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リグナがレオを追う。
シオンはその脚を見ていた。
左右。
比べる。
細い線が浮かぶ。
傾く。
「レオ、右へ!」
「おう!」
レオが右へ跳ぶ。
その直後、リグナの身体が反対側へ踏み込んだ。
背中の杭が持ち上がる。
身体がわずかに沈む。
「伏せて!」
レオが身体を落とした。
杭がその上を抜け、石床へ突き刺さる。
「うおっ!」
レオはすぐに立ち上がった。
「こっちだ!」
リグナが再びレオを追う。
シオンは後ろを見る。
エルナがロディスの身体を支えていた。
ノアは傷口に押し当てた布から手を離していない。
その前にミレイアが立っている。
このままでは動けない。
シオンは周囲を見る。
崩れた壁の近く。
大きな石材が斜めに残り、その奥に人が入れそうな隙間がある。
「エルナ!」
エルナが顔を上げる。
「あそこまで動ける?」
シオンが石材の陰を指す。
エルナが一度だけ確認する。
「ロディス、立てる?」
「ああ」
ロディスが脇腹を押さえたまま立ち上がった。
ノアも手を離さずについていく。
「ミレイア、お願い!」
「分かった!」
ミレイアが三人の前へ出る。
その間にも、レオはリグナから距離を取っていた。
リグナの脚を見る。
左右。
比べる。
線が傾く。
「レオ、左へ!」
レオがすぐに左へ跳ぶ。
次の瞬間、リグナが反対側へ踏み込んだ。
「ほんとに分かんのかよ!」
「まだ分からない!」
「どっちだよ!」
シオンは答えず、リグナを見る。
杭が持ち上がる。
身体がわずかに沈む。
「伏せて!」
レオが身体を落とした。
杭が頭上を抜ける。
「今のは先に言え!」
「今言った!」
「もっと先!」
「それは分からない!」
レオが走りながら笑った。
シオンはもう一度後ろを見る。
ロディスたちが石材の陰へ入る。
外からは身体のほとんどが見えない。
エルナがロディスを座らせた。
ノアもその隣に膝をつく。
手はまだ傷口に触れたままだ。
「ノア、そのままでいて!」
「うん!」
ノアが答える。
ミレイアがこちらへ走ってきた。
「何を見てるの?」
「脚」
「脚?」
「動く前に、左右で受けてる力が変わる」
ミレイアがリグナを見る。
「それで、どっちに動くか分かるの?」
「たぶん」
シオンは首を振る。
「違う。動こうとしてる方が分かるだけ」
リグナが向きを変える。
比べる。
線が傾く。
「左へ!」
シオンとミレイアが左へ走る。
直後、リグナが反対側へ踏み込んだ。
黒い身体が二人の横を通り過ぎる。
「……本当に来た」
「今のは合ってた」
「今のは?」
「まだ何回か見たい」
ミレイアが少しだけ目を見開いた。
「こんな時でも?」
「こんな時だから」
リグナが止まる。
向きを変える。
今度はシオンたちを見る。
背中の杭が動いた。
シオンは身体を見る。
杭を飛ばす前。
どこが先に動く。
どこに力がかかる。
「右へ!」
二人が右へ走る。
杭が横を抜けた。
続けてもう一本。
ミレイアが杭を見る。
これまでに何度も見た軌道だった。
飛んでくる速さも、少しずつ目が追えるようになっている。
「ミレイア!」
「《偏向》!」
左手首に祝紋が浮かぶ。
杭の軌道がわずかに逸れる。
二人の横を抜け、床を削った。
ミレイアが息を吐く。
「……さっきより、見える」
レオが戻ってくる。
息が少し上がっていた。
「俺にも教えろ!」
「僕が言った方に動いて!」
「分かった!」
リグナが三人を見る。
左右。
比べる。
線が傾く。
「左へ!」
三人が左へ動く。
リグナが反対側へ踏み込む。
避ける。
向きを変える。
また比べる。
「右へ!」
三人が右へ走る。
リグナが横を通り過ぎる。
杭が持ち上がる。
「伏せて!」
三人が身体を落とす。
杭が頭上を通る。
さっきまでとは違う。
速さが変わったわけじゃない。
リグナが遅くなったわけでもない。
それでも、動き始める前に少しだけ時間ができる。
シオンには未来は見えない。
今、どちらに力がかかっているのか。
今、どこが動こうとしているのか。
それだけだった。
「いける」
レオが言った。
避けるだけなら。
リグナが再び踏み込む。
「右へ!」
三人が避ける。
リグナの身体が横を通り過ぎた。
レオが振り向く。
「だったら――」
祝紋が浮かぶ。
「こっちからもいける!」
「レオ!」
《加速》。
レオの身体が一気に前へ出た。
リグナの側面へ回り込む。
握った拳を黒い身体へ叩きつけた。
鈍い音がした。
レオの顔が歪む。
「いってぇ!」
すぐに離れる。
リグナが振り向く。
その身体には、傷らしいものさえ見えない。
「硬っ……!」
レオが拳を押さえながら距離を取る。
「エルナ!」
シオンが石材の陰へ声を飛ばす。
「リグナって、何?」
少し間があった。
「硬い外殻を持つ魔獣よ!」
エルナの声が返る。
「普通の刃でも簡単には通らない!」
「どこも?」
「関節や外殻の薄い場所なら可能性はある! でも狙うのは――」
リグナが踏み込む。
「左へ!」
三人が避ける。
黒い身体が通り過ぎる。
「――簡単じゃないわ!」
レオが自分の拳を見る。
「先に言ってくれよ!」
「殴る前に聞きなさい!」
エルナの声が返ってきた。
「それはそうだけど!」
リグナがレオへ向き直る。
背中の杭が持ち上がった。
レオがそれを見る。
「またそれかよ」
さっき殴った拳を握る。
「撃つ前に止めりゃいいだろ!」
「レオ!」
祝紋が浮かぶ。
《加速》。
レオが一気に距離を詰める。
その瞬間。
リグナが地面を蹴った。
黒い身体が大きく後ろへ跳ぶ。
「え?」
レオの拳は届かない。
大きく距離が開く。
リグナが着地する。
背中の杭が、もう一度持ち上がった。
「レオ、右へ!」
レオが右へ跳ぶ。
杭が横を抜け、石床へ突き刺さった。
シオンはリグナを見た。
今の動き。
杭を飛ばす直前に、レオが近づいた。
すると、撃たずに離れた。
距離を取ってから、もう一度撃った。
偶然かもしれない。
まだ分からない。
シオンはそれを頭に残した。
動きは少しずつ読めるようになってきた。
攻撃も避けられる。
でも。
こちらの攻撃は通らない。
リグナの背で、次の杭が持ち上がる。
シオンはその動きを見た。
避ける方法だけでは、ここから出られない。




