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比較不能 ―《比較解析》の少年と、正解のない世界  作者: たんぱくしつ
第四章 合同実習

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リグナがレオを追う。


シオンはその脚を見ていた。


左右。


比べる。


細い線が浮かぶ。


傾く。


 「レオ、右へ!」


 「おう!」


レオが右へ跳ぶ。


その直後、リグナの身体が反対側へ踏み込んだ。


背中の杭が持ち上がる。


身体がわずかに沈む。


 「伏せて!」


レオが身体を落とした。


杭がその上を抜け、石床へ突き刺さる。


 「うおっ!」


レオはすぐに立ち上がった。


 「こっちだ!」


リグナが再びレオを追う。


シオンは後ろを見る。


エルナがロディスの身体を支えていた。


ノアは傷口に押し当てた布から手を離していない。


その前にミレイアが立っている。


このままでは動けない。


シオンは周囲を見る。


崩れた壁の近く。


大きな石材が斜めに残り、その奥に人が入れそうな隙間がある。


 「エルナ!」


エルナが顔を上げる。


 「あそこまで動ける?」


シオンが石材の陰を指す。


エルナが一度だけ確認する。


 「ロディス、立てる?」


 「ああ」


ロディスが脇腹を押さえたまま立ち上がった。


ノアも手を離さずについていく。


 「ミレイア、お願い!」


 「分かった!」


ミレイアが三人の前へ出る。


その間にも、レオはリグナから距離を取っていた。


リグナの脚を見る。


左右。


比べる。


線が傾く。


 「レオ、左へ!」


レオがすぐに左へ跳ぶ。


次の瞬間、リグナが反対側へ踏み込んだ。


 「ほんとに分かんのかよ!」


 「まだ分からない!」


 「どっちだよ!」


シオンは答えず、リグナを見る。


杭が持ち上がる。


身体がわずかに沈む。


 「伏せて!」


レオが身体を落とした。


杭が頭上を抜ける。


 「今のは先に言え!」


 「今言った!」


 「もっと先!」


 「それは分からない!」


レオが走りながら笑った。


シオンはもう一度後ろを見る。


ロディスたちが石材の陰へ入る。


外からは身体のほとんどが見えない。


エルナがロディスを座らせた。


ノアもその隣に膝をつく。


手はまだ傷口に触れたままだ。


 「ノア、そのままでいて!」


 「うん!」


ノアが答える。


ミレイアがこちらへ走ってきた。


 「何を見てるの?」


 「脚」


 「脚?」


 「動く前に、左右で受けてる力が変わる」


ミレイアがリグナを見る。


 「それで、どっちに動くか分かるの?」


 「たぶん」


シオンは首を振る。


 「違う。動こうとしてる方が分かるだけ」


リグナが向きを変える。


比べる。


線が傾く。


 「左へ!」


シオンとミレイアが左へ走る。


直後、リグナが反対側へ踏み込んだ。


黒い身体が二人の横を通り過ぎる。


 「……本当に来た」


 「今のは合ってた」


 「今のは?」


 「まだ何回か見たい」


ミレイアが少しだけ目を見開いた。


 「こんな時でも?」


 「こんな時だから」


リグナが止まる。


向きを変える。


今度はシオンたちを見る。


背中の杭が動いた。


シオンは身体を見る。


杭を飛ばす前。


どこが先に動く。


どこに力がかかる。


 「右へ!」


二人が右へ走る。


杭が横を抜けた。


続けてもう一本。


ミレイアが杭を見る。


これまでに何度も見た軌道だった。


飛んでくる速さも、少しずつ目が追えるようになっている。


 「ミレイア!」


 「《偏向》!」


左手首に祝紋が浮かぶ。


杭の軌道がわずかに逸れる。


二人の横を抜け、床を削った。


ミレイアが息を吐く。


 「……さっきより、見える」


レオが戻ってくる。


息が少し上がっていた。


 「俺にも教えろ!」


 「僕が言った方に動いて!」


 「分かった!」


リグナが三人を見る。


左右。


比べる。


線が傾く。


 「左へ!」


三人が左へ動く。


リグナが反対側へ踏み込む。


避ける。


向きを変える。


また比べる。


 「右へ!」


三人が右へ走る。


リグナが横を通り過ぎる。


杭が持ち上がる。


 「伏せて!」


三人が身体を落とす。


杭が頭上を通る。


さっきまでとは違う。


速さが変わったわけじゃない。


リグナが遅くなったわけでもない。


それでも、動き始める前に少しだけ時間ができる。


シオンには未来は見えない。


今、どちらに力がかかっているのか。


今、どこが動こうとしているのか。


それだけだった。


 「いける」


レオが言った。


避けるだけなら。


リグナが再び踏み込む。


 「右へ!」


三人が避ける。


リグナの身体が横を通り過ぎた。


レオが振り向く。


 「だったら――」


祝紋が浮かぶ。


 「こっちからもいける!」


 「レオ!」


《加速》。


レオの身体が一気に前へ出た。


リグナの側面へ回り込む。


握った拳を黒い身体へ叩きつけた。


鈍い音がした。


レオの顔が歪む。


 「いってぇ!」


すぐに離れる。


リグナが振り向く。


その身体には、傷らしいものさえ見えない。


 「硬っ……!」


レオが拳を押さえながら距離を取る。


 「エルナ!」


シオンが石材の陰へ声を飛ばす。


 「リグナって、何?」


少し間があった。


 「硬い外殻を持つ魔獣よ!」


エルナの声が返る。


 「普通の刃でも簡単には通らない!」


 「どこも?」


 「関節や外殻の薄い場所なら可能性はある! でも狙うのは――」


リグナが踏み込む。


 「左へ!」


三人が避ける。


黒い身体が通り過ぎる。


 「――簡単じゃないわ!」


レオが自分の拳を見る。


 「先に言ってくれよ!」


 「殴る前に聞きなさい!」


エルナの声が返ってきた。


 「それはそうだけど!」


リグナがレオへ向き直る。


背中の杭が持ち上がった。


レオがそれを見る。


 「またそれかよ」


さっき殴った拳を握る。


 「撃つ前に止めりゃいいだろ!」


 「レオ!」


祝紋が浮かぶ。


《加速》。


レオが一気に距離を詰める。


その瞬間。


リグナが地面を蹴った。


黒い身体が大きく後ろへ跳ぶ。


 「え?」


レオの拳は届かない。


大きく距離が開く。


リグナが着地する。


背中の杭が、もう一度持ち上がった。


 「レオ、右へ!」


レオが右へ跳ぶ。


杭が横を抜け、石床へ突き刺さった。


シオンはリグナを見た。


今の動き。


杭を飛ばす直前に、レオが近づいた。


すると、撃たずに離れた。


距離を取ってから、もう一度撃った。


偶然かもしれない。


まだ分からない。


シオンはそれを頭に残した。


動きは少しずつ読めるようになってきた。


攻撃も避けられる。


でも。


こちらの攻撃は通らない。


リグナの背で、次の杭が持ち上がる。


シオンはその動きを見た。


避ける方法だけでは、ここから出られない。

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