2話:ちょっと気まずい帰り道
5月が終わって6月になったころ、やっぱり私と高志はいつも通り帰ってた。
梅雨に突入して、昨日からずっと雨がしとしとと降り続けてる。私はピンクの傘を、高志は黒の傘をそれぞれにさして帰り道を歩く。
ちょっとだけ相合傘をしてみたかったりもするけど、「傘忘れちゃったー、一緒に入れてよー」みたいなこと、恥ずかしくて言いたくても言えない。
「雨の日って結構好きだったりするんだよねー。ほら、雨の日ってアジサイって晴れの日のアジサイよりきれいにみえたりするでしょ?」
「……」
どうしたのかな、高志。いつもだったらどんな話でも、聞いてなさそうでもきちんと相槌くらい売ってくれてたのに。
傘のせいで顔がきちんと見えなくて、どんな顔してるかわかんない。
あまり気にしないことにして、話を続けることにする。
「それに、雨の日にしとしととした音を聞きながら、読書するのが好きなんだ。なんでなんだろうねー、あの音聞いてるとなんか落ち着くんだよ。そうだ! 高志も……「そういや明美、先週の日曜日、3年生の先輩たちの最後の引退試合だったんだ」
私が話をしてたら、唐突に高志が遮るように話を変えた。
全然人の話を聞いてなさそうな雰囲気だったり、突然話をさえぎったり、今日の高志ってば、やっぱり何かおかしい気がする。
「うん? それがどうかしたの?」
「んでさ、キャプテンも交代することになって、明日から本腰入れて練習しようって決まったんだ」
「ふんふん、それで?」
なんとなく嫌な予感がしながらも、出来る限り普通な感じを心がけて相づちをうった。
「んでさ、基礎練習からしっかりやろうと思うと、どうしても今の練習時間だけじゃたらなくって、明日からもっと遅くまで練習しようって事になったんだ。顧問の先生も結構乗り気になってくれて、最後まで付き合ってくれるって言ってくれてさ」
「……ふーん」
やばい、今の声は普段よりあからさまにトーンが低かった。
今から何言われるか、想像がつきながらも、言わないでほしいって思いながら、次の言葉を待つ。
「でさ、明日から遅くなると思うから、悪いけど先に帰っといて」
……来た。いつか言われるかもってずっとずっと思ってたけど、考えないようにして先伸ばしにしてきた事。
別に付き合ってるわけじゃないんだから、そんな事を言われても仕方ないのだけど、それでも言われるとへこんでしまう。
「ふ、ふーん。そうなんだ。それじゃ、こうやって2人で帰ってきた帰り道も今日で最後なんだね。ま、まあ惰性で一緒に帰ってきたようなもんだもんね」
ち、違う違う。なんで私はそういうこと言ってるの!? 惰性で帰ってきたわけじゃないでしょ?
惰性だけで3年間も一緒に帰れるわけないじゃん、私の馬鹿。
時々はやっぱり合唱祭のクラスの練習だったり、大会直前の練習で、一緒に帰らなかった時もあったけど、ほぼずっとずっと一緒に帰ってきたのが惰性なわけじゃないじゃん。高志がどう思ってるのかわかんないけど、一緒に帰りたかったから帰ってきたに決まってるでしょ!
「うーん、それもそっか」
いやいやいや、同意しないでよ、高志。なんでそこ同意しちゃうの!? 相変わらず傘のせいで、高志が一体どんな顔でその言葉をしゃべったのか全然判別がつかない。
クラスも部活も違うから、この帰り道で高志と一緒にいないと、ほんとに接点がなくなっちゃう。そんなのはやだ。
「ま、まあお互いに高校入って、別々にいろんな友達できたしね。いつまでも一緒に帰ってなくてもいいかもね」
だから違う、私は何を口走ってるのほんとにもう! さっきから言いたい事と、言ってる事がめちゃくちゃになってるよもう。
私は傘を前向けに倒して、自分の顔が高志に見えないよう隠した。いったいどんな顔をして自分はしゃべってるんだろう。
「…………」
お互いに無言になる。もともと高志はよくしゃべる方じゃなかったから、私がしゃべらなくなった途端、静かな空間が出来上がっちゃった。
しとしとという雨音だけが響く。高志と歩いているときに、無言になんてなったことがないから、すごく落ち着かない。
……な、何か話をしたい。それに、今日で2人の帰り道、終わりになっちゃうんだったら、もうすこし歩いていたい。
「え、えっとね。ねえ、明日からの事はちょっと置いといて、今日はちょっと寄り道しない? なんだかちょっとマック食べに行きたくなっちゃった。ほら、高校生になったんだし、時々は寄り道してもいいんじゃないかな?」
「ええ、ちょっと無理だろ。明美んち、もう母さんが夕飯作ってまってるんじゃないか?」
「……そ、そっか。そうだよね。やっぱりだめだよね」
そう返事して、また私と高志は無言になる。しとしとと雨音だけが響く中、黙々と私と高志は帰り道を歩く。
もう……なんで私のおもってることが通じないの? 少しくらい自分の気持ちが通じてくれたっていいのに。
その後も、何か会話をしようとずっとずっと考えてたんだけど、全然浮かんでこなくって、『……あ』とか『うぅ』っていううめき声だけをあげてた私。
こんなに私はしゃべるのが苦手だったっけって思うくらい、全然しゃべれなくなっちゃった。
そのまま、私たちは何もしゃべらないまま、分かれ道についた。
「……それじゃ、またね」
そう私は言うのが精いっぱいで、それ以外の言葉は何も言えなかった。
「ああ、またな」
高志からも、たった一言返事があっただけで、そのまま私たちは別れた。
……これで、私と高志が一緒に帰る事、無くなっちゃったわけだ。
「はぁ……何で私、『これからも一緒に帰ろ』ってそれだけの事が言えなかったんだろ」
告白するわけでもなく、全然勇気がいるような一言じゃない気がするのに。たったそれだけの言葉を言う事すらできない自分に、なんだか嫌気がさす。
いつもは好きな雨も、なんだか今日だけはどんよりとした空が自分の気持ちを象徴している気がして、余計憂鬱な気分になった。




