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異世界派遣物語  作者: 青木薫


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35/40

35 意外な展開

よろしくお願いします。

 それからの2週間余りは大変な忙しさだった。


 『秋季政策戦略立案会議』とかいうやつで働き方改革の今後について全庁のお偉いさんたちの前で説明・提案をする必要があり、その資料と読み原稿、想定問答の作成に大わらわだったのだ。


 佐々木さんが私に一緒に仕事をしてほしいと言ったのは真実で、想像を超える働きを要求され、持てる力を総動員した。


 中でも一般の市民や企業の目線での意見は、見栄えのする書類の作成と共に重宝された。これまでいろいろなところで働いていてよかったなと思えた。


 家に帰ると疲労で食事の準備などもそこそこにお風呂に入って一休みし、その後クラウドで少しでもと仕事…無事にタブレットが支給された。なんだか課長さんが小狡い手を使ったようだ…をする私を見て、ちなみも母も心配していたが、あまり我を通さない私が珍しく頑張っているのを見てお茶を淹れてくれたり、目を温めるアイマスクをくれたりしたのが嬉しかった。


 ランチに出る時間も惜しくて、朝大急ぎでオニギリをいくつも作って持って行って、課長さんと三人でカップのお味噌汁で流し込む日が続いた。

 


 そんなこんなで10月3週目の金曜日、会議の日はやってきた。


 会議室というには立派すぎる部屋に入ると驚くべきことにそこには市長の他、局長だか課長だかとかいう人たちがいて、私はそんな役職があるんだな〜なんてドキドキしながら考えていた。


 実際に説明するのは管理職だが、補佐としての佐々木さんとなんと私までもがここにいる。一言も発することは無いと言ってもらえていたとは言え、初めての経験に胃が痛くなる思いだった。


 横目でチラチラと役職がすごい人たちを盗み見ているうちに会議は無事終了した。


------------------------


「いや〜無事終わってホッとしたよ。二人共お疲れ様」


「ホントですよ。あー…マジで疲れました」


 珍しく砕けた口調の二人にお茶を淹れる。


「ああ、ありがとうございます。相田さんも資料作成頑張ってくれましたね」


「いえ、そんな。佐々木さんの指示通りでイッパイイッパイでした」


すかさず佐々木さんが


「いや、そんなことないですよ。本当に助かりました。自分が作ると文字が多くなるので上の人たちには不評で。今回はだいぶ伝わってる感ありました。ありがとう」


 仕事ができる人たちは気遣いもすごい。


「まあ、これで一応各局が持ち帰って再検討だし、しばらくはウチの局内の検討だけになるから少しは休めるかな。どう?今日は食事でも」


「お、いいですね。ぜひ!相田さんはどう?できれば一緒に行こうよ」


 こうして大きな仕事を終えた私達は夕飯をともにすることになったのだった。


「かんぱーい」


 三人で生ビールのジョッキをガチンといわせてゴクゴクと飲む。そこからの二人はいつもの職場での会話が嘘のように饒舌だった。


 大変だった、疲れた、今週末は絶対ゆっくりして映画観に行く、なんて話で場が緩くなってきたところで佐々木さんが仕事の話に戻った。


「大体、本当に変えるつもりなんてあるのかって話ですよ。改革なんて部署作って、一応体裁整えて、やった感だしておしまいでしょう。まあ、このくらいの規模感の自治体ならそれで許されるってことなんでしょうけど」


「うん、でもそれでもこれだけ進めば御の字っていう。君たちには感謝してるからね」


「う〜、多田さんから頼まれたから受けたんで、本当だったらやりたくなかったんですからね」


「…それは、悪かったって思ってるよ。ごめんね」


「…う、も〜またそういう顔して」


『なんだろう、コレ、B○的な何かかな?』フッと困ったように笑った課長さんを見て微妙な気持ちになりつつ『君たち』と私を入れてくれたことにちょっと嬉しくなる。


「ホント…多田さんがこんな部署にいるのがそもそも間違ってるんだから」


「佐々木だけだよ、そんな事言うの。買いかぶり過ぎだって」


 佐々木さんを呼び捨てにしたことにまた生ぬるくなったけど、どうも何か事情があるんだなと感じた。


 総務局ではあるものの確かに多田課長の仕事はあまり多いようには見えない。ウチとあといくつか調査の部門と審議会の担当とのことで閑職とまではいかないけれど脈絡なく仕事を振られているような…と考えていたら


「相田さんも、本当にお疲れ様。こんなに忙しくさせているのに部署は今年度限りで…次年度もどこかの部署で仕事ができるように探しておくから」


「あ、いえ、そんな…いや〜ありがたいですけど、そんなに気になさらないでください。私、意外とどこでも働けるタイプなので。第一、課長さんにそこまで甘えられるほどまだ仕事してませんし」


もう少し働いて役に立ちそうと思っていただけたなら、なんて笑って返したのだが


「多田です」


と笑顔で返されて、ん?と思う。


「え?あの」


「職場じゃないので、『多田さん』呼びでお願いします」


 どこにどんな人がいるかわかりませんからねと言った後、通りかかったお店の人におしぼりを頼む課長さんと佐々木さんを交互に見た私に、佐々木さんは笑顔でうんうんと頷いた…あーこの人酔ってるな。


 その後は仕方無しに『多田さん』と極力呼ばなくても済む流れで話をしてそれなりに盛り上がり、お開きとなった。


「相田さんはいいよ」


「そんな、ダメです。自分の分は」


「いいっていいって、アルコール少なめだったでしょ?多田さんに今日は甘えちゃいましょう、ってことで自分も4割くらいでいいですか〜?」


「仕方ないな、3割でいいよ」


「やった!ごちそうさまです!」


 二人がそんなやり取りをしてしまったので、ここは素直になることにしてお礼を言った。


 佐々木さんがこんなにはしゃいでいるのだし、固辞するのも野暮だ。お店を出ると寒いくらいで、酔っていた気分が少ししゃきっとした。多田さんが出てきて声をかけてくれた。


「相田さん、大丈夫?飲ませすぎちゃったかな」


「大丈夫です。そんなに飲んでいませんので」


「そう?それなら良かった。じゃあ、二人共良い週末を」


「はい、ありがとうございました」


 多田さんが駅へ向かうのを見送って、その姿が雑踏に紛れたところで私もと挨拶をしようと佐々木さんを見上げたら、先程までの笑顔が嘘のようなマジメな顔があった。


「この後、少し時間いい?」


 断れる雰囲気でもなかったので頷くとチェーン店の中ではまあまあ落ち着いたコーヒー店に連れて行かれた。紅茶もあったのでアールグレイを頼み席に着く。


 ソファ席に座った佐々木さんはさっきよりも姿勢を崩し、合わせた両手を額に当てて大きく息をついた。何か言いたいことがあるのだろうが、せかしても仕方がないと思い紅茶を飲みながら待つ。


 私が三分の一程飲んだところで佐々木さんも自分のコーヒーを両手でカップを包むようにして飲み始めた。これはダメかなと私から切り出す。


「佐々木さん、今週、お疲れ様でした。不慣れなのでいろいろお手数おかけしてしまって…ありがとうございました」


「あ?ああ…こちらこそ」


 私から話しかけたのでちょっと驚いたように顔を上げた佐々木さんに話を続ける。


「課…多田さんのことですか?」


 一瞬目を見開き、大きく息を吸った佐々木さんは困ったような笑顔で言った。


「…気が利きすぎるって言われない?」


 その後、佐々木さんは多田さんのことを教えてくれた。すごく仕事ができること、同期の誰よりも実績を積んで早く昇進したこと、そのことでやっかみが酷くてどうでもいい失敗の責任を取らされたこと。


「自分は採用されて少し経ってから多田さんの下についたんだ。丁寧な仕事で、税金で仕事しているんだから市民のために誠実に働けって言われた。でも自分はその言葉の意味がよくわかっていなくて、これまでよりは多少大きな予算をもらえた時に嬉しくて自分勝手な企画を立てて…詰めが甘くてさ、入札で不調になったんだ…その責任を取らされのが多田さんで…」


なんと言ったらよいかわからなくて黙っていると、佐々木さんは


「ごめん、こんな話をして。困るよね。でもずっと情けなくて、でも誰にも言えなかった。自分はそこそこ仕事できるつもりで、多田さんの下について、なんでもできる気になって…結局迷惑かけた。もう4年も前の話なのに、今でも申し訳なくて…それからはとにかく頑張ってきた。多田さんに育てられた奴は使えないなんて言われないようにと思って」


 紅茶は冷めてしまったけれど、もう一口。苦さが広がる。


「…今回の部署のことだって、テコ入れなんて言っているけど他がやりたくないから多田さんに押し付けたんだ。だけどそこで多田さんが自分に声かけてくれて…本当は嫌なんかじゃなかった、嬉しかった。本気で頑張ろうって思った。


 もっと上からは『こんな時期になってからだけどたいへんだろうから短期の人を頼んだ』って言われたけど、来たばかりの人に頼めるような仕事じゃないから、ああ、また多田さんは嫌がらせされてるんだなって思って。


 それなら自分だけでなんとかしてやるって、多田さんのためにうまくやろうって…で、また失敗するところだった」


 おや、と思って顔を上げると佐々木さんがカップを置き、手を膝に頭を下げてきた。


「え、あの?」


「今回の仕事、相田さんがいなかったらここまでうまくいかなかった。自分にだけわかるものを作って、きっとただ他の部署ができていないところをあげつらって終わりだった。相田さんが他のところで経験してきたことや市民目線で出してくれた意見のおかげで実施可能な提案ができたし説得力も増した」


「や、そんな、私なんて」


「感謝している、ありがとう」


「…いや…そんなに本気でお礼なんて…」


 思ってもみない展開にアタフタしていると、


「困らせるつもりはないから、ごめん。多田さんに言った通り、最初は頼る気もなかったりして失礼だったけど、これからは相談させてもらう。年度末までよろしくお願いします」


 なんだかさっぱりしたいい笑顔で言われてしまった。まあいいか、という気持ちにさせる笑顔に


「はい、こちらこそ頑張りますのでよろしくお願いします」


と答えた。


 頼る気がなかったとか言っているけど、ランチに誘ってくれたり仕事を教えてくれたり随分と親身になってくれていたのを思い出して、やっぱりいい人なんだなと思った。


「ところで」


「はい」


「明日、は自分が二日酔いな気がするので、明後日、映画に行きませんか?」


「はい?」


 …こうして私は佐々木さんと一緒に映画を観に行くことになったのだった。

お読みくださりありがとうございました。

毎度ですが区切りで困って、途中で-----を入れたりしました。難しいです。

もっと1話を短くすればいいんですかね?

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