1話:いつもの帰り道
「お待たせ高志っ、さ、帰ろっ!」
私は校門前で、1人ボーっと空を見上げて立っている高志に声をかけた。
「おお……今日もまた一段と元気だな明美は。そのありあまってる元気を分けてもらいたいよ」
「何言うの、その言い方だと私がいつもはしゃいでいるみたいじゃない。私だって落ち込んだり、へこんだり静かなときくらいあるよっ!」
「へいへい……3年間見てきてるけど、全くもってその静かな明美を見たことないな。名前の通り明るかった事ばっかな気がする」
なにおぅ。そんな訳ないじゃない。私だって悩み多き年頃なんですー。そう心の中で文句をつけ足しておいて、私と高志は帰り道を歩き出した。
ちょうど今2人とも部活が終わって、家に帰るところ。私は文芸部で高志は剣道部。部活は違うけど、大体終わる時間が一緒だから、いつも校門前で待ち合わせて帰ってるんだ。
「高志、もうクラスは慣れた?」
「んー……おんなじ剣道部のメンバーとばっかつるんでるから、クラスに慣れたかどうかって言われても微妙かなあ」
「ダメだよ高志ー。もっと社交的にならないとっ! ほら、目標は友達100人!」
「小学生かっ」
「えっ、もう高校生だよ? 何言ってるの高志」
「わかってるよっ! 嫌味通じろよっ」
そんな嫌味をまともに受け取ったってしょうがないでしょ。
私と高志は現在高校1年生。通っている第一高校は、家から徒歩で30分くらいのところにある。
私と高志はご近所さんで、中学校1年生の時に、高志がうちの中学校に転校してきた。以来、いつも一緒に帰ってる。
よく友達に付き合ってるんでしょって言われるけど、残念ながらそういう訳じゃないんだよね。登下校を前々から一緒に行き帰りしてるだけっていう、それだけの関係。
付き合っちゃいなよーって言われることも時々あるし、時々そんな関係を想像したりもするけど、今のままの関係で十分満足しているから、それでいい。
時刻は17時半。5月のゴールデンウィークが終わったばかりのこの時期ならまだまだ明るい時間帯。そんな中、私と高志はてくてくと歩く。
部活が終わるの、ちょっと早いかもって思うこともあるけど、こうやって高志と一緒に帰ることができるから満足だ。
「私は既にメルアド20人と交換したよー。すごいでしょ!」
「はいはい、すごいすごい。明美はすごいなー」
そう言いながら、高志はあさっての方向を向きながらおざなりに拍手をし始める。
「むう、今高志馬鹿にしたでしょ!?」
「してないしてない。すごいって思ったよー」
いや、今の口調は明らかに馬鹿にした口調だ。だって、顔がにやけてる。『そんなことエッヘンって顔で自慢しちゃってるよ』みたいな顔、高志してるもん。
「そう言う高志は何人とメルアド交換したのよ!?」
なんとなく腹が立ったので、高志に矛先を向けた。
「や、別にいちいちカウントしてないからわからんけど……んーと、4人くらいだったかな」
「全然交換してないじゃん。それって剣道部の部活仲間だけなんじゃないの?」
「ん、多分」
「『ん、多分』じゃないっ! もっと交友関係広めようよ高志ー。せっかくの華の高校生だよ! いろいろと楽しまないと」
「別に自分自身には華があるわけじゃないしなあ。別にこれはこれで、十分楽しんでるぞ。不満があるって言ったら、高3の部活の先輩が不真面目で、まだ明るいのにさっさと部活が終わっちゃうことくらいか。高2の先輩は真面目な人ばっかだから、高3の先輩が引退すると、一気に部活が引き締まるとは思うんだけどなあ。あ、そうそう! 高2の先輩に1人めっちゃ強い先輩がいてさ。昨日ちょっと打ち合ったんだけど、全然歯が立たなかったんだ。きっとあの先輩がキャプテンになるんだろうけど、そうしたらきっとすげえ強いチームになる気がする。――」
あ、高志の剣道談義が始まった。これが始まるとなかなか終わらない。
中学校の頃から剣道一筋でやってきて、その話になると1時間でも2時間でも延々と話し続けられる。
私は今まで剣道をやってきたことなかったから、高志の話、聞いていても半分くらいわかんない言葉が出てきたりする。ずっとずっと聞いて、ようやく簡単なルールが分かるようになったくらい。
それでも、剣道の話をしてる時の高志って、なんとなく生き生きしてて楽しそうだから、そんな高志の話を聞いているのは、とても好きだったりする。
「んでな……って明美? 俺の話、聞いてたか?」
「聞いてるよっ。もちろんもちろん」
やっぱり半分くらい、何言ってるかちんぷんかんぷんだったけど。
「ほんとかなあ。結構明美って俺の話聞き流すこと多いし」
「それ、高志にだけは言われたくないなー。この前だって、私が言ったこと、全然聞く耳持ってくれなかったじゃない」
「聞いてたよっ! この前だって1時間くらい、ずっと明美の話聞いてたじゃんかっ」
「聞くだけじゃ聞く耳持つって言わないよ、高志の馬鹿っ!」
「……あれっ、そうだったっけ?」
「そうだよっ、聞く耳持つって言うのは、『相手の意見を取り入れる気持ちがある』って事だよ。今高志ってば、最初っから高志、聞くだけ聞いて、私の提案を聞く気がなかったもん!」
まさか1時間、だまって聞いていれば、聞く耳を持つ事になるって思ってるとは……高志のやつ、恐るべしだ。
「や、だって仲良い奴以外とはつるむつもりないしな。わざわざ気に入らない人と話すんのって疲れるじゃん」
そうやって交友関係狭めちゃダメって思うんだけど。こんなに力説しても、何も変えるつもりがないんじゃ何言ってもしょうがないかも。
「それに、いろんな人と友達になると、こうやって明美と帰れんくなるかもだしな」
……突然ドキッとするようなこと言うな高志。そういうドキッとするセリフは、しっかり心の準備をもって聞かないと、すぐに反応できないじゃない。
もう。高志がどんな顔をしていったのかわからないけれど、私の顔は高志のそのたった一言で、きっと真っ赤になっている。それくらい顔が熱い。
「…………はぁ、ほ、ほんと高志ってば仕方ないなあ」
努めて平静に言ったつもりだったのに、ところどころ詰まってしまった。高志に私が慌ててること、ばれてないかな。
何か新しい話題を、ときょろきょろと辺りを見回した時、ちょうどタイミングよく自分の家が見えてきた。
「あ、えっと。そろそろ家だね。それじゃ、また明日ねっ! 高志!」
「ほいほい、また明日な。明美」
そう言って私は高志と別れた。別れ際、ちらっと高志の顔を見たけど、何の気もない顔をしてた。まったくもう、なんか不公平だ。
高志と帰る道は、笑って怒って、そしてまた笑って、他愛ない話ばっかしてる。
別に何か特別な事を話したりするわけじゃないけど、とても楽しい。これが私のいつもの帰り道。




