↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界派遣物語  作者: 青木薫


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
37/40

37 転生

よろしくお願いします。

 週明けは会議の余波でいろいろな部署から問い合わせがあって忙しくなった。


 提案資料のそれぞれの項目について、もう少し詳しくとかどこに頼めば見積もり取れそう?とかそんな感じで、どこから何の問い合わせが来てどう答えたか記録を取りながらの対応で午前中が終わった。電話の取り過ぎで左耳が痛いくらいだ。


 ようやくお昼になり、佐々木さんが


「お昼、どうする?」


と聞いてきたので、恥ずかしくなりながらも


「お、にぎり作ってきたので…」


と答えると、パッと顔を輝かせて


「多めにある、よね?」


と聞いてきたので、頷くと、佐々木さんはいそいそとカップのお味噌汁を準備しに行った。


 先週の私達の修羅場を見ていた周りの人たちは、今日の電話の多さもあって、二人でオニギリを食べていることについて何も思わないようでホッとする。


 まあ他の人もそれぞれのお昼事情が忙しい上に役所内は節電で照明がだいぶ暗くなっているので目立つことはないのだけれど、昨日のことがあるのでなんとなく私一人焦っているような感じだ。


 意識しすぎな自分に呆れるが、本音を言えば嬉しい。佐々木さんと同じ熱量で好きかと言われればそんなことはない(昨日の感じだとなんだかすごく好かれているような気がするから)けど、あんな風に言われたら嬉しくないわけがない。


 そのうちすごく好きになってしまう予感がする。そう思うとなんだか胸が苦しい。こんな短期間で私を好きになってくれる人がいるなんて、と思ってしまう。でも、とも思う。そして何とはなしに今となっては夢だったかのようなあの転生を思い返してみる。


 何をしても長続きしなかった私は、あの転生で必死になることを覚えた。


 酷い状況にある人=自分をなんとかするために、これまでの経験を生かしてできるだけの努力をした。結果、自分がやってきたことが役に立つことがあると感じられて、転生先の人たちとのやり取りが楽しくて、その経験のおかげで今回の仕事にもこれまで以上に真剣に取り組めた気がする。


 いつかここから離れる、と思って一歩引くのではなく、いつか離れることになっても、今はできるだけのことをしよう、全力を出し切ろうと思ってやってきたあの転生があったから、今回も頑張れた。そのことで佐々木さんが私を好きになってくれた。


 頑張ってよかったな…そう考えると、これまでの自分の生活がいかに受け身だったかがわかって、苦笑いしてしまった。


 なんとなく所属感がなくて『ここじゃない』なんて感じていたことに、青臭い自意識だと自嘲した。と、そこでふと、これまではどうして必死になってこなかったんだろう、もっと早くからこうして頑張っていたら何か違っていたのでは、でもそれなら自立していて恋人なんかもいて、今みたいに実家暮らしとかじゃなくて寂しかったかもな、と考えて…あることに思い当たってしまった。


その時の私の表情はどんなものだっただろうか。


「相田さん?どうしたの、大丈夫?」


「え?あ…ええ、大丈夫です。お味噌汁…ありがとうございます」


「うん、いやこっちこそオニギリもらっちゃって…ねぇ、本当に大丈夫?」


 お味噌汁のカップにお湯を注いで持ってきてくれた佐々木さんが心配そうに覗き込んでいる。大丈夫かとたずねる声が遠くに感じられる。


「だい、じょうぶです。なんだかちょっと頭痛がして、耳も変な感じで…」


「ずっと電話対応してたもんね、午後は自分が変わるから、なんだったら病院行って来たら?ここんところ無理させてたし」


「…」


「相田さん?」


「…は、い。そうですね、食べたら午後お休みいただいても、いいですか?急で申し訳ないんですが…」


「うん、大丈夫。そうして?」


 薄暗い中モソモソとオニギリを食べながら、佐々木さんがこれからの予定をメモしながら説明してくれているのを見て、私は泣かないようにするので精一杯だった。


 心配そうに見送ってくれる佐々木さんに挨拶をして荷物を持つとエレベーターホールへと向かい、ボタンを押す。


 ドアが開いて乗り込み、ぼんやりしていると下に着いたが、一歩踏み出すとそこは見慣れない階で、間違えたかと乗り直そうとしたところで同じエレベーターに乗っていた人にそのまま腕を取られ外に連れ出された。


「多田…課長?」


「こっちへ」


 腕をやんわりと引かれたまま歩き出す。エレベーターを振り返ると地下2階だった。閉鎖中の駐車場の管理室に促されるまま入り、勧められた椅子に座る。反抗する気持ちなんて1ミリもない。


「課長…」


「うん」


「…私、転生してるんですね」


「…うん」


「やっぱり、他人の空似じゃなくて課長さん本人か…今まで黙ってたなんて、酷いですね。そういえば言ってましたね、厄介な仕事だって…」


「…うん」


 もはや『うん』しか言わない課長がここに来る前に言っていたことを思い出した。


『びっくりするかもしれませんが、これまで通り頑張ってください。いいですね?君は理不尽な目に遭っている登場人物に転生する、そこで少しでもその人物がラクになれるように行動する、それが仕事です』


 あれって、こういうことだったんだ。いや、でも、これって、どういうこと?


「私…自分に転生したってことですか?つまり、ここは誰かの作った世界で…」


「ああ。ここに来る前に伝えた通りだ」


「は…本当だったなんて。元に戻ったってことですか。人物設定は…相田ゆかり、29歳、何をしても中途半端でって?」


「そんなことはない。君は頑張っている。それに」


「今は、ですよね。これまでは…これまでは…」


「相田さん」


「…この世界の主人公は妹のちなみなんですね」


「…」


 座ったまま見上げると課長さんの辛そうな顔が目に入り、私の目からは涙が溢れた。

お読みくださりありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。