15 覚悟をもって
よろしくお願いします。
「…ううう」
床にうずくまる私を彼が見ていることが感じられるが、二日酔いのツラさで顔を上げることができない。そのうちに足音が近づき、靴の先が視界に入った。
「…あんなに、理不尽なの、どうかと思います…」
「うん」
「ジーノが何をしたっていうんですか」
「うん」
「ただ、エミリアを愛しただけで」
「うん」
「ディエゴだって」
「うん、ごめんね」
「…課長さんが謝ることではないです…」
「うん、それでも、ごめん。ツラかったよね」
「…」
「もう、やめたい?」
正直なところを言えばやめたい。でも。
「…ジーノは、ジーノのこれからは、これまでよりも幸せなものになると、思いますか?」
「それは、わからない。でも、自分の気持ちに向き合うことはできたよね。これまでよりはだいぶマシではあるんじゃないかな?」
「…もう少し言い方ってものはないんですか…」
ため息をつきながら立ち上がる。
「前回よりは二日酔いが酷くなさそうだね?」
「お陰様で。取りあえず自分でデキることはやりきったって思って飲んだ結果なので」
「で、どうするの?やめる?」
「やめません」
「…ありがとう。感謝する。お水、飲む?」
「いただきます」
課長さんが出したグラスを受け取り、中の水を飲み干す。おいしい。
「ごちそうさまです」
「どういたしまして」
その後しばらく二人とも話さず、無言の時が流れた。
「…本当に続ける?」
「続けますよ。多少でもマシになるということですから」
「君はツラくなると思うけど、それはいいの?」
「…」
実際、前回に比べて今回のジーノとしての生活はきつかった。
前回は仕事だなんて思っておらず、ここで生きていかなくてはならないという思いでガムシャラだったから。でも今回はジーノが理不尽な目にあっているということとそれをなんとか解決することが自分の仕事だとわかっていたので、何となく「仕事」としてどう動くのが適切かと考えながら動いていた。
でもそのせいで変に客観的で、これはイケるななんて甘いことを考えてしまっていて…そして最後の最後に想像以上のジーノのツラさに衝撃を受けてしまったのだった。
「ジーノは自分の気持ちに蓋をしていたから、それを『自分はツラかった』ってわかってもらうことが重要だったんだ…ありがとう。
この仕事はさ、そういう自分の置かれている状況を変だって思っていないままの人を相手にすることがほとんどだから、この先もきっとこういうことがあるよ。きちんと怒って吹っ切ったり補償してもらったりして先に進めた人のところには行かなくていいからね」
「…今回は、ジーノの悲嘆を想像しきれていなかったことが原因だったと思います。今度からは本当に苦しんでいる人たちのための仕事だって、覚悟、します」
「そうか…それはありがたいよ。じゃあ、次の仕事もよろしく頼む」
そう言ったまま課長さんが動かないので、どうしたのかと見上げると、思っていたのと違う表情の彼が言った。
「無理を…しなくていいんだぞ?」
「大丈夫です、今度はここまでダメージを受けないよう気をつけますから。失敗することも仕事だから想定しておいてはいただきたいですが、そうならないよう努力します」
次で3回目と経験の浅い…かどうかはこういう仕事を想像したことがなかったのでわからないが…私の仕事ぶりを不安に思っているだろう課長さんを励ますようにして、促す。
「はい、ではお願いいたします」
「わかった、じゃあよろしく」
その言葉とともに目の前が真っ白に輝いた。
お読みくださりありがとうございます。
次話から別な世界です。どうぞよろしくお願いいたします。




