↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界派遣物語  作者: 青木薫


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
34/40

34 働きますよ②

よろしくお願いします。

どこで切っていいのかわからなくて毎回区切りが悪くてすみません。

 午後は部署の業務について説明してもらえるということだったが、急ぎの予定が登録されていたのでとりあえず佐々木さんが戻るまでにと、データ入力と資料の誤字脱字チェックをお願いされた。


 データは各局がそれぞれの事業で集めているアンケートの結果だったり、備品の数の報告だったり、小さいものだが数が多いのでとにかく急いで集計シートに入力したり加工したりして返す、という感じだ。


 チェックは元の部署でしてくれるというのであまり気を使わずに済むのがありがたい。紙の書類は少なくなっていてもこういうところは役所っぽいなと思った。そして校正を頼まれた書類は、業務改善に関わるものだった。


 各局から出された改善案について数枚にまとめてあり、それぞれについて実現可能か、予算はどれくらい必要か、などが書かれている。いくつかの誤字、またグラフの位置や数値の表記のズレ、フォントを修正していくつかイラストを追加しておく。


 そうこうしているうちに2時間程経って、水分補給でもと立ち上がったところで佐々木さんが戻って来た。


「すみませんでした、思ったより時間がかかってしまって」


「いえ、お疲れ様です。私これからお茶淹れるんですけど、いかがですか?」


「あーほしいかな、ありがとう」


「ついでみたいですみません、あ、書類は修正したものを保存してあります」


 淹れると言っても家から持って来たティーバッグだが、昨日ちなみのお見舞いで届いた柑橘の入ったハーブティーなので味はいいはず。佐々木さんもお昼の様子からこういうものが飲めないことはないだろう。自分で持ってきたカップと佐々木さんのはわからなかったので給湯室にあった無難な白いカップを借りた。


 お茶を持って行くと佐々木さんは画面を見ていたので邪魔にならないようにカップを机に置き、私のところにもまた新しいデータが届いているのではないかとメールのチェックをすると案の定3通が届いていた。


 1通分は割と大きなデータなので入力に時間がかかりそうだ。どれから手を付ければ今日中に終わるかな、やっぱり精神的にブランクがあるから調子が出ないな、と考えていたら佐々木さんに呼ばれた。


「相田さん、このグラフなんだけど」


「はい、あーちょっと説明部分とズレていたので合わせてみました。でも前のも途中のも別に保存してあるので戻せます。様式についてはここのルールもあるかと思いますのでそのままです」


「うーん…」


「ええと…余計でしたか、すみません」


「いや、いいんだ見やすい」


 ちょっとホッとして一口お茶を飲んでから自分の仕事に戻る。いい香りで嬉しくなったついでに、やはり小さいものを先にやっつけてから大物に取り掛かろう、明日1件の途中から始めるのと丸々2件残っているのとでは気分が違うしと思っていたら、


「相田さんはこの書類見てどう思った?」


と聞かれたので驚いた。どうって、どういう意味だろうか。


「ええと…業務改善についてですよね、最近流行りの働き方改革というか…?」


「そう、えーと、午後に話そうと思っていたんだけど、うちのメインの業務はこれなんですよ」


「あ、そうなんですか?」


「うん、一応数年前から取り組んできてはいるんだけど、少しばかり進みが遅くて、テコ入れというか」


「ああ、それで」


「…」


 佐々木さんが続けてという顔をしたので


「まとめられたものの中にだいぶ結果が出ているものと新しいものが混ざっていたので。もう少し予算の見積もりをしっかりしたほうがいいものもありますよね…あ、これとか」


 水道局の教育的資料のデジタル化についての予算部分を選び、


「他の局の委託料に合わせて作ってきたのだと思うのですけど」


と比較のために文化観光局のウェブページを開いて説明する。


「そもそもここ(文化局)の子ども向け資料はそんなに多くなくて、大人向けだったんですよね。それを教育に特化させようと思ってだいぶ取材したみたいです。デザインにも力が入っていて、動画の埋め込みなんかもかなりの数がされています」


「なるほど」


「でも水道局の資料は既に使われていたものの再利用なので、こんなに予算は必要ないと思いました。観光局に合わせて作り直すなら別ですけど、そうではないようですから・・・多分ここにある数字の三分の一…いや四分の一でも…いけるんじゃないでしょうか。下手すれば担当者でできるレベルというか」


「…相田さんは、どこかでそういう仕事をしたことがあるんですか?」


「はい、えーと短期間でしたけど、ウェブデザインっていうか、こういう官公庁のこれまでの資料のデジタル化を頼まれる会社にいました」


「そうなんだ」


「あまり低い見積もりされると市内の企業も体力削られるので困りますけど、このくらいでこの予算はちょっと高すぎる、かなと感じました。決まってから詰めていくつもりなら最初は高めでいいかもしれませんけど、税金ですから大事にしてほしいです」


「ああ、うん、そうだね…」


 税金を大切に使えなんて生意気すぎただろうか、佐々木さんはちょっと面食らったような顔をしたがすぐに気を取り直したという感じで質問を続けてきた。


「ええと、他にも気付いたことはある?」


「そうですね…あ、この出張旅費の削減ですけど、そもそもの交通費とのダブりがありそうなので…でも、ここはシステムの問題かな…メンテでなんとか改修してもらえれば…」


 こんなでまとめられたもののうちの三割くらいについて意見を出したところで終業時刻となってしまった。


「あっ、すみません、こんなに長時間になってしまって…あのデータの入力作業があったのですけれど、まだ手つかずで」


「あー、いいんだ。そっちは本当はうちの仕事じゃないっていうか」


「え?」


「ああ、とにかく明日説明するから、今日はこれで終わりにしよう。お疲れ様」


「はい、ではお先に…?」


 荷物をまとめてパソコンの電源を落として、ニコニコしている佐々木さんに挨拶して帰った。


 家に帰ると、ちなみが奏汰と遥香をくすぐって遊んでいた。ニコニコしながら遊ぶちなみとキャーキャー言っている二人を見るといつものことながらホッとして少し切なくなる。ヨシと小さく気合を入れて夕飯を作った。


 次の日、佐々木さんの説明を聞いたところ、うちの部署は年度途中に短期間だけ設置され、来年度は解散するということだった。


 業務改善の結果が芳しくなかったのでテコ入れとして、様々な部署からこれまでの取組の結果と改善策、または新規の取組を提出させ、妥当かどうか判断し、来年度の方針を打ち出す、各部署に具体的な手立てまで提案させ予算立てまでさせる、ということらしい。


「ここまで、OK?」


「はい、わかりました。それで、他部署からのデータ預かりと入力ですけど…」


「ああ、あれはチェックやら何やらで方向性を決めるまでは大した仕事はできないだろうと思って、ここに何かしらの仕事を持たせるための方便というか」


「あ…そういう」


「そう、だから相田さんの仕事も今年度だけの契約で…申し訳ないんですけど」


「いいんです、契約社員とか派遣とかってそういうものなので」


私がそう答えると佐々木さんはちょっと驚いたようだった。


 できれば同じ仕事を何年間か続けたいと思う人はいるし、ましてや役所となれば条件も悪くない。けれど


「私はあまり同じ職場に長く勤めるタイプではないんです。あちこちフラフラしていて…社会人としてはちょっと信用に欠けますかね」


ハハ…っと笑うと、


「そんなことはないですよ。相田さんは次の仕事にこれまでの経験を生かしているでしょう。現にここでだって、予算や書類の不備を見つけたりしてくれた」


「あー…まあ…ありがとうございます。でもやっぱり専門的な知識とかはないので」


「ある程度の知識があれば、後は多様性を受け入れる気持ちと、その場で何を取るかの判断力があればやっていけるでしょう。大事なのは人柄だとも思っていますし…」


そこまで一気に言って、佐々木さんはハッとしたようだった。ムムっと口ごもって、


「まあ、何にせよ、今後は他部署のデータについては断るつもりです。今日はそういった話をしますので、同席してください」


「…はい」


 いい人だなぁと思いながら席に着き、とりあえず昨日預かった分のデータ入力に取り掛かった。


 1時間ほど経って、打ち合わせに呼ばれた。10人程度が入れる会議室に、その人は座っていた。


「で、他部署のデータ入力は断りたいということ?」


『課長さん』の顔の多田さんが聞いた。


「はい、最初のうちは自分に余裕が無く相田さんに仕事を割り振ることもできないだろうと思って、つなぎの仕事として考えていました。それに正直…」


佐々木さんは、少々都合が悪そうな顔をしてから、決心したように言った。


「正直、自分のところに他の職員は必要ないと思っていたところがあります。それでも部署として成立させるために必要な措置として部下の設置を受け入れたので、全部を自分でやることになっても構わないと考えていました。年度末までの契約で来た人に、この面倒臭い業務について何か任せられるとは思っていませんでしたから。調整が必要な業務なのに初めてここに来た人にそれは酷でしょう。でも細々とした事務仕事でどこも大変そうなので、一人でも配置が増えれば、それはそれでみんな助かるかとも…思いました」


 これには私もびっくりして、それから苦笑した。


 確かに様々な部署から人が来てあれだけの対応をしていたら、私の相手をする時間も惜しいほどだろう。だったらデータの入力をしておいてくれたほうが他の部署のサポートになっていい。


 佐々木さんの言う通り、今時、どこでも人手が足りなくて困っているのだから。仕事がなくて私が心苦しくならないようにというのも感じられて、私は少しばかり嬉しくなった。でも佐々木さんは私の方を見て


「失礼なことを言ってすみません」


と眉を下げ、それから課長さんに向かって言った。


「でも、それは昨日までの考えです。相田さんに昨日各担当から出された書類を見てもらったのですが、相田さんは書類のレイアウトの他、予算立ての不備、業者としての立場など、多岐にわたる視点で意見を出してくれました。他部署からの打ち合わせの調整などもしてくれて、はっきり言って…」


課長さんが、言葉を選んでいるような佐々木さんを見つめる。


「…自分の了見の狭さに恥ずかしさを覚えました。相田さんに対して、また様々な契約で働く方々に対して、申し訳ないと思っています」


「…続けて」


「相田さんにはこの部署の仕事を一緒に進めてほしいです。自分だけではできないこと、気づかないこと、それを一緒に解決していきたい。なので、今後は他の部署の仕事を預かることはできない、そのお願いにあがりました」


 会議室は妙な静けさに包まれた。私は何だか大げさに褒められた上に優秀そうな佐々木さんが自己分析して課長さんに謝っているのを見せられて背中に汗が伝った。ナニコレ、マジメか!?怖い!私は言われた仕事をするので、課長さん、何でもいいから言って!と思ったところで


「…了解した。他の部署には伝えておくよ。そもそも業務が進んで軌道に乗るまでという理解だったのだから、乗るのが早かったということで構わないだろう。」


課長さんがようやく佐々木さんにそう言うと、


「それにしても佐々木さんがそこまで言うとは…相田さんは相当仕事ができるようですね。ありがたいことです、これからよろしくお願いしますね」


 私にもニッコリ笑って声をかけた。何だかもっと怖いと思った。お願いその『課長さん』の顔でハードル上げないで。


 その後は昨日出された書類で気になったことや次の会議で出す何点かの提案資料について打ち合わせをした。


 私はコピーされた書類に記録を取りながら聞いていたが、打ち合わせの終了時に何かないかと言われたので、できれば部署内だけでも共有ができるPCかタブレットがほしいことを伝えた。


 今回の打ち合わせについてもこの後また記録としておこさなければならないのは時間の無駄だと思ったからだが、二人は顔を見合わせてクスクス笑って


「働き方改革にはピッタリの人材だったな」


と言った。


 セキュリティ上の問題で難しいがなんとかしようと言ってもらえたのでホッとした。

お読みくださりありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。