11 続くと思っていた日常
よろしくお願いします。
お昼はスープ作りと、朝に仕込んでおいたベンチタイム後のパンの生地を成形して二次発酵から焼くまでを子どもたちと一緒にした。
最初の捏ねはまだ難しいのでしばらくは朝起きられた子に僕がするのを見ていてもらう。粉や何かの分量はカップ何杯分のように秤がなくてもわかるように書いておけば大丈夫だろう。でもパンよりはパスタのほうが簡単だから先だなと思った。
午後は昨日見つけた孤児院の裏手の薪置き場と井戸の間のスペースの畑を耕すことにした。雑草がたくさん生えていたので抜くところからのスタートだ。これなら小さい子もできるので働いた満足感が得られる。ドッジボールのコート半分くらいの広さをなんとか黒い土のほうが多い状態にした僕達は休憩のために台所へと移動した。
「ジェノやアリーチェがルチアたちを見てくれるから本当に助かるよ」
お茶を飲みながらそう話すとジェノもアリーチェもちょっと驚いた顔をした。そして
「私たちあまり役にたっていないと思っていたの…」
と俯いた。
ああ、草取りもそんなにたくさんはできなかったし途中で小さい子たちがどこかへ行ってしまいそうになるのをなだめて鬼ごっこやくすぐりっこをしていたのをそう思っていたのか。
「そんなことないよ、君たちが小さいルチアたちと遊んでくれていなかったら、僕やアルやヴィタは仕事にならなかったんだから、立派な働きぶりだったよ」
「そうだよ、アリーチェが鬼ごっこしてくれれば、みんな身体も丈夫になるし」
「そうそう、ジェノは歌がうまいし。昨日習った遊びも一緒に上手にしてくれて、みんなとっても楽しそうだった」
「たのちかった」
「かったー」
アルやヴィタ、小さい子たちもそんな風に言ってくれて、アリーチェもジェノも嬉しそうだった。こうしてお互いが補い合って自分たちの居場所を良いものにしていく経験を積んでいってくれればいいなと思う。
その後小さい子達はお昼寝、僕達は薪置き場に放置されていた鍬で畑を耕した。今の時期だとジャガイモやエシャロット、玉ねぎ、冬菜の類が植え付けられるねと話しながら働くのは大変だけれど希望が湧いて楽しいものだ。
リーナに種なんかを買ってきてもらうか自分が買いに行くかしよう、と考えるのもなんだか新鮮で、おそらくジーノが自分のしたいことを考えることがこれまでなかったということだろう。こういう気持ちになれる機会を増やしていけたらいい、そうやってなんていうこともない日々の暮らしを平穏に作っていくことが大切だと心から思った。
その日は頭痛はしなくて、代わりに夢を見た。それはなんだか悲しい夢だった気がするけれど、起きた時には内容は覚えていなくて、頬が涙で濡れているだけだった。
あれから…この世界に来てもう5日がたった。畑は何日かかけて耕し終えたし、勉強の方法も何となく落ち着いてきて、食事用のレシピも溜まってきた。
まだ文字が読めない子どもたちにはジーノが作りながら教えればいいし、私がドニのパン作りの腕を身につけたのと同じようにジーノもまた私の料理の腕を自分のものにしたのではないかと思うので、食事に関してはだいぶ環境が改善すると予想される。
修理が必要なところも金鎚や鋸を使いながら何とかしてきた。まさかホームセンターでのバイトがこんなにも役立つとは思っても見なかった。
野菜のこともだ。季節ごとに苗を売っていたのでそれなりにわかることも多い。なんとか近日中に植え付けをしたいところだと考え、リーナの働く診療所を見がてら街へ行ってみることにした。正直気が進まなかったのだけれど…。
夢を見た日の後の夜から、僕は徐々に軽い頭痛と共に、貴族として暮らしていた頃を思い出していた。
僕は11歳で貴族の落し胤として引き取られ教育を受け始めた。自分は貴族として生きていくのだと覚悟を決め、また引き取られた後は孤児院への支援を約束もしてもらったので、言われたことは全て頑張った。急に現れた聖女といわれる女性と婚約までさせられて。
なのに間違いだったと言われてまた急にここに戻されて、この先、何をすべきなのか、生きる目的を見失った。たぶん婚約を破棄された聖女とやらが主人公の物語なのだろうが、酷い話だ。
幸いなことに、孤児院を支援するという約束は守られ、慰謝料としての上乗せ分も合わせて結構な金額が毎月入ってくることになった。だから働くこともせず、教会で無気力に過ごしていたのだろう。
多少の買い物では金銭的に困ることはないし買い物の仕方がわからないということもない。でも、なんとなく気が進まず、いろいろ入用ではあったけれど、これまで街に行こうという気持ちにはならなかったのだ。でもこれ以上暑くなると根付く前に枯れてしまうものも多くなりそうだし、と諦めて出かけることにした。
私たちが融合したことで、ジーノの心の傷もだいぶ癒えてきたということだろう。それはジーノにとって良い変化だと思える。ここで街へ出ることでもう一歩前進できたらいいな、ぐらいに考えていた私は今思えば甘かった。
お読みくださりありがとうございました。




