28 令嬢らしくしたら
よろしくお願いします。
「おはようございます、お嬢様」
「…う…ん…、うん?」
「お目覚めですか?」
「は、はいっ!あ、あのっ?」
「いかがなさいました?」
そうだった、令嬢に転生したのだったと思い出しちょっと慌てる。よく寝てしまった。
「…あ、いえ、なんでも、ないです…おはようございます」
「お支度ができたら朝食です。こちらにお着替えください」
「あ…はい、ありがとうございます。これですね」
「…」
「え?」
「…いえ、ではどうぞ」
よく見ると起こしに来てくれたのは昨日ミリーと呼ばれていた女性だった。
なぜか少し驚いたような表情の後に渡されたのは薄い若芽色のふんわりした形のワンピース。丈は長めでかわいらしい。一瞬もっとシンプルな服をと思ったが昨夜の課長さんとの会話を思い出し、素直に従うことにした。
「素敵な服ね。着心地もいいし」
「これは…レナーテ様が以前エラ様に作って差し上げたものですよ」
「えっ、あ…そうだったかしら?アハ、イヤねぇ、すぐに忘れちゃって、アハハ…」
「エラ様には少し短くなりましたので。でも、レナーテ様がとっておいてと仰って。ご自分用ではなかったのですか?私としたら…申し訳ありません…」
「あー…そうね、まだ綺麗だし、処分するにはもったいないから。あ、そうだ、後で刺繍でもいれてみようかと考えたのだったわ〜。どんな感じか、着てみないとわからないでしょ…えーと、だから、今日はこのまま着るわ〜ありがとう〜ウフフ」
少しばかり困ったような顔をされたので取り繕うのが大変だ。
それにしてもレナーテはエラの服を捨てずに取っておいてと言ったのか。それでレナーテが着ていたら周りはお下がりを着せられている令嬢だと思うではないか。
それに気づかないレナーテにちょっとイラッとした。それと同時に今のやりとりからそれが普通に行われていたこと、つまりレナーテがお下がりを着るのが当たり前であったことにも気づいた。
まあレナーテは妹だし、アリかもしれないけど…でもミリーの様子からやっぱり日常的にソレはないのではないか、と思ってしまった。多少気まずい感じがしたので話題をかえる。
「そう言えばエラもフィンも背が高いわよね。スラッとしていて着映えがするわ。まだ伸びるかしらね、次の服はもう少し丈を長くしたほうがいいのかしら」
すると、ミリーがやけに真剣に
「レナーテ様も可愛らしいですよ。今日は髪も少し結ってみましょうか」
と言ってきたので、つい
「えーと…じゃあお願いします?」
と答えた。ミリーはワンピースの時よりももっと驚いた顔になり、そしてにっこり笑った。
*****
「おはようございます」
昨日と同じ食堂に入ると家族が一様に驚いた表情で私を出迎えた。
「レナーテ、おはよう、その…なんだ、とても…」
口ごもる父親の隣で母親のリナが
「素敵よ、レナーテ!とても似合っているわ!」
と嬉しそうに言った。そして周りにも同意を求めるようにニコニコしながらうなずいた。
「本当に、レナーテ、似合ってる。その色、レナーテにぴったり!とっても可愛いわ!」
エラも私を見て嬉しそうだ。エラの視線を辿ってみればレナーテ、つまり私の髪は柔らかい栗色でこのワンピースの薄い若芽色に合っている。エラの輝く金髪にも似合わなくはないが、ちょっと印象が弱かっただろう。
もしかしたら丈が短くなったというのは言い訳で、あまり着ずに新しいままで私に着せたかったのでは…そんな考えが浮かんだが、とにかくみんなが嬉しそうなのでお礼を言って席につく。
「遅くなってごめんなさい。ミリーが髪を結ってくれて…」
「いいんだよ、待ったと言ってもほんのわずかだ。第一、お前はドレスづくりがあるからって部屋で食べることも多いじゃないか。朝からこうして一緒に食べられるなんて嬉しいよ。それにその髪型もとてもいい。ミリーはいい仕事をしてくれたな!」
フィンも満足そうだ。ミヒャエルにいたっては口を開けてぽかんとしている。私は心の中で『なに、レナーテ、この子、朝食も一緒にとっていなかったの?どういうことよ』と思ったが
「ありがとう。そんなに褒められるとなんだか恥ずかしいけど」
とお礼を言った。その言葉に家族はまたみんなで嬉しそうな笑顔を浮かべてくれたのだった。
食事の後、私は昨日の裁縫用のお部屋に行き花作りの続きに取り掛かった。いろいろと考えたいことはあるが、ウェディングドレスの完成はやはり最優先だから。
ありがたいことにドニの時同様考えなくても手が動く。私の前の箱にはどんどんと出来上がったお花が積み上がっていった。ふわふわとした、それでいて艶のある花々をチラチラと見ながら自然と顔が緩む。
このお花が縫い付けられたドレスはきっと見事だろう。ドレスのデザイン画を思い出し、ソレを纏ったエラを想像すると胸が高鳴った。
「ああ、どんなに美しいことか!」
「何がだい?」
「ひいぇぇっっ!!?」
思わず口にした言葉に質問され驚いた私は令嬢にあるまじき声をあげてしまった。
「あ、あ…あ、あの、エラがドレスを着たところを想像したら…綺麗だろうなって…」
戸口に立っているミヒャエルの姿に驚きながらも彼ならばレナーテの奇行も許してくれるだろうと思い、ちょっとホッとして答える。ミヒャエルは笑顔を浮かべて
「ああ、エラも楽しみにしているし、きっと美しい花嫁になる。でもレナーテ、無理はいけないよ」
「大丈夫です。昨夜はたくさん寝られたし、元気一杯ですから!」
「そうか、それならいいが。元気が何よりだ。今朝はいつもよりも身だしなみも整っていたし、みんな嬉しかったよ」
「え、あー…はい」
ちょっとミリーに世話をしてもらっただけなのに部屋にまで来て褒められるとは、やはり家族にえらく心配をかけていたのだと感じて苦笑してしまう。
「あの…私、これまで随分とお兄様方に心配をかけていたのね。気づかなくてごめんなさい」
「え?どうしたのかな、急に」
「昨日、夕食の時にブリッツと稲の話をしていて思ったの。
時にあんな風に使用人と、家族には訳のわからない話題で盛り上がってみんなを困惑させておいて、みんなの話を聞くことはしないなんて、あまりに子どもっぽかったなって。
直前にお母様が私の服装の話をした時には私は返事もしなかったけれど、その後の稲の話はみんな我慢して聞いてくれていたでしょう、これまでずっとそうだったのかしらって」
「レナーテ…」
「ごめんなさい、お兄様。私、これからはもう少し自分のことに気を遣うようにします。みんなが恥ずかしくないように振る舞えるよう努力するわ…ってお兄様?」
「…」
私を見つめて話を聞いている間にもミヒャエルの目の周りが赤くなってきた。
やだ、そんなに感動されるなんて、どれだけ困ったちゃんだったのかしらねと思いつつ
「お兄様、大丈夫ですか?なんだか顔色が…熱でも?」
立ち上がって側に寄ろうと一歩踏み出したところで、駆け寄って来た兄に私は力いっぱい抱きしめられた。
「ぅえっっ、お、お兄様?」
余りに急な力強い抱擁に中身が出そうになった。
「あのっ、く、苦しいっ…」
「ああっ、レナーテ!ようやく、ようやく分かってくれたんだね!!嬉しいよ!」
ものすごく感動されてしまって苦しさを我慢しながらジッとしていたら、上からグスグスと音がして驚愕する。もしかしてこの人泣いてる?
「あの、お、お兄様?」
「レナーテ、私達は本当に君を大切に思っているんだ。そんな君が自分を大切にしていないように見えてこれまでとても、とても苦しかった、辛かったんだ…だけどこうして君が…」
「はぁ…あの…それは、本当にごめんなさい、気付かなくて…これからは気を付けますから」
「うん…うん、そうしてくれ、本当に…嬉しいよ、ありがとうレナーテ」
ようやくミヒャエルが私を解放してくれた。大きく息をつくと彼は申し訳なさそうな顔をしていたが微笑んでいた。
「でも、エラとマレーネのドレスを作るところまでは一生懸命させてください。二人には素敵な花嫁になってほしいもの」
「ああ、それは、うん、僕からもどうかよろしく頼むよ。二人とも自分が美人だってわかりすぎるくらいわかっているから、その美しさに負けないドレスが必要なんだ」
私達は二人でクスクス笑い合った。その時開いていた扉からフィンが覗き込んで驚いた顔をして言った。
「なんだ、二人して笑っちゃって。何かあったのか?」
「何もないよ、フィン。花嫁のドレスの進み具合をきいていたのさ。きっとすごいドレスができあがるよ。ね、レナーテ」
「ええ、私、心を込めて作るわ。フィンお兄様、楽しみにしていてね」
「え?あ、ああ、それは、どうもありがとう?でも無理はするなよ?」
何だかよくわからないという顔をしながらもお礼を言うフィンに、やっぱりレナーテは家族から大切にされているのだなと思った。
お読みくださりありがとうございました。




