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十二話

「みんな、構えて」



 そう言って私は隊形を整える。

 私は《森の民》のリーダー、ネル・デッチーノ。人種はエルフ。私の所属しているパーティのメンバーもみんなエルフの女性だ。

 エルフである私たちは成長が遅く、長寿であるため10代の見た目をしている私たちも実はそれなりに歳を重ねている。ちなみに私は・・・まだ40はいってないとだけ言っておこう。一応これでもパーティ内では最年少だ。



「リーダー、準備完了です」



 そうエルフの一人が言う。



「よし、いくぞ!」



 私は駆け出す。

 このまま私は前衛として敵を引き付けながら敵の攻撃をかわす事に専念するのだ。その間に私の仲間たちが攻撃魔法や回復魔法でサポートしてくれる手はずとなっている。そして敵が疲弊し始めたら私も攻撃へと回り、得意とする細剣術で相手の体力を削る。

 これは私たち《緑の民》の定石である。

 そして今回の相手はヴェノムアイヴィ。なんてことはない。以前に何度も倒した事のあるモンスターだ。


 そして私は予定通り足と化したヴェノムアイヴィの根元まで辿り着いた。そのまま注意を自分に引き付けるために愛用している、刃が銀で出来たレイピアで適当なところに一突き入れる。

 

 ガツン


 だが純銀製のレイピアは相手に刺さることなく、鈍い音を立てた。

 

 私は何かおかしいと思った。今まで戦ったヴェノムアイヴィは自分のレイピアを弾くほどの硬度は持っていなかった。

 一体どういうことなのだろう。

 そんな不安を抱えながらも私は全神経を相手の反撃の回避に集中させる。


 すると相手は頭についている葉をばさばさと揺らし始めた。

 この攻撃パターンは何度も目で見て知っている。葉をこすり合わせることによって葉に含まれている毒を周囲に撒き散らすつもりなのだ。

 私は状態異常耐性のスキルを持っており、Lvも2なのでヴェノムアイヴィの毒を受けても平気なはず、だった。


 気がつくと私は全身をピクピクと痙攣させながら地面に倒れていた。


 視界がぼやけている。遠くで仲間が自分の名前を呼んでいるような気もするが、だんだんその声も遠ざかっていく。


 ああ私は毒にやられたのか。でも、どうして。ヴェノムアイヴィ程度の毒なら効かないはずなのに。もしかして・・・


 彼女は気付いた。自分の純銀製の細剣が弾かれたこと、状態異常耐性を持つ自分を毒状態にさせたこと。これが意味するもの、それは目の前の敵がただのヴェノムアイヴィではないということ。それもおそらくはSランクに分類されるかもしれないほどの実力を持っていると思われる。


 通常、モンスターのランク付けは冒険者とは異なり、E~SSSまでの八段階評価で表される。目安として、Bランク冒険者が単独で狩れるのがCランクのモンスター、Aランク冒険者の場合はBランクのモンスターまで、という考え方が一般的である。パーティを組んで初めて自らと同ランクの相手と渡り合うことが出来るのだ。

 そのため、SSランクやSSSランクといったモンスターは討伐が極めて難しい。Sランク冒険者が束になっても勝率はわすかしかないということからそららのモンスターは天災とされることが多い。人々はこの災害によってもたらされる被害を受け入れるしかないのだ。


 そしてこのヴェノムアイヴィを超えた存在もまた然り。もし本当にSランク以上の力を持っていたのなら、私たちに勝ち目は無い。

 私たち《森の民》は私がAランクで他のみんなはBランクだ。《ドラゴンズ・アイ》の者たちも多分同じような感じだろう。

 このままでは全員死んでしまう。

 だが、今の私に出来たのはかすむ視界で仲間たちの戦いを見届けることだけだった。








 ふははは、早速エルフが一匹毒にやられたみたいだ。毒を持つと分かっている相手に向かっていくのだからおそらく耐性か何かを持っていたのだろうが残念だったな。

 

 俺は始まったショーに、気持ちが昂ぶって来る。



「「ネル!」」



 顔面を蒼白にして仲間のエルフたちが叫んでいる。ネルと呼ばれたエルフの元に駆け寄りたいが、それが悪手であると分かっているためできないのだろう。皆、気持ちを焦らせながらも隊形を崩してはいない。



「ぶっははははは、見たかグラム?」



「ああ、何とも情けないものだな」



 またあの二人組みが何か言っている。

 俺はその声を完全に意識の外へと出す。


 本当はこいつらからハイヴェノムアイヴィにやられる予定だったのだが。証人となってもらうエルフには生き残ってもらわないとならないのだ。

  

 そんなことを思っているとハイヴェノムアイヴィの足元の土が徐々に盛り上がっていく。土の高さが2メートルを超えたあたりで中から土人形たちが姿を現す。その数は30を上回っていた。土魔法によるゴーレム生成だ。

 

 ゴーレムというものは自らの意思を持っておらず、単純な命令しかこなすことができない。その強さも体を構成する物質に大きく依存する。 今回使われた土は最も一般的な原料であり、作成されるものもゴーレムの中では最弱の部類に位置する。

 

 だが、どうやらハイヴェノムアイヴィの作った土人形たちはただのゴーレムではないようだった。2メートルほどの巨体は普遍的な大きさだ。しかし、このゴーレムたちは全身に風を纏っていた。

 俺はあの風の正体を知っている。

 やつの持っている豪風魔法、その中の上級魔法にストームアーマーというものがある。ストームアーマーとはその名のとおり、嵐の鎧を身に纏う魔法である。豪風魔法で作られたその鎧は触れた者の肉を裂き、骨を断つ。まさに攻防一体の魔法と言えよう。これを突破するためにはストームアーマーと同等以上の魔法が必要だ。


 ゴーレムたちが動き出す。半数はヴェノムアイヴィを守るためか、その足元を円形に囲んでいる。残りの半数が風系統の魔法の作用か、なかなかの速さで迫ってくる。

 俺はさり気なくエルフたちの前へと行き、右手を突き出す。



「フレイムシールド 炎盾」



 俺が使ったのは火系上級防御魔法だ。俺の右手を中心に縦3メートル、横5メートル程の火炎で出来た巨大な防壁が出現する。

 そこへ飛び込んできたゴーレムたちはストームアーマーを燃え盛る炎でかき消され、無防備となったその身は灰へと姿を変えた。


 何体かのゴーレムが灰となって散り、俺に攻撃が届かないと分かると目標をグラムたちへと変え、一斉に突撃を仕掛けていった。



 最初に犠牲になったのはオッツォだった。

 その身にゴーレムの突進を受け、ストームアーマーにより体をズタズタに切り裂かれながら20メートルほど吹き飛ばされ、肉塊となりそのまま動かなくなった。



「オッツォォォオオオオオ!」



 グラムはそう叫ぶと無謀にも嵐の鎧を纏ったゴーレムの集団に突っ込んでいく。

 彼の最後は皮肉にもオッツォと同じものとなってしまった。

 

 後に残ったのは原形をとどめない肉塊とその血で赤く染まった地面だけだった。

 

 







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