結婚式と宴
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母は侍女たちに指示し、ジュリアはまず湯浴みをすることになった。
侍女たちがものすごい勢いで磨き上げ、湯浴みが終わった時はジュリアはもうぐったりだ。
それからお化粧と髪を結い上げる。
母が
「素敵なドレスですわねえ。」
「ありがとうございます。母のなんです。私が着れば、母も喜んでくれるかと思って。」
「そうねえ。ご両親は10歳の時に?」
「はい。」
「いまは18歳っておっしゃったわよね。では8年も苦労なさったのねえ。かわいそうに、辛かったでしょう?」
「辛くなかったと言うとフィル様が無理するなっておっしゃるので、辛くなかったとは申しませんけど、使用人のなかで5人も私をかわいがってくれた人がいました。いつも賄いで一緒に食事をしてくれてましたし、お料理やお掃除、お洗濯、アイロン掛け、縫い物や刺繍、編み物、園芸やお馬さんの世話など、いろんなことを教えてくれて、私いろいろできるようになりました。私ってとっても幸せ者なんです。」
「まあ、あなたって、そういうふうに明るく捉えて、偉いわ。なるほど、そういうところにフィルは惹かれたのね。」
「王子様が私の従妹に魅了の呪いをかけられて私に婚約破棄と国外追放を言い渡された時に、フィル様は身を挺してそれを解呪してくださいました。そのおかげで私、叔父一家からも解放されましたし、いろいろな誤解もとけました。フィル様はずっと私に自分のことを自信を持つようにって仰って、私が頑張ってなにかしたらいつも褒めて勇気づけてくださって、フィル様のおかげで私、いろいろ乗り越えられてきました。本当に感謝しています。」
「そうだったの。あの子は不器用だけど、心はとってもきれいな子でね、だから貴族社会の汚らしいところがどうしても許せなかったんでしょう。平民になるって言ってね、家出同然に王都に行ったのよ。貴族から離れるという離脱報告書にサインまでして置いていったわ。でも、アレンがどうしてもそれを出さなくて、それで未だに形だけは貴族なの。王都で平民の女の子でも見つけるのかなと思ったけど、もうすぐ30で、たぶんこれはこのまま一生独り身なのだろうと諦めていたのよ。まさかこんなに素敵なお嬢さんと出会うなんて、驚いたし嬉しくてねえ。ジュリアさん、ありがとう。これからもあの子のこと、よろしくね。」
「お母様、ありがとうございます。私達、幸せになります。そして、お母様にもお父様にもお兄様たちにも幸せになっていただきたいです。」
「うちは心配しなくても大丈夫よ。うちはもうご存知でしょうけど、貧乏でね。意外なことに、兄たちのほうがフィルより気が利いてるのにまだ独り身なのよ。でも、なんとかなっていくわ。」
「そうですね。正直に生きていれば、きっと幸せになれますよね。」
母はジュリアを抱きしめて、
「ジュリアちゃん、私もフィルみたいだけど、あなたのことが大好きになったわ。これからたくさん遊んでいっぱいお話しましょうね。」
「はい!」
支度が終わると、侍女たちも母も息を呑んで
「まあ、なんてきれいな花嫁さんでしょう!」
と、目に涙を浮かべて言ってくれた。
それからホールに急遽呼ばれた司祭とフィリップが待ち、列席者は兄2人と母、そして使用人たち、ジュリアはフィリップの父にエスコートされて入場した。
ホールのドアが開いて皆の目がジュリアに集まると、一斉に感動のため息がもれ、フィリップはジュリアに目が釘付けになった。
司祭の前まで行くと、ジュリアは少しはにかんた顔でフィリップを見上げた。
そして司祭に続いて誓いの言葉を交わし、誓いのキスをして式は終わった。
フィリップの父と母は泣いていた。
「おめでとー」とカカオ、
「おめでとー」とリープ。
「おめでとう」とスノウが祝福してくれた。
その後、宴が開かれた。
司祭も使用人たちも家族と共に宴に参加した。
父は上機嫌で、
「儂はフィルよりも先にジュリアの花嫁姿を見たのだぞ。どうだ、フィル、羨ましかろう。」
と言って自慢していた。
宴のあと、家族だけになったところで、フィリップは結界をはり、
「もうひとつ、皆に話しておくことがある。」
と始めた。
「実は、ジュリアにはひとつ秘密があるのだが、我が家にとっても良い話なので訊いてほしい。だが、外部に知れるとジュリアの身が危険にさらされるので、くれぐれも口外しないでもらいたい。話はジュリアからする。」
「わかった。決して口外しないことを誓う。」と父が言うと、それに続いて母、兄2人も誓った。
「実は私は生まれた時に精霊王に祝福を受けていて、今は2人の精霊たちがおともだちとなって助けてくれています。カカオとリープと言う子たちです。カカオ、リープ、姿を現してくれる?」
「はーい。カカオなのー」
「はーい。リープだよー」
母が「まあ、かわいらしいこと!」と喜んでいる。
それから、精霊王様は私を守るようにと聖獣を遣わしてくださっています。フェンリルのスノウです。スノウも姿を現してくれる?」
「こんばんは。スノウです。」
スノウはそう言うとフィリップのそばに座った。
「ふふ、スノウはフィル様が好きなんです。」
「ジュリアも好きだよー。でもフィルも好きなの。」
「だそうです。」とジュリアはニコニコしている。
「この子たちはすごい力があって、一生懸命に頑張っていれば助けてくれます。そうよね?」カカオ、リープ、スノウがぶんぶんと頷いた。
「ジュリアは頑張り屋さんなのー。だから僕達助けるのー。」
「僕達つよいんだよー。いろんなことできるよー。」
「フィルはジュリアが大好きな人だから僕達はフィルの味方でもあるんだ。」
「みんな、ありがとう。」ジュリアは優しく微笑んだ。
「来月には私の領地に行って、私は領民たちと共に一生懸命働いて、叔父が脱税したぶんを返したり、領民たちにももっと豊かに暮らしてもらえるように頑張ろうと思っています。この子たちは土地を肥やしたり、気候を適切にしたりしてくれます。同じことをこちらの領でもすると言ってくれているんです。」
「ほ、本当か!それは素晴らしいことだ。なんと有り難いことだ。ありがとう、君たち。なんとお礼を言ってよいかわからんくらいだ。」
アレンが涙ながらにカカオとリープの手を握った。
スノウはずっとフィリップに撫でられている。
「きょうはスノウが転移でこちらに連れてきてくれました。これからこのようにお邪魔することになると思いますが、その時はこの子たちは姿を消しています。どうか、くれぐれも内緒でお願いします。わがまま言ってごめんなさい。」
「そうだな、こんなことが知れたらジュリアさんは誘拐されていいように使われてしまうかもしれん。これは絶対に秘密にしないといけないな。」
ハロルドがきりりとした顔でそう言った。
ウイリアムが
「お前もめずらしく真面目にまともなこと言うじゃないか。」と、からかった。
「そりゃそうだ。もしこれが外部に漏れでもしてその出どころが俺だとわかったら俺はフィルに殺される。」
「あたりまえだ。・・・では、また来月から、よろしく頼む。俺たちはきょうはこれで帰る。いろいろありがとう。」
フィリップがそう挨拶をしたら
「え?帰るの?」とみんな残念そうだ。
「ああ、あした朝から仕事なのでな。」
「またすぐお会いしましょうね。」母がジュリアを抱きしめた。
「はい。お母様も、みなさまも、どうぞお元気で。」
挨拶が終わるとスノウが姿を消し、フィリップとジュリアの姿も消え、しんと静まり返った。
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