10 子どもの時間
よろしくお願いします。
次の日は昼用にパン生地を捏ねた後、朝ご飯として作ったショートパスタの入った野菜スープ、スクランブルエッグ、トマトに塩と胡椒をほんの少し振ってオーブンで焼いたものを出した。
子どもたちはきれいに食べ終え、リーナとシスターも喜んでくれた。ここには一体何日いることになるんだろう、と多少心配しながら、昨日のパスタとあわせてレシピを残そうと考えた。
朝食後はいよいよ勉強だ。
「じゃあみんな、そこへ座って」
孤児院の裏手に物置から引っ張り出してきたイーゼルを立て、子どもたちを集めて丸太を並べた椅子に座らせると、僕は授業を始めた。こんなの久しぶりだ。少し緊張しながら話す。
「まず、僕達が話している言葉は文字で表すことができる。なんでもだよ」
「へ〜便利だね」
「そうなんだ。それにそこにいなくても伝言として紙に描いておけば、相手に言いたいことが伝えられるからね。でもそのためにはまずしなくてはならないことがあるんだ」
「えっ、なんだろう…」
「それは基本の文字を覚えることだよ」
「基本?」
「ああ、ここにある26文字の形と読み方を覚える。そしていつも話している、物の名前やすること、をどう書けばいいか覚える、それができたらもう大体OKだ」
「それだけ?」
「まあね、特に10歳以上の子は、普通に話せるから、それをどう読んだり書いたりするかがわかれば大丈夫。1つ1つがわかったら、他のは絵で描いてもいいし」
「絵?」
「そうだよ、例えば、これ」
僕は地面に棒でリンゴの絵を描く。黒板になる板は朝早く塗ったけどまだ乾いていないので明日以降使う。今日はイーゼルに貼り付けた一覧表と地面と棒で勉強だ。
「リンゴかな」
「リンゴだよね?」
「そうだよ、そしてこれを文字にすると、こう」
「へ〜」
何故書けるのかわからないので、これで教えるなんて変な感じだけど、仕方がない。
「そしてこれは、」
「あ、ジーノだ」
「そう、これは僕、そしてコレを足すと」
僕の横にハートマークを描く。これって全世界共通?いやゲームか小説の作成者が地球上の人なら多くがこのマークの意味を共通で使っているってことか…なんて考えているうちに、
「ジーノはリンゴが好き」
「おっと、大正解!」
「わぁっ!すごい!」
「簡単だ!」
「そう。みんなすごいね、すぐにわかっちゃうなんて。そして『好き』を表すのはこう」
文字で『好き』と書いて見せる。
「これでジーノはリンゴ好きって相手に伝わるんだ。ちなみに、僕の名前はこう書く」
地面に僕の名前を書くとみんながほうっとため息をついた。
「ジーノの名前…いいなぁ」
「かっこいい」
「名前かぁ…」
子どもたちは羨ましそうに地面に書かれた僕の名前を見つめている。僕は子どもたちに昨日のうちに作っておいた全員分の似顔絵と名前が書かれた大きめの紙を出してイーゼルに貼り付けた。
「あるよ、ほら、君たちの名前だよ」
「えっ?」
「あ、これ、僕?」
「わぁっ、こっちは私?これはアリーチェだよね?」
すぐに近くに駆け寄って来て自分や友達を指さしながらわぁわぁ言っている。気が済むまでとひとしきり話をさせてから
「さあ、どうかな?字の勉強したい?」
と問いかけた。
子どもたちはもちろんだという顔で頷いた。その後はまず一文字一文字を読んでみたり、地面に書いたりして、最後に一人ひとりに小さな似顔絵の描かれた紙を渡した。
「最初はみんな、自分の名前を書いてみようね。明日だよ」
みんなニコニコしていたけれど、アルは紙を見つめてなんだか泣きそうな顔だった。きっとこの子達はたくさん勉強するだろう。僕も嬉しくてグッとくるものがあったけど、アルの頭を撫でながらお昼にしようと声をかけた。
アルは頷いて紙を胸にギュッと抱くと、
「僕、自分のベッドにこれ置いてから行く。みんな先に行ってて!」
と笑顔で走って院の中へと駆けて行った。他の子の紙は明日勉強する時にまた渡すからねと僕が集めた。
お読みくださり、ありがとうございました。




