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比較不能 ―《比較解析》の少年と、正解のない世界  作者: たんぱくしつ
第四章 合同実習

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Solve

 「伏せろ!」


ロディスの声に、シオンは身体を落とした。


杭が頭上を抜ける。


石壁にぶつかり、硬い音が響いた。


シオンは顔を上げる。


まともに当たれば、防具では防げない。


 「出口から離れろ! 広い方へ!」


ロディスが叫ぶ。


エルナがその身体を支えた。


ロディスが一歩踏み出す。


その身体がわずかに傾く。


脇腹を押さえた手の下から、血が滲んでいた。


ミレイアは動かなかった。


ロディスの脇腹を見たまま、立ち尽くしている。


 「ミレイア!」


シオンが呼ぶ。


肩が跳ねた。


 「……っ、うん」


ミレイアが息を吸う。


もう一度リグナを見た時には、その目は前を向いていた。


壁の向こうから、リグナが完全に姿を現す。


硬そうな黒い身体。


その背には、まだ何本もの杭が残っている。


一本が持ち上がった。


続いて、もう一本。


 「来るぞ!」


ロディスの右肩から腕へ、三重の弧が浮かぶ。


杭が放たれる。


 「《減衰》!」


飛んできた杭の勢いが鈍る。


 「ミレイア!」


 「《偏向》!」


左手首に祝紋が浮かぶ。


杭の軌道が逸れた。


シオンたちの横を抜け、石床へ突き刺さる。


すぐに次が来た。


ロディスが《減衰》する。


ミレイアが逸らす。


黒い杭がノアの後ろへ落ち、石床を削った。


もう一本。


 「《減衰》……!」


ロディスの身体が揺れる。


 「《偏向》!」


杭が斜めに逸れ、壁際へ突き刺さった。


 「ロディス!」


エルナが身体を支える。


脇腹を押さえた手の下から、また血が滲んでいた。


シオンはその血を見る。


 「ノア!」


 「なに?」


 「ロディスの血、止められない?」


ノアがロディスを見る。


 「……やってみる」


エルナが傷口へ布を押し当てる。


ノアがその上から手を添えた。


祝紋が浮かぶ。


 「《固定》」


布に広がっていた赤が止まった。


ノアが目を見開く。


 「……止まった」


 「そのまま」


ノアが頷く。


傷が治ったわけじゃない。


それでも、血が広がるのは抑えられている。


リグナが一歩進んだ。


ミレイアがノアたちの前へ出る。


ロディスも顔を上げた。


けれど、脇腹を押さえたままだ。


ノアもロディスから手を離せない。


リグナの背で、また杭が動く。


ロディスの祝紋が浮かぶ。


ミレイアが構える。


レオがリグナを見る。


それから、シオンを見た。


 「シオン」


 「なに?」


 「俺が囮になる」


 「レオ?」


 「こいつは俺が引きつける」


レオが足を引く。


 「その間に考えろ」


少しだけ笑った。


 「こういうの、お前の方が得意だろ」


シオンはロディスを見る。


ノアはその場を離れられない。


床には、逸らされた黒い杭が何本も残っていた。


待っているだけでは、ロディスがもたない。


シオンはレオを見る。


 「無理しないで」


 「分かってる」


レオが笑う。


 「必要な時だけだろ」


そのまま駆け出した。


 「おい! こっちだ!」


リグナの身体がレオへ向く。


背中で杭が動いた。


レオはまだ《加速》を使わない。


杭が放たれる。


その瞬間。


レオの祝紋が浮かんだ。


身体が一気に前へ出る。


杭が背後の石床を叩いた。


 「こっちだ!」


レオがさらに離れる。


リグナが追う。


シオンは、リグナの動きを見続けた。


杭を飛ばす前。


向きを変える前。


その直前に、何が変わる。


どこを見る。


何を比べる。


リグナがレオを追って向きを変えた。


その瞬間。


身体が、わずかに沈んだ。


シオンの視線が脚へ落ちる。


左右。


比べる。


細い線が浮かぶ。


傾いた。


右。


右脚の方が、今、大きな力を受けている。


次の瞬間。


リグナの身体が左へ向いた。


シオンの目が細くなる。


今のは。


もう一度。


 「シオン!」


ノアの声が飛ぶ。


リグナがこちらを向いていた。


背中で杭が動く。


シオンは走った。


杭が放たれる。


横へ跳ぶ。


すぐ後ろで石が砕けた。


心臓が強く鳴る。


当たれば終わる。


それでも、シオンはリグナから目を離さなかった。


リグナが再びレオへ身体を向ける。


脚を見る。


左右を比べる。


線が傾く。


そのあとで、身体が動く。


未来は分からない。


次に何をするのかも、《比較解析》には分からない。


でも、動く前に脚にかかる力は変わる。


それなら、比べられる。


シオンは息を整えた。


リグナが一歩進む。


その脚を見る。


もう一度、比べる。

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