21 我慢の日々をやりすごせ
まだ子どもがつらい目に遭っています。苦手な人はご注意ください。
また夢を見た。
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僕によく似た叔父さんが暖炉の前で本を読んでくれている。僕は登場する森の生き物のことや辺境での生活のことをあれこれ質問する。
叔父さんは、自分が出会った動物とのエピソードを臨場感たっぷりに語ってくれた。ヘラジカの角なんて、触ってみたい!
「ダニエル、お前が大きくなったら…ここに来ることも考えてもいいんだぞ」
「え、本当に?僕、ここで暮らしたいよ!広くて、動物もたくさんいて、大好き!」
「そうか、それじゃあお前の部屋を作って待っているよ」
「やったぁ!おじさんと一緒に暮らせるなんて楽しみだよ!」
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夕食の前に目が覚めた僕は、夢に出てきた叔父が僕の境遇を心配していたこと、でも僕自分はそんなことには気づいていなかったこと、そして、この先領地に行けば彼に会えることを考えて、この世界に来てから初めて楽しい気分になったのだった。
「何故お前は部屋から出ている」
「…」
楽しい気分の食事を台無しにしたのは父親のラーシュだった。いきなり部屋に入って来ての一言だ。
『部屋から出た、だって?だからどうした、どれだけの時間のことを言っている?今だって自分の部屋で一人で食事をしているのに、何の文句があるのか』
…言い返してやろうかと一瞬考えたが、夕方庭で美味しくお茶を飲んだことを思い出したので黙って立ち上がり頭を下げた。
「申し訳ありません、領地に行く前に体力をつけなくてはならないと思い、庭で鍛錬をしておりました」
「…そうか、ならばよい。だがエドガーに姿を見せないよう気をつけろ」
「はい、承知いたしました」
顔をあげずにそこまでの会話がなされた。しかしラーシュが立ち去る気配はない。どうしたものかとそのままでいると
「お前は、領地に行くのが楽しみか」
と聞かれた。
意外な質問につい顔をあげてラーシュを見上げる。金髪で青い瞳の男性。近くで見たのは初めてなのでマジマジと見つめてしまう。夢に出てきた叔父に似てはいるがだいぶ凡庸でさしたる特徴もなく、人を惹きつける魅力があるとは言えない
…などと夢の人物と比べてしまう。考えてみれば叔父のほうが夢に出てきた回数が多いので馴染み深い感じがするなんて変な話だ、などと考えていたら、突然の衝撃で床に倒れた。
「何を見ている!」
なんと、顔を叩かれたようだ。こんな子どもをいきなり叩くなんて、こいつは本当にダメだなと心底呆れた僕は床に蹲ったまま黙っていた。実際クラクラして立つことができない。
「返事をしろ、領地に行くのは楽しみかと聞いている」
これは下手に答えたら連れて行くのをやめてここに閉じ込められ続けるかもしれないと肝が冷え、精一杯子どもらしく答える。
「ご、ごめんなさい…そ、その…し、心配です…」
「…ふん、それはそうだろう、あそこは寒く厳しいからな。お前のように弱い者にとっては辛い場所だ、せいぜい鍛錬しておくがいい。それでもあの冬を乗り切れるかわからんがな」
そう言ってラーシュは部屋を出て行った。
トレイさんが駆け寄って僕を抱きおこそうとしてくれたが、自分でさっさと立ち上がり、頬を揉む。ゾッとしたせいか先程のめまいは治まっている。クロゼットまで移動して扉を開け、内側の鏡で確かめるが赤くなっているだけで切れたりはしていない。
「なんなんだ、アイツ、子どもを殴るなんて最悪だな」
顔を傾け顎や首まで確かめながらそう言うと、トレイさんが息をのむ。
「ああ、本人の前では言わないから大丈夫。大体あの人だって僕を息子だと思いたくないみたいだし、どうだっていいよ。ったく、つい顔を見ちゃったのが失敗だったなぁ」
ぼやきながらテーブルについて食事を続けることにする。
「まったく、せっかくの料理が冷めちゃうじゃない。こんなにおいしく作ってくれているのに申し訳ないよ。あ、このお野菜おいしい。蒸してあるのかな」
もぐもぐと食べる僕の様子にトレイさんもちょっと落ち着いたようで、隣で給仕をしてくれる。食べながら僕はあと一週間でとにかく波風立てずにここを出て行けるよう大人しくしながら知識を蓄えようと考えていた。
トレイさんはずっと黙っているけれど、多分きちんとした大人なので僕と父親とのことを気に病んでいるんだろうなと思われた。それはありがたいけれど、変なことをされて辺境行きを取りやめられたら困るので釘を刺しておくことにする。
「トレイさん、さっきのことで何か考えているのだと思いますけど、何もしないでくださいね」
「…ダニエル様?」
「あの人、辺境に行くことは不幸だと思っているから僕を連れて行くんだよ。なのに僕が楽しみにしているってわかったら?取りやめてずっとここに僕を閉じ込めておくことを選ぶかもしれない。そんなの真っ平御免だ。言っている意味はわかるよね?」
「…あ」
「そういうこと。だから、なるべくこれまで通りの生活をしたいと思っています。まあ体力はやっぱり少し必要だと思うから運動は多少するけど、勉強していることは内緒にしておいてほしいし、僕が頑張っていることも黙っていてください、お願いしますよ」
「…はい、承知いたしました」
トレイさんは自分の考えを見透かされたことや僕の考えが正しいと感じたことでなのか、少しばかりしょげて見える。でも僕は前世でこういうケースをたくさん見てきたし、そういう仕事もしてきたのだから仕方がない。
でもつい前世の自分よりも若いトレイさんにタメ口っぽくなってしまうのはよくないし、気をつけなくてはと思った。
なんだかこの身体は子どものせいか制御しにくいところがある。ずっとこの中にいたらどうなってしまうんだろうと不安を感じる。
子どもの頃は1年がとても長く感じられた。この子の中に一ヶ月もいたら、前世のことを忘れちゃったり…なんて怖い考えが浮かんだので頭をブンブンと振ったらトレイさんがすごく心配してくれて申し訳なかった。
いろいろと考えることはあっても、その後は計画通り、静かな毎日を送った。本はたくさん読めたし、美味しい食事を準備してもらえて体力も戻った気がする。
本からは地形や地質のことがよくわかり、多分だけど領地には豊富な資源が埋もれているだろうと予想できた。それだけでも出発が楽しみだし、これでこそ転生ものだとニヤニヤしてしまった。
ここにいるうちにと、本で読んだ知識や前世の知識を使ってブンブンゴマや万華鏡、けん玉など簡単なおもちゃを作って遊んだのだが、それは今後ダニエルの楽しみになるかもしれない。いや、そうなってくれればいいなと思った。なにせダニエルの持ち物の中で子どもらしいものと言えばあの傷んだぬいぐるみしかないのだから。
また毎日見る夢で、途切れとぎれだけれど、僕=ダニエルがここで辛い目に遭っていたこともわかった。兄だという子どもの身勝手さには怒りがわく。
でも子どもだからよくわかっていなくて、ただただイイ子にして愛されたいと感じていたんだなと理解できて、そして統合されつつあるせいで自分のこととして感じ取ってしまって、切なくて涙が出た。
朝、目覚めて涙を流している僕を見てトレイさんも辛そうだったけれど、僕が記憶が少しずつ戻ってきているだけだから大丈夫だと答えるのを見守ってくれていた。
父親も母親も僕のことは放っておいてくれたから、荷物の準備もスムーズだった。そもそも僕の物なんてほとんどなくて、気に入った本と例のクマのぬいぐるみ、その他は衣服だけだった。そうして出発の朝を迎えた。
お読みくださりありがとうございました。




