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異世界派遣物語  作者: 青木薫


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38 乱高下

よろしくお願いします。

「どうして何でも長続きしないんだろうって思ってました。


 うまくいっているところ、楽しくすごせるようになったところにいると、落ち着かなくて、自分はそこに必要ないような、いちゃいけないような気がして、別なところへ行かなきゃって。


 でもそういう性分なんだなって。それに、家が十分楽しくてって思ってました…でも、それは、私の気持ちの問題とかじゃなくて…ちなみのためになるからだったんですね。


 私がフリーのほうが大学に行ったり子育てしたりするちなみの支えになるから。それでも私は働いている必要はあった、だって家の生活費に余裕が出るから」


「相田さん」


 私の生活の中心にはちなみがいた。いつだって笑顔でいてほしかった。一緒にくらしていて幸せだった。記憶が、感情が湧き上がる。あれが、主人公ちなみによる私の人生の搾取だったなんて。


「それでも、私、理不尽だなんて思ってませんでした。それなりに働いて家族と仲良くできていて…じゃあ何が1番辛かったかって思ったら…恋愛ですねよ。佐々木さん、来年は海外に行くって言ってました。それ、多分ちなみと行くんですよね。はは…またかぁ…」


「相田さん!」


「もういいんです!わかったから!もう、わかりましたから!」


 課長さんは黙ってしまった。まぁ『相田さん』としか言ってなかったけど。当然だ、だってこんなの酷すぎる。


「だって、優作さんがそうだった。最初は私の同僚で私と仲良くなったのに、たった一度ちなみが会社に行った時に会っただけで…でも二人共幸せそうだったから祝福したんです。


 あの時、どうしてって正直思いました。でもちなみは、ちなみは本当にいい子で。だから諦めた。なのに優作さんは事故に遭ってしまって。


 ねえ、それもちなみが幸せになるための単なるエピソードってことですか?そのために優作さんは…?


 それに、ちなみが主人公なら、この悲劇を乗り越えるための素敵な出来事がこれからもあるはずですよね?それって、それって…この後、私が佐々木さんをちなみに紹介したら…って、そういうことなんでしょう?


 これって、どんな世界なんですか?私は…私はっ…」


「…それはわからない。これまでの君とは違う働きをしたんだから」


「それ、本気で言ってますか?しかも『わからない』なんて、『これまでとは違う』なんて。課長さん、この続き知ってるんじゃないですか?時間ずらせるって前に言ってましたよね」


「…今回は、そんなことはない」


フッと思わず笑ってしまった。


「じゃあ途中で終わってしまった話なんですか?さすがに配偶者が海外で死んでしまった後に幸せにするのはなかなかの力技になりそうですもんね。まあ、もう、どうでもいいですけど」


「相田さん、話を聞いてくれ」


「この物語、放置後の脇役救済なら、私じゃなくて他の人ならうまくいったかもしれませんよ。ほら、ダニエルの時みたいに。全然別の人ならちなみのことも家族のことももっと客観的に見て、変な関係だなって気付いて家を出るとかしたかもしれないじゃないですか。こんな風に私を使った意味なんて、どこにあったんですか?」


 話していて本当にそう思った。


 自分だからこそ歪な関係に、理不尽な状況に気付かなかった。記憶の統合だって自分のものだからこれまではおかしいとは思わなかった。さっき、突然全てがつながるまでは。


「課長さん、ねえ、どうして私をここに戻したんですか?あのまま…他の世界で頑張っていたほうが良かったです、私。家族を懐かしみながら、でも仕方ないから自分ができることをしようって思いながら生きていきたかった。そっちのほうが良かった。こんな、自分が妹の添え物として置かれたことになんて気付きたくなかったです」


 課長さんは答えずただ立ち尽くしている。言い訳なんてできないんだろう。


「最初に会った時、課長さん、元に戻すにはいろいろしなくちゃならないって言ってたのに。こんなことならあの時戻してもらえばよかった。記憶なんてなくして、自分の人生が妹のためのものだなんて気付かないまま、家で、お母さんと、お父さんと、ちなみと…暮らしていたかった。自分を不幸だなんて思わないで、ちなみを可愛い妹だと思いながら生きていたかった。こんな…こんなの…」


 そこで唐突に課長さんが口を開いた。


「…参ったな、本人にやらせると思っていた以上に話に引っ張られる。君、気付いてる?これまでの転生で働いてきた君と今の君、違いすぎ。しっかりしてくれよ」


「は?…引っ張られる?」


「確かに自分の人生がこれじゃあショックなのもわかるよ。でもこれじゃああの時に逆戻りだ。クソっ、何のための修行だったんだ…いい?よく聞いて」


 課長さんはこれまでとは違う雑な口調を交えてそう言うと、私の頬を両手で包み込んでガッチリ固定し至近距離から私を見つめて言った。


「僕は、あの時、あのままだと、君は死んでしまうと思ったんだ」


「…は?死ぬって?…何を」


「いいから聞いて。悪いけどちょっと無理させるよ」


と言うといきなり私の鼻の頭を噛んだ。


「うわっっ!!!ちょっと!何するんですか?」


驚きの余りのけぞって椅子から落ちそうになったところを抱き抱えられる。


「いっ!」


 バクバクする胸の動悸が怒りなのか驚きなのか怖れなのかわからない。が、抱えられたままですかさず課長さんから指示が入る。


「ごめん、でも多少気持ち戻ったよね?じゃあ、相田さん、次は深呼吸するよ、はいっ、吸って〜…吐いて〜ほらしっかりして!…はい、もう一回〜」


背中をパシンパシン叩かれながら、言われるままに課長さんに合わせて深呼吸をしていたら、驚きがおさまって、怒りが勝ってきた。説明してもらわなければ納得できないと身体を捩って離し課長さんを睨むと、


「は、怒ってくれてるなら何よりだ。うん、説明するよ」


と転生先で見慣れた余裕のありそうな表情で話し始めた。

お読みくださりありがとうございました。

ようやくファンタジーに戻って?きました…?

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