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異世界派遣物語  作者: 青木薫


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17/40

17 子どもにもできることを

まだ子どもが辛い話です。

 まだ小さいせいか、記憶も定かではないしわかることは無いに等しいが、転生した時に感じた軽い二日酔いはすっかり抜けているのが救いだ。子どもだから代謝が違うのだろうか。


 さて、先程のトレイという人物は、この子、ダニエルを心配していた。そして彼は他の使用人に指示を出す立場にあるようだ。今はそれだけでも十分。


 では、と椅子の背に掛かっていた衣類を畳んでチェストにしまう。長さのあるものはクロゼットにかける。本当は洗濯をしたいところだがまだ我慢だ。


 そうだ、この匂いをなんとかしなくてはと窓を開けに行くと、残念、手が届かなかった。何か台をと思い、ベッドの脇にあったオットマンを引きずって戻ると、庭に先程はいなかった人影が見えた。


 子ども1人と大人が4人。男の子は栗色の髪でダニエルよりは少し年上に見える。赤い巻毛が美しく整えられた女性はダニエルの母親だろうか。だとすると身なりの良い金髪の男性は父親で後のお仕着せの2人は使用人といったところか。


 ぼんやりと見ていると男の子がこちらを見上げた。目が合ったような気がしたが、相手は特にこちらを気にする風でもない様子で両親の手を引きながら向こうへ行ってしまった。


 姿が見えなくなったので、私は窓を少し持ち上げて細く開けた。カチリといって留まったがこれは後で自分で閉められるだろうか、雨が降ったら嫌だなと思った。それでも少しばかりの空気の流れができてホッとしたので他の窓も同じように開け、それからぬいぐるみを運んでチェストの上に乗せると、主のいなくなったベッドの上掛けを半分めくって畳んで湿気が抜けるようにした。


 床に落ちていた布類の中には畳んでしまうわけにはいかないような汚れたものもあり、これを含めて洗濯を頼むしかない使用済みの下着類などを軽く畳んで1つ箇所にまとめた。


 身体が小さくなったので周りの物はどれも大きく、元の自分の身体のバランスと違うので作業に戸惑うがそのうちに慣れるだろう、そう考えるしかない。


 ありがたいことにこの体は何をするのも器用に動く。先程オットマンを動かすのもさほど苦労がなかったので力が弱すぎるということもないのだろう。よしよしと思いながら部屋を見回し、開けていなかった扉、おそらく続き部屋だろう、に近づき先程同様向こうの様子をうかがう。


 静かで誰かがいるような感じはしない。


 開くだろうかと考えながら小さな手でノブを回す。扉はあっけなく開き、その向こうには洗面所があった。置くタイプのバスタブもあり、これならばもはやお風呂場と言ってもいいのではないか。いつの時代設定かわからないけれど随分と都合がいいなとやや呆れながら2つ並んだハンドルのうちの1つを回すとなんと普通に水が出た。


 これは…と反対のハンドルを回すと…お湯だ。こんなにありがたいことはない。急いで部屋へ戻り、小さなタオルを持ってきて洗った。バスタブの縁を何度か拭いてきれいにし、もう一度部屋へ戻って何枚かのタオルと下着を選んで洗面ボウルで洗うと、バスタブの周りにぐるりと掛けて干した。手が小さくて絞り方は足りないが明日までには乾くだろう。


 そうだと思いつき、洗ったタオルで顔を拭く。案の定タオルは薄汚れた。あーあ。タオルを洗い、2、3度繰り返し拭くとようやくタオルが汚れなくなった。が、これは身体もだいぶ汚いなと思い、ちょっと迷ったが上半身裸になって身体を拭いた。


 ごめんねダニエル知らない人に身体を見られるのは子どもだって嫌だよねと、なぜかこれまで大人に入っていた時には大して浮かばなかった罪悪感が湧き上がる。大人は対等な関係だし生きていく上で必要だしと割り切れたのに、不思議なものだ。上半身を拭き終わり、さてどうしようかと思った時に、扉がコンコンと叩かれたので飛び上がってしまった。


「はっ、はいっ!」


 どうしよう、このままじゃあダニエルが叱られるのではと慌てて脱いだ服を被り、扉まで走る。鍵を開けてノブを回すと、トレイさんが心配そうに立っていた。


「あ、あ…トレイさん、あの…何か…?」


「いえ、通りかかったら水音がしたものですから。何かありましたか?」


「っ、あっ、あのっ、顔を」


「顔?」


「っはいっ、あのっ、顔を洗って…というか、拭いて…いました」


 慌てていたのとウソを吐かせるのは嫌だと思ったのとで咄嗟に本当のことを言ってしまった私にトレイさんはちょっと驚いた様子だったが、すぐに


「中に、入らせていただいてもよろしいですか?」


と言って笑顔を見せた。その優しい声に私はもちろんですと答え、彼を部屋に招き入れた。

お読みくださり、ありがとうございます。

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