懐妊がわかり、国王が喜ぶ。
今となっては、誰の子かわからないんだけどね。
次男坊は強請られ始める。金額もハンパなくなる。そうだろうな。
「これを機に、国王陛下も御引退なさればいいのに。」
「お、おま…不敬だぞ!いくら継承権があってもな、言っていいことと悪いことがあるだろう?」
「はい、はい。」
長官が落ち着いたようなので、片付け作業を再開する。
「ところでお前、妙に執務室が綺麗に片付いているが、どうした?」
ぬるくなっただろう紅茶を上品に飲んでいた長官が、今、気が付いたらしい。
机に山積みになっていた書類もきちんと整理した。
「休暇です。3か月ほど。ここのところ全く休みが取れておりませんでしたので。」
「え?なんでバッチまで外しているんだ?」
「僕、やりたい仕事が見つかりまして。経歴書を送りましたら、面接してくれるそうなんで。」
「は?いや、待て待て!3か月したら帰ってくるんだよな?」
「本採用にならなければ、帰ってきますよ。でも…3か月もあれば何とでもなるでしょう?」
「は?」




