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比較不能 ―《比較解析》の少年と、正解のない世界  作者: たんぱくしつ
第四章 合同実習

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習性

リグナが地面を蹴った。


大きく後ろへ跳び、レオとの距離を一気に広げる。


着地すると、背中の杭が持ち上がった。


 「レオ、右!」


シオンの声に、レオが跳ぶ。


直後、杭が石床を砕いた。


 「くっそ……!」


転がるように着地したレオが、すぐに立ち上がる。


けれど、その動きが少しだけ遅かった。


右足。


ほんのわずかに、踏み込みが浅い。


長く動き続けている。


《加速》も何度か使った。


このまま続けるのはまずい。


シオンはリグナを見る。


攻撃は避けられるようになった。


けれど、こちらの攻撃は通らない。


レオの拳でも駄目だった。


ロディスは動けない。


ノアはそのそばを離れられない。


ミレイアも、飛んでくる杭を逸らすので手いっぱいだ。


何かないのか。


シオンの視線が地面を走る。


砕けた石。


壊れた振り子。


壁に突き刺さった杭。


そして、ノアたちの近くにも何本か転がっている。


 「レオ!」


 「なんだ!」


 「そこに落ちてる杭!」


レオが視線を落とした。


少し離れた場所に、リグナが撃った杭が一本転がっている。


レオが駆け寄り、片手で掴んだ。


持ち上げた瞬間、その眉が上がる。


 「……軽い」


もう一度、持ち直す。


 「見た目より、全然」


長さはレオの腕ほどある。


石壁に深く突き刺さったものと同じ杭なのに、片手でも振れる。


レオがリグナを見た。


 「これなら投げられる!」


 「レオ、待っ――」


腕が振られた。


杭が飛ぶ。


リグナが身体をずらす。


先端が外殻をかすめ、そのまま後方へ飛んでいった。


乾いた音がした。


リグナが止まる。


外殻に、細い傷が残っていた。


 「……傷ついた」


ミレイアが呟く。


シオンも見ていた。


レオの拳では傷一つつかなかった。


けれど、あの杭なら。


浅くても、外殻を傷つけられる。


リグナが低く身を沈めた。


シオンはその脚を見る。


左右。


今、どちらに力がかかっている。


 「左!」


三人が動く。


リグナが飛び出し、すぐに向きを変えた。


背中の杭が持ち上がる。


シオンはその姿を見た。


さっき。


レオが近づいた時、撃たなかった。


大きく後ろへ跳んだ。


距離を取ってから、撃った。


偶然かもしれない。


確かめる。


 「シオン?」


ミレイアがこちらを見る。


 「試したいことがある」


 「何を?」


シオンはリグナから目を離さなかった。


 「僕が近づく」


 「は?」


レオが振り返る。


 「お前、何言ってんだよ」


 「確かめたい」


 「だからって――」


背中の杭が動いた。


シオンは走った。


 「シオン!」


リグナへ向かって、真っ直ぐに。


距離が縮まる。


リグナの背中で、杭が止まった。


撃たない。


前脚が沈む。


後ろへ力が移る。


リグナが地面を蹴った。


速い。


シオンが思っていたよりも、一気に距離が開く。


着地した瞬間、背中の杭が持ち上がった。


 「っ!」


シオンが横へ跳ぶ。


直後、さっきまで立っていた場所に杭が突き刺さった。


石片が足元まで飛んでくる。


危なかった。


離れることまでは読めても、その速さまでは分からない。


 「シオン!」


レオが駆け寄ってくる。


 「いきなりやるなよ!」


 「ごめん」


 「ごめんじゃねえ!」


怒鳴りながらも、レオはシオンの前に立った。


シオンはその肩越しにリグナを見る。


二度目。


杭を撃つ直前に近づいた。


そして、また撃たずに離れた。


偶然ではなさそうだった。


 「レオ」


 「今度はなんだよ」


シオンは地面に落ちている別の杭を指した。


 「それ、持って」


 「また投げんのか?」


 「今度は投げない」


レオが杭を拾う。


 「じゃあどうすんだ?」


シオンはリグナの脚を見た。


 「刺す」


レオが杭を見る。


それから、リグナを見る。


 「……近づけってこと?」


 「僕が近づく」


 「またかよ」


 「たぶん、あいつは離れる」


シオンは続けた。


 「どっちに跳ぶか見る。レオはそこを狙って」


レオの表情が変わる。


 「着地するところか」


 「少し横で待って。真下は危ない」


 「分かった」


レオが杭を握り直す。


ミレイアが二人を見る。


 「私も行く」


 「ミレイアは杭を見てて」


 「でも――」


 「飛んできたらお願い」


ミレイアは一瞬だけ黙り、頷いた。


 「……分かった」


シオンが前へ出る。


リグナの頭が動いた。


こちらを見る。


一歩。


もう一歩。


背中の杭が持ち上がる。


まだ。


シオンは走る。


距離が縮まった。


リグナの前脚が沈む。


後ろへ。


けれど、真後ろではない。


左右を比べる。


今、強く地面を押しているのは――。


 「レオ、右!」


リグナが跳んだ。


斜め後方へ。


その先に、レオがいる。


真正面ではない。


着地点から少し外れた場所。


リグナの身体が落ちてくる。


 「《加速》!」


レオが踏み込んだ。


一瞬で距離を詰める。


両手で握った杭を、外殻の隙間へ突き出した。


硬い音。


次の瞬間、杭の先端が食い込んだ。


 「っ!」


レオの腕が押し戻される。


それでも離さない。


着地しようとするリグナの身体が、杭へ重なる。


さらに先端が沈んだ。


甲高い声が響く。


リグナが身体を振った。


 「レオ、離れて!」


レオが杭から手を放し、横へ跳ぶ。


リグナの脚が石床を抉った。


杭が刺さっている。


深くはない。


けれど、外殻の内側まで届いている。


初めてだった。


リグナが明確に傷を負った。


 「いける……!」


レオが笑う。


その瞬間、リグナが吠えた。


空気が震える。


背中の杭が動く。


一本。


間を置かず、もう一本。


 「伏せて!」


シオンが叫ぶ。


 「《偏向》!」


ミレイアが腕を振る。


一つが逸れ、壁を叩く。


もう一つが石床を砕いた。


さらに、背中で次の杭が持ち上がる。


 「こいつ……さっきより速くねえか!」


レオが走る。


右足が、一瞬だけ遅れた。


シオンは見逃さなかった。


レオも気づいたのか、顔をしかめる。


もう長くは続けられない。


もう一度、同じ形を作る。


シオンが前へ出ようとした。


その前に、杭が放たれた。


 「っ!」


横へ跳ぶ。


杭が背後の石壁へ突き刺さった。


次が持ち上がる。


近づく時間がない。


さっきまでとは違う。


傷を負ってから、攻撃の間が短くなっている。


 「シオン!」


ミレイアが叫ぶ。


また杭が来る。


シオンは避ける。


レオも動く。


ミレイアが逸らす。


その向こう。


石壁の陰で、エルナがロディスの傷を押さえている。


ノアの手は、その上から離れていない。


《固定》。


血は広がっていない。


けれど、ノアの指が震えていた。


それでも離さない。


シオンはリグナを見る。


レオを見る。


ミレイアを見る。


そして、ノアを見る。


三人だけでは足りない。


避けるだけでも。


傷をつけるだけでも。


倒せない。


シオンは息を吸った。


必要なのは、もう一人だった。

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